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オムロン「社会的課題がどんどん解決される社会を創りたい」――サステナビリティ経営への変革 Vol.4 後編

投稿日:2024/04/04更新日:2024/04/11

サステナビリティが企業経営にとって避けては通れない課題となっています。しかし、大きなテーマであるがゆえに、日々の仕事と紐づけて捉えることが難しいテーマでもあります。本連載では、サステナビリティ経営を実践する推進者に焦点を当て、個人の志からSX(サステナビリティ・トランスフォーメーション)の要諦を探ります。

第4回は、長期ビジョンにサステナビリティ戦略を統合し、一貫した取り組みを行っているオムロンを取り上げます。オムロンでは、2015年に企業理念を改定し、企業理念の実践に重きを置くことで、ビジネスを通じた社会的課題の解決に取り組んでいます。前編ではサステナビリティ推進担当役員の井垣氏の視座からオムロンのサステナビリティを考えてきましたが、現場で推進するリーダーはどんな想いで社会的課題解決に取り組んでいるのでしょうか。後編では企業理念実践の表彰制度で表彰されたプロジェクトに携わった、デバイス&モジュールソリューションズカンパニーの小島英明氏にお話を伺います。(聞き手・執筆:本田 龍輔)

社会的課題がどんどん解決される社会を創りたい

小島さんは気象IoTセンサー「ソラテナPro」という製品の開発プロジェクトリーダーを務めてこられました。

「ソラテナPro」は、気温・湿度・気圧・雨量・風向・風速・照度の7つを1分毎に観測する小型の気象IoTセンサーです。同製品はオムロンとウェザーニューズ社が、両社の強みを活かして共創し開発したもので、災害リスクが高まる雨量50mm/h、風速50m/sの大雨・強風を観測することが可能です。

ウェザーニューズ社アプリ「ウェザーニュース」と連動することで、設置箇所の気象情報をリアルタイムに把握でき、農業・建築・ドローン・物流・スポーツ・電力・食品小売・アパレルなど業界を問わず企業の安全対策や生産性向上などに役立てることが可能となっています。同製品は、気候変動という社会的課題解決に挑戦したプロジェクトであり、オムロンの企業理念を体現した取り組みとして、TOGA(The OMRON Global Awards)ゴールド賞を受賞しています。

- まずは、「ソラテナPro」開発前の仕事から教えてください。

小島:理系の大学を卒業後、オムロン アミューズメントに入社しました。

入社当時は、システム製品の開発に携わり、主に電気設計を担当していました。その後、新規事業開発の業務に取り組むようになり、マーケティングの業務も経験しました。
2022年からはオムロンに転籍し、開発の仕事に戻っています。

- オムロンの企業理念には入社当時から共鳴されていたのでしょうか?

小島:オムロンのイメージは体重計・体温計のイメージしかなかったのですが、就職活動をする中で「われわれの働きで われわれの生活を向上し よりよい社会をつくりましょう」という企業理念が目に入り、自分たちの仕事を通じて、生活・社会をよくできる会社であると知りました。

私は、自分の働きを通じて世の中をよくしていきたいと思っていたので、自身の想いと企業理念がリンクしているイメージを持ち入社しました。

- 入社後、お仕事と社会との繋がりをどのように感じておられましたか。

小島:正直、入社直後は目先の業務をこなすのに一生懸命で、自分の仕事と社会の繋がりについてあまり考えられていませんでした。
しかし、完成した製品が市場で稼働している様子を見たときに、社会に求められていることを実感し、自分の取り組みと社会との繋がりを感じました。

- 現場に入って開発を進めていくということは、以前から意識されていたのでしょうか?

小島:過去に開発した製品で現場での活用方法や使用環境を見た経験から、製品に求められる要素を理解するためにも業界に従事するお客様の話を聞くだけではなく、実際に製品が使用される現場へ行き、使用環境を体感することを意識しています。

それは、業界とモノづくりの知見を掛け合わせて創りこむことで、よりよい製品を世の中に創出できると考えているためです。

現場での製品動作を業界に詳しい方と一緒に見ることで、その業界で求められていることを把握するとともに、我々のモノづくり観点での気付きを抽出することができます。

そのためには、試作品を早期に用意し、現場での検証を何度も行い、その過程の中で製品に求められる要件を整理して設計仕様に反映していく取り組みが必要だと考えています。

- 小型の気象IoTセンサーである「ソラテナPro」は、気象リスクの検知に役立てることができるという製品です。そもそもこのプロジェクトに携わる以前から社会的課題や気候変動問題へは関心が高かったのでしょうか。

小島:今回のプロジェクトにかかわる前から関心を持っていました。それは、自身が気象災害で被害を受けた経験があるためです。豪雨で地域が冠水した際に車が浸水したことや、暴風によって物置小屋が飛ばされる被害を受けた経験もあります。気候変動による影響やその脅威を身近で感じており、何とかこの問題解決に貢献したいという想いを持っていました。

- 他人事でないという実感があったのですね。ご自身としての想いもある中で、「ソラテナPro」開発に至るまでどんな経緯があったのかも教えてください。

小島:本プロジェクトの経緯としては、ウェザーニューズ社からのお声がけがきっかけとなっています。

ウェザーニューズ社は、「いざというときに人の役に立ちたい」という理念を掲げ、気候変動への打ち手となる新しいソリューションを検討されており、その構想を実現するためのハードウェアをどうするかで悩まれていました。ウェザーニューズ社は、これまでにオムロンのセンサーを活用されていたこともあり、構想されているソリューションに必要となるセンサーについて、オムロンに相談が来ました。

オムロンは「社会的課題の解決」を掲げており、気候変動に対する取り組みは長期ビジョンの中でもセットしています。両社の理念が共感・共鳴したことにより、本プロジェクトがスタートしました。

- 当初から完成形のイメージはあったのでしょうか?

小島:開発当初は、明確な仕様というものは無く、漠然としたイメージのみでテーマがスタートしました。そこで、私達は具体的な製品仕様を明確にすべく、リーンスタートアップ手法を取り入れ、早期にプロトタイプ機を用意して仮説検証を繰り返し行いました。用意したプロトタイプは4段階程度でしょうか。初回のプロト機と最終段階のプロト機とでは、見た目もだいぶ違うものになりました。

さらに、準備したプロト機を実際の使用環境に投入し、その結果をウェザーニューズ社と共に、業界目線、モノづくり目線で確認し、新たな価値を創造するための議論、いわゆる「共創」の取り組みを行いつつ、一つ一つ仕様を確定させていきました。

- 開発の中で、一番の苦労は?

小島:知見のない”気象”に関する製品を15か月という短期間で開発したことです。
この実現に向けては、スピード感ある製品創出に拘り、ウェザーニューズ社との共創と社内的なコンカレントの両輪で開発を進めました。

知見のない部分に関しては、先ほどご紹介した共創の取り組みを行うことにより補い、少しずつ明確になる仕様を製品設計に反映しつつ、量産工程の立ち上げを並列に行うコンカレント開発を実行しました。

しかし、仕様が未確定の状態でコンカレント開発を実行しているため、変更が発生することが多々あり、変更の都度その影響が製品設計や様々な部門に及びます。

そのため、開発初期から関連する全部門の関係者を巻き込み、「現場・現物・現実」を全員で見ながら議論を行うことで、コンカレント開発において重要となる「社内の連結力」の強化を図りました。

それでもなかなか思い通りに開発・量産工程の立ち上げが進まず、各部門のフラストレーションが出てくることもありましたが、マネジメント層にも現場に入ってもらうことで意思決定・行動スピードを上げるとともに、メンバーとの地道な1on1を繰り返し、プロジェクト阻害要因の吸い上げと対策を行い、関係者との認識を都度合わせながら開発を進めました。

- モチベーションの高いチームだったと思いますが、メンバーの社会的課題に対する意識はどうだったのでしょうか?

小島:社会的課題に対して意識的に取り組んでいたと感じます。限られた開発期間で性能の実現に折り合いがつかず何度も葛藤しましたが、メンバー一人ひとりが諦めずに取り組んでくれました。

リリース時期を延期して開発期間を延ばすこともできましたが、「これをやり遂げれば、より早く社会的課題解決に貢献できる」という想いで、メンバーの皆さんも取り組んでいたと感じます。

その求心力になっていたのは、長期ビジョンへの共感・共鳴であると考えます。

1on1でメンバーの皆さんから個別に話を伺うと、皆さんも気候変動の影響を身近に感じており、その解決に貢献したいという想いを持たれていました。

- 新しい事業に実際に取り組む中で、自社の理念に対する認識の変化はありましたか?

小島:変化はなく、どちらかというと「確信に変わった」という方が近いです。このプロジェクトを通して、社会的課題を解決できるというイメージがあれば、メンバーも動いてくれますし、自分たちの取り組みで世の中をよくしていけると感じることができました。

-最後に、今後の展望についても教えてください。

小島:「ソラテナPro」に関しては、もっと幅広い業界・用途で役立ててもらえるようウェザーニューズ社と連携し訴求していきたいです。

また自身のビジョンとしては、社会的課題がどんどん解決される社会を創っていきたいです。今回のウェザーニューズ社との共創により、知見のない業界であっても共創パートナーと一緒なら乗り越えられると実感しました。今回のような共創の取り組みをもっと推進することにより、よりよい社会の実現に貢献していきたいと考えています。


オムロンにみるSX推進のポイント

オムロンで10年間、社会的課題に向き合う企業理念の改定や現場での実践、サステナビリティへの取り組みをリードされてきた井垣氏、そして企業理念を事業の中で実践した小島氏へのインタビューを通じ、SX推進の要諦として以下の3つがポイントであると考えました。

1.企業理念の下で事業とサステナビリティを一体化する

オムロンには、企業理念の実践そのものが社会的課題の解決につながっており、かつビジネスを成長させるドライバーであるという一貫性がありました。この一貫性こそがサステナビリティ経営を支えるコアの要素であるといえます。オムロンの中期経営計画「Shaping the Future 2030 1st Stage」には、10+1の非財務目標が組み込まれており、企業理念と経営戦略、サステナビリティ推進を一体化していくことが目指すべき理想形です。

2.組織文化として染みこませる

事業とサステナビリティが一体化することで、社員は特別に意識をせずとも、全社としての取り組みは推進できるようになるでしょう。しかし、それだけでは社員のやりがいや手触り感は醸成されません。オムロンの場合は、TOGAという企業理念実践の表彰制度をうまく活用し、社員が自ら進んで参加する風土を作っています。

実際に現場で取り組む小島氏のチームでも、事業を通じて社会的課題の解決を目指すという企業理念がチームの求心力として機能していました。サステナビリティ推進もやらされ感ではなく、組織文化となれば永続的なものになるはずです。

3.社外の価値共創パートナーと一緒に取り組む

サステナビリティの課題は幅広く、複雑であり、環境問題も人権も自社だけでは到底対応しきれるものではありません。統合報告書を一つのツールとして使い、取引先やお客様も社会価値創造を共に推進するパートナーとして取り上げることで、サプライチェーン全体での取り組みも推進しやすくなると考えられます。

また、「ソラテナPro」の開発もウェザーニューズ社との共創からスタートしています。ウェザーニューズ社も「海難事故を防ぎ、船乗りの命を救いたい」という社会的課題の解決を起点としたミッションドリブンの企業ですが、共有できる価値を持つ企業同士だからこそ共鳴できた部分もあったのではないかと思います。

まとめ

オムロン創業者の立石一真氏は「われわれの働きで われわれの生活を向上し よりよい社会をつくりましょう」という社憲を掲げ、事業を通じた社会的課題の解決を目指しました。こうした創業精神が、現在の企業理念と事業、サステナビリティの一貫性を支える一つの要素であると感じました。

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