茨城ロボッツが目指す「人とボールが動くバスケ」を組織論で考える 

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ロボッツBリーグが開幕し、各地で盛り上がりを見せています。今年よりグロービスの子会社となった茨城ロボッツも、B2リーグで好調なスタートを切りました。茨城ロボッツが今年度のモットーとする「人とボールが動くバスケ」は、NBA(アメリカのプロバスケットボールリーグ)のサンアントニオ・スパーズの2014年シーズン頃のチームを参考にしているそうです。今回は、スパーズの戦略を元に、チームの生産性を上げるポイントを組織論的に考えてみたいと思います。

スパーズという名前は日本ではなじみがない方も多いでしょうが、この20年くらいを通じて最も成功を収めてきたNBAチームであり、個人的にも日本のチームが参考にすべき点が多いと感じています(日本のサッカーチームにも同じことが言えると思います)。2014年はそのスパーズが優勝を飾ったシーズンです。ちなみに、YouTubeにいくつか動画があるのでお時間のある方は見ていただくとイメージが湧くでしょう。

https://www.youtube.com/watch?v=kHdmkRTjOOo
https://www.youtube.com/watch?v=cS2vNVCCDPI
https://www.youtube.com/watch?v=QwY3Be8NGgE

さて、長年安定して強いスパーズですが、特に強いシーズンは、概ね選手の走行距離とパス本数がリーグの最上位を占めていました。つまり、選手の運動量と速いパス回しが特徴だったわけです。ではなぜこの2つの項目が大事なのでしょうか? 

バスケットボールで点が入りやすい状況をフレームワークで示すと、「ゴール(リム)に近い」と「シュート態勢が良い」のマトリクスでかなりの部分は説明できます。

バスケ

ゴールへの近さは、さらに「平面的な距離」と「リムの高さに近い」の2つにブレークダウンできます。背の高い選手がゴール近くからシュートする方が入りやすいということです。

シュート態勢の良さとは、なるべくゴール方向に向きながら、ディフェンスのプレッシャーなく理想的な態勢でシュートを打てることを意味します。コーナーからの3ポイントシュートなどはその典型です。ゴールに近くても、ゴールに対して逆向きの態勢でディフェンスのチームにプレッシャーをかけられるとなかなか入りません。

一番いいのはマトリクス中の①の象限で、ゴールに近いところから態勢よくシュートを打つことです。その理想はフリー(ノーマーク)の選手がダンクやレイアップを決めるシーンです。現実にはなかなか①のシチュエーションは少なく、なるべく②か③のシーンを作ってシュートします。

ただ、①のシーンは確かに少ないですが、なるべくそれに近づける努力はします。そのポイントは、わずかな時間でもいいので瞬間的にフリーの選手を作ることです。フリーの時間が長いほど、シュートが決まる確率は上がります。そのために必要なのが、素早いパス回しと運動量なのです。また、局所的に2人対2人の場面で、「ピック&ロール」という、1人の選手がうまくスクリーン(相手選手が動く上で邪魔な「壁」)になるような動きをすることで相手の動きを制約するのも、ノーマークの選手を作る上で有効です。

これらはどれも、1人のスーパースターに頼らないバスケットボールとも言えます。このやり方が成功する上でのポイントは概ね以下のようになります。

・チームの戦術や約束事が選手に浸透している
・選手が瞬時に自分の役割を判断し、適切にその役割を果たすことができる
・選手が鳥瞰図的に自分たちを眺めることができる
・選手がわがままではなく献身的でハードワーキングである
・同じ失敗を繰り返さず、修正することがでる
・選手に「基本」が身についており、それを確実にこなす遂行力が高い
・自由度はあるが野放図ではなく結果には責任を負う
・全般的に選手の能力がある程度高い

