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就職、昇進、リストラ、転職――人生の転機を迎えたら?「シュロスバーグの4Sモデル」で考える、次なるキャリアの探し方

投稿日:2023/08/09

2023年に入り、カシオ計算機、シャープ、大正製薬、中外製薬などが早期退職を募っているとの報道を耳にします。その対象はシニア・ミドル社員ですが、本報道を受けて、年代問わず、ご自身のキャリアを見つめ直した方もいらっしゃるのではないでしょうか。

人生100年時代と言われる現代、多くのビジネスパーソンが常にキャリアを模索しています。しかし、キャリアの転機は予想できるものもあれば、ある日突然訪れるものもあります。その転機を前に、次なる方向性を見出せずに戸惑うこともあるでしょう。

そこで本稿では、転機を乗り越え、よりよいキャリアを築くために役立つキャリア理論「シュロスバーグの4Sモデル」をご紹介します。

人生の転機が訪れたら、「シュロスバーグの4Sモデル」で乗り越えよう!

「シュロスバーグの4Sモデル」とは、米・心理学者ナンシー・K・シュロスバーグ氏が提唱したキャリア理論です。シュロスバーグ氏は、自身の生活や役割、取り巻く人間関係などの変化が起こる「転機(トランジション)」を乗り越えるためのノウハウを体系化しました。それが「4Sモデル」です。

人はその人生において、さまざまな転機を経験します。仕事上では就職、昇進、リストラ、転職、プライベートでは結婚、離婚、病気、死別などです。シュロスバーグ氏は、こうした人生の転機に直面した際、次の3つのステップを踏むことを提案しています。

各ステップを、ひとつずつ解説していきます。

図1 シュロスバーグの4Sモデル

自分がどんな転機に直面しているかを見定める

最初のステップは、現在自身がどんな転機に直面しているかを把握することです。

シュロスバーグ氏によると、転機にはイベント型とノンイベント型の2つがあります。イベント型とは、予期した通り(就職や結婚)または予期せず(失業や病気)に起こったものです。一方、ノンイベント型は、予期していたことが起こらないこと(希望する部署に異動できないなど)を指します。

このように分類した上で、今自分が直面している転機がどのタイプなのか、その変化が何をもたらしているか(または今後もたらすか)を客観的に把握することが大切であると、シュロスバーグ氏は説いています。

考えを深めるために、以下記事で紹介されているグロービス経営大学院教員の山中礼二氏のキャリアを例に見てみましょう。

<天職の見つけ方#1 インパクト投資家というキャリアに出会うまで 山中礼二>

山中氏は、精密機器大手キヤノンの新規事業企画担当者としてキャリアをスタートさせました。彼が最初の転機を迎えたのは、米国で開催したベンチャーキャピタリスト研修のときのことです。そこで出会った起業家たちとの交流を通じて、山中氏はベンチャーの世界に魅了され、独立系ベンチャーキャピタルのグロービス・キャピタル・パートナーズ(GCP)に転職しました。この結果は、全て予期された通りの「イベント型」転機でした。

一方で、山中氏は予期せずに東日本大震災という転機にも直面しています。ヘルスケア分野に興味を持った彼は、GCPを辞めてヘルスケア関連のベンチャー企業に転職し、企業経営や事業開発に挑みます。しかし、結果はうまくいかず、再びキャリアの方向性に迷ってしまいます。その中で発生した大震災。希望を生み出そうと奔走する起業家たちを見て、山中氏は自分にとって大切なことを発見します。同時に、社会起業家育成プログラムの立ち上げという機会に恵まれ、「社会投資」の分野に進むことを決めるのです。これらのことは、全く予想していなかった予期せぬ「ノンイベント型」転機でした。

山中氏が経験した2つの転機は、シュロスバーグ氏のキャリア観に当てはまる例です。人生には、たくさんの変化や転機があり、それらをどう乗り越えるかでキャリアは形成されるというのがシュロスバーグ氏の考え方です。山中氏のキャリアも、予期された変化もあれば、予期せぬ転機もあり、そうした転機の連続によってキャリアが形成されていることが分かります。

重要なのは、それぞれの転機が何を意味するのかを見逃さないこと、そしてその変化を客観的に把握し、自分にとって最良の選択をすることです。

これが「転機」だと認識したら、自身が利用できる資源を4Sで点検する

皆さんも山中氏のように「転機」に遭遇した際は、どのように対処すれば良いのでしょうか。

シュロスバーグ氏は、転機に対処する方法として、4つの資源(リソース)を点検することを勧めています。それは、「Situation(状況)」、「Self(自己)」、「Support(周囲の支援)」、「Strategies(戦略)」の4つです。

