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スマホに何が起こっているのか?ドコモ「スグ電」を製品特性分析で見る

投稿日:2016/07/28更新日:2019/04/09

ドコモのスマホのCMを見ただろうか。いつもの新聞記者役の綾野剛が、上司の堤真一に「外部のカメラマンを探せ!」と言われ、すぐさまスマホを取り出して懇意のカメラマン、トレンディーエンジェルの斎藤司を呼び出し、二人で仲良く肩を組んで堤に紹介する。いや、別に綾野剛と斎藤司が仲良しなのが衝撃的ではない。二人とも、公称・自称イケメンだし。それよりも、二人が電話をかける、受ける姿が衝撃的なのだ。

これは、ドコモの新サービス「スグ電」を紹介するCMだ。2016年夏モデルから対応機種が発売され、サービスが開始された。綾野剛のようにスマホを振るだけで、登録してある相手に電話がかけられる。電話がかかってきた相手も登録してあれば、斎藤司のようにスマホを耳に当てるだけで電話を受けられる。つまり、スマホ画面を全くタップしなくていいのだ。この画期的な機能、果たしてユーザーの心をつかむのだろうか?

製品特性分析・5層モデル

その製品がどのような価値を持っているのかを階層的に分解して明らかにする「製品特性分析」というフレームワークがある。「3層モデル」と「5層モデル」があるが、3層モデルは「ビールで健康&キレイになれる?キリン対サントリーの戦い」で事例分析しているのでそちらをご覧いただきたい。

さて、5層モデルだが、勝負のしどころを3層より明確化したり、製品が成熟期以降のステージにあって、もはや顧客に訴求すべき要素が見当たらなくなってきたりした時に用いることが多い。各階層の意味はノートPC(上段)とタブレット(下段)の場合の分析結果と共にざっと記したのでまずは参照されたい。


上段のノートPCは完全な成熟期、もしくはタブレットやスマホにその座を追われてもはや衰退期だといえるだろう。ノートPCの場合、意味合い深いのが、これはメーカーのWebサイトで注文をする受注生産モデルではなく、量販店などの店頭販売モデルを想定していることだ。ノートPCは既に数年前に完全に成熟期を迎えていた。その頃、各社がこぞってカラーバリエーションを増やしたのだ。受注生産なら、いくらでも顧客の好みに合わせて出荷前にユーザーから指定されたカラーのパーツを組み込んで出荷すればいい。だが、店頭モデルでカラーバリエーションを増やせば、それだけ在庫リスクを負うことになる。しかし、各社はそこに手を出した。なぜなら、もはやそこぐらいしか残された訴求ポイントがなかったからだ。

それに対して、タブレットはどうだろうか。5層における「期待」とは、3層の「付随機能」のように「中核的便益の実現に直接影響を及ぼさない」というところまでは一緒だが、「この要素レベルまでは提供されてしかるべき」と顧客から思われるものを指す。タブレットはまだ市場が拡大しており成長期であるといえるが、一方で「やっぱり入力もタッチスクリーンじゃなくて物理キーボード欲しいよねー」というユーザーも多く、メーカー各社はこぞってキーボードを発売している。

その先の4、5層目は3層分析の「付随機能」と意味合いが近い。4層目の「拡大」は、「付加価値として顧客からの評価が向上する対象となる要素」である。Appleが2016年に発売したiPad Proは「1枚のスーパーコンピュータ」というキャッチフレーズでパソコンを上回る性能を強調している。だが、他社がそこまで高性能を追求してAppleに戦いを挑んでいる様子は見受けられない。とすれば、Appleは一歩先を行ったが、タブレットにそこまでの高性能をユーザーは現段階で期待しているわけではなく、そこは来たるべき成熟期での勝負のしどころになると予想できる。また、成熟期が進行した際の差別化要素である5層目の「潜在」は、「期待はされていないが、実現できれば価値を増大させる」というもので、その要素が何になるかはまだわからない。

「スグ電」の意味とスマホのