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リバース・イノベーションを妨げる要因と乗り越え方とは――今こそ、リバース・イノベーション #3

投稿日:2024/03/21更新日:2024/03/29

従来先進国で生まれるものとされてきたイノベーション。だが現在、新興国を発祥としたイノベーションを先進国に「逆輸入」し、普及させるという新しいイノベーション手法、「リバース・イノベーション」に注目が集まっている。
本連載では、このリバース・イノベーションとは何か?また日本においてリバース・イノベーションを取り入れることの有効性や、取り入れるための難所について考える。

※本稿はグロービス経営大学院に在籍したメンバーが、小川智子講師の指導の下で進めた研究プロジェクトについて、その研究結果をまとめたものです。

前回はこちら

リバース・イノベーションの認知度はまだまだ低い

前回ご紹介したアンケートで、日本企業の勤務者に対してリバース・イノベーション(以下RI)の認知や実施状況について確認した。すると、約3割がRIを初めて聞き、実施はアンケート回答者の所属する企業の15%程度にとどまっており、認知も実例も少ないことが分かった。
また、RIを検討しても実現できない(あるいは実現できない可能性のある)理由として「採算性の社内説明が難しい」「組織構造や文化により推進しにくい」「適任者がいない」「製品の特性上必要ない」が課題として挙がった。

そこでRIを実施した企業に、世界共通の製品や販売手法であるなどのRIが必要のない「製品上の特性」以外の要素である「採算性の社内説明が難しい」「組織構造や文化により推進しにくい」「適任者不足」について、「RIを遂行する上で課題となったか」「課題であった場合、どのように乗り越えた、あるいは乗り越えているか」をヒアリングした。
RIを実施した企業勤務者6名に、それぞれの勤務先6社で実際に課題があったのか、課題であった場合、具体的にどのように乗り越えたかについて定性インタビューを行った。その結果サマリーは以下のとおりである。

リバース・イノベーション実施のため、課題をどう乗り越えるか

6社全ての企業で、何も対策を取らない場合は、上記は課題となりうる(対策をとっているため実施できている)という回答があった。
個人の裁量では難しい組織構造や適任者については組織的に、それ以外では現場で工夫をすることで乗り越えていた。

「採算性の社内説明が難しい」

「新興国導入時からグローバル展開を想定し、日本での事業単体で採算性を問わない」「将来の売上・黒字化などで新規事業承認をとらない」などの工夫をしていた。

事業化の承認については、確かに難しい。しかし、RIで生まれる提供価値が自社の他領域のイノベーションとなりうる理由を丁寧に説明することで理解が得られ、承認を得ていた。例は以下の通り。

  • 『売上やシェアなど「従来事業基準の採算性」ではなく、ミッション・ビジョンに合致しているかなど「新たな評価軸」を設定』した
  • 途上国市場でも採算性が期待できないビジネスアイデアを持つ企業があった。これに対し、のちに先進国市場へも展開することを想定し、グローバルイノベーションとして実施することで採算性の課題を解決した
  • 採算性以外で事業検討してくれる投資先を見つけた。社内のVC的なスキームを活用した

「組織構造や文化により推進しにくい」

6社とも、RIを推進できなかった企業と比較して、経営陣によるサポート、新興国のノウハウを意図的に本社などにも取り込む人事や組織、など海外の事業アイデアを展開しやすい組織であることが分かった。

<組織文化の側面>

新興国事業は、本社から下に見られたり、新興国の担当者が、本社で生かせそうな情報を共有することが少なかったりなど課題はある。その点を乗り越えるために、新興国ビジネスに、意図的にエース級・幹部候補人材を配置させており、新興国の情報や知見を本社に取り込みやすい組織は、結果RIの事業推進もしやすいようである。

  • 将来の幹部候補の育成の一環で、RI未実施企業では既存の主力事業に取られがちなエース級人材を新興国ビジネスに配置しており、新興国事業やRIへの理解がある
  • グローバル市場をフラットに捉え、どんな国の事業でも、良いアイデアであれば採用するような文化がある
  • 日ごろから新興国市場の成長力をチャンスとして「実証実験の場」などに活用している

<組織構造の側面>

  • RI事業を別会社/別組織化により既存事業から切り離した
  • 社長や役員など一部の経営層の強力なサポートが存在する組織でRIを推進した
  • 新興国から日本含むグローバルに展開するプロジェクト を当初から計画していた
  • 現場レベルの情報共有に留まらない組織的な横展開の仕組みを作成した

「適任者がいない」

この課題をどう対処するかに関しては、6社の動きから以下のような事例が見られた。

  • 新興国ビジネスの経験を持った人材を、先進国でのイノベーション担当に抜擢。けん引してもらった
  • 先進国側(例えば日本)で適する人材がいない場合、新興国で開発を担当していた当事者が先進国においても中心となり、開発者との情報交換や顧客情報の連携を取るなどを密に行うことで、事業展開を実現させた
  • 部門間の異動や研修などグローバル感覚を育てるシステムで適任者を育成した

リバース・イノベーションを実施する企業の共通点

6社についてインタビューを通じ、以下のような共通点があると考察できる。

  • 組織全体での取り組み
  • イノベーションを興しやすい、興すことが推奨される風土
  • グローバル視点を持ち、新興国の可能性を理解する

RIを実施した企業は、RIを実施していない企業が懸念していた難所、特に組織構造や文化、人材に関して組織全体で取り組んでいた。その中で、事業化への理解やコミュニケーションなどの課題については、推進するなかで現場が乗り越える工夫をしていた
もう1点、課題の乗り越え策の多くは、一般的なイノベーション推進組織や社内イノベーターに推奨される要素であり、イノベーションを興しやすい、興すことが推奨される企業はRIも推進しやすいという特徴がわかった。
それ以外では、国力や、事業の重要度・規模によらず、グローバルで地域間コミュニケーションや連携を行う、よいものを積極的に取り入れる、新興国の可能性を理解する企業が、RIを推進しやすいことが分かった。

ここまでRIの認知度や実施状況を考えてきた。しかし、今後RIの実施が日本にも拡がった場合、日本の企業成長にも本当に貢献するのだろうか?最終回となる次回はRIが日本企業のイノベーション創出にも有効なのか考えてみよう。

つづく

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