●Situation(状況)

自分にとってその転機がどんなもので、どんな意味を持つのかを評価します。転機の原因や予測可能性、一時的なものか永続的なものか、過去に同様の経験があるか、ストレスを感じているかなど、明確にしていきます。

●Self(自己)

自分の特性や価値観を理解します。今の仕事の重要性、仕事とプライベートのバランス、変化に対する対応力や自己効力感などを確かめます。

●Support (周囲の援助)

転機を乗り越えるために周囲からどのようなサポートを期待できるかを把握します。家族や友人からの援助、重要な情報を提供してくれる人物の存在、経済的・物理的な支援などを検討します。

●Strategies(戦略)

転機を乗り越えるために、現在取り組んでいる対応や今後の有効な手段を考えます。新たなトレーニングを受けることやストレス解消を図ることなどを把握します。

これら「4つのS」を明確にすることで、その後の具体的な行動につなげることができます。図2では、各視点に対するチェックリストを用意しました。もし今、人生の転機に直面しているのであれば、自己点検をしてみてください。 このように、転機に対処するためには、自分自身や周囲のサポートを活用しながら具体的な戦略を立てることが重要です。転機を乗り越え、新たな道へ進むために、まずは自分自身を見つめ直し、適切な行動を取ることが大切です。

図2 「4S」の視点でのチェックリスト例

転機を支援してくれる「3つのシステム」

自身の利用できる資源を把握したら、転機を受け止め、克服するための行動計画を改めて立てて実行します。このとき、シュロスバーグ氏は「3つのシステム」を通じて、直面する問題を解決する可能性を指摘しています。「人間関係」「経済的資源・物理的条件」「公的機関・民間団体」という3つの要素です。

冒頭で話題にした「早期退職」の例で考えてみましょう。

もし早期退職の対象となった場合、多くの人は将来への不安から精神的なストレスを抱えることになります。その時、家族や友人との良好な関係があれば、その局面を乗り越える難易度が低くなるでしょう(人間関係)。

また、転職を受け入れ、新しい職場を探す際には、十分な貯金や適切な住居の有無も重要です。これらの要素があるかどうかは、転機を乗り越える上で大きな影響を与えます(経済的資源・物理的条件)。

さらに、公共の雇用サービスであるハローワークや再就職支援会社などの存在も重要です。一人で就職先を見つけようとするよりも、キャリアコンサルタントと相談しながら再就職先の紹介を受ける方が、成功する確率が高くなります(公的機関・民間団体)。

未来の不確実性に立ち向かうためには、失敗から学び、前進することが大切

「シュロスバーグの4Sモデル」は、将来の転機に対処する際に役立つ理論です。しかし、理論を知っていても、私たちは時に「認知のゆがみ」によって転機を上手く乗り越えられないこともあります

「認知のゆがみ」とは、実際の現実を歪んで捉え、誤った思考や固定観念にとらわれることを指します。この心理現象は、「4Sモデル」のすべてのステップで起こり得ます。

例えば、転機に立ち向かい行動を起こしても、結果がなかなか表れないこともあるでしょう。その際、「現在の状況から推測して、将来も同じようにうまくいかないだろう」と考え、将来の出来事に対して不安や悲観的な結論を出してしまうことがあります(こうした現象を特に「先読みの誤り」と呼びます)。

しかし、その不安は本当に現実になるのでしょうか。実は、研究によってその割合にいくらか差はありますが(脚注)、不安のうちの多くが現実には起こらないという説が有力です。つまり、私たちは心配する必要のないことで心を煩わせているかもしれません。それに、こうした不安に負けずに、嫌な経験や失敗を繰り返しながら前進することで、免疫ができ、不安が解消されることもあります。

転機を乗り越え、良いキャリアを築くためには、失敗から学び、前進することが最も重要な要素ではないでしょうか。自身の転機を受け止め、分析することで、失敗を恐れずに挑戦し、成長することができ、新たな機会や成功への道が開けるのです

(脚注)米・心理学者のルーカス・S・ラフレニエール氏らなど世界のさまざまな研究機関が不安に関する研究を行っているが、研究協力者の条件や心配事の基準などの前提の置き方によって割合が異なる。


<参考文献>

  • ナンシー・K・シュロスバーグ(武田圭太・立野了嗣監訳)(2000).「選職社会」転機を活かせ 自己分析手法と転機成功事例33 日本マンパワー出版
  • 独立行政法人労働政策研究・研修機構(2016)「資料シリーズ No.165 職業相談場面におけるキャリア理論及びカウンセリング理論の活用・普及に関する文献調査」

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