実はスパーズにもティム・ダンカンという史上に残る名選手もいましたが、彼は控え目なチームプレーヤーということで有名でした。それに加え、グレッグ・ポポヴィッチヘッドコーチは非常に厳格なコーチで、気を抜いたプレーをする選手を容赦なく指導したり外したりしました。そして基本を疎かにしない、ハードワーキングなチームプレーヤーを好んで採用・起用しました。

選手のミックスという面では、献身的なプレーや「全員バスケ」を好むヨーロッパ出身の選手が多いという特徴もありました。南米出身の選手も多く、出身国のダイバーシティが高かったので、逆説的にそれをまとめるチームの戦術や約束事、行動規範の徹底が必要だったという背景もありました。これらが相まってスパーズのスーパースターの個人的能力に過度に依存しない「人とボールが動くバスケ」が機能したのです。そして、ティム・ダンカン選手が引退した後のシーズンも、優勝こそ逃していますが、レギュラーシーズンでは十分に高い成績を残し続けているのです。

生産性の高いチームをつくるには?

さて、ここでビジネスへの応用・示唆について考えてみましょう。通常の組織論において、生産性が高いチームの条件として挙がる典型的条件は以下のようなものです。

・優れたリーダーがいる
・リーダーシップとフォロワーシップのバランスがいい
・目標達成へのコミットメントがある
・目標達成への道筋が妥当かつ共有されている
・個人のスキルが高い
・凝集性が高い
・チーム全体の相互補完が出来ていつつも、役割、業務分担に柔軟性がある
・情報が共有されている
・規範が確立している
・クリエイティビティを重視し、自由な雰囲気がある
・チームで成果を出すという意識が浸透している
・組織学習の能力が高い

こうしてみると、スパーズは、通常の効果的なチームの諸条件に加え、ダイバーシティも加わり、非常にレベルの高い成果を上げていたことがわかります。また、得点数やリバウンド数といった誰にも自明な数字のみならず、「走行距離」や「パス数」といったKPIでチームのパフォーマンスを細かく可視化できる点も大事です。決して奇をてらった要素はなく、愚直にチームの効果性を高めるマネジメントが行われている点は、一般のビジネスパーソンにとっても参考になるところ大でしょう。

ちなみに、我らが茨城ロボッツは今シーズン、前年から半分の選手を入れ替えています。その結果、個々の選手のスキルはB2トップクラスと言われています。彼らがどれだけチームの戦術を理解し、各自がチームプレーヤーとして「人とボールが動くバスケ」を実践できるか、ぜひ注目してみてください。

東京大学理学部卒、同大学院理学系研究科修士課程修了。戦略系コンサルティングファーム、外資系メーカーを経てグロービスに入社。累計150万部を超えるベストセラー「グロービスMBAシリーズ」の著者、プロデューサーも務める。著書に『グロービスMBAビジネス・ライティング』『グロービスMBAキーワード 図解 基本ビジネス思考法45』『グロービスMBAキーワード 図解 基本フレームワーク50』『ビジネス仮説力の磨き方』(以上ダイヤモンド社)、『MBA 100の基本』(東洋経済新報社)、『[実況]ロジカルシンキング教室』『[実況』アカウンティング教室』『競争優位としての経営理念』(以上PHP研究所)、『ロジカルシンキングの落とし穴』『バイアス』『KSFとは』(以上グロービス電子出版)、共著書に『グロービスMBAマネジメント・ブック』『グロービスMBAマネジメント・ブックⅡ』『MBA定量分析と意思決定』『グロービスMBAビジネスプラン』『ストーリーで学ぶマーケティング戦略の基本』(以上ダイヤモンド社)など。その他にも多数の単著、共著書、共訳書がある。
グロービス経営大学院や企業研修において経営戦略、マーケティング、事業革新、管理会計、自社課題(アクションラーニング)などの講師を務める。グロービスのナレッジライブラリ「GLOBIS知見録」に定期的にコラムを連載するとともに、さまざまなテーマで講演なども行っている。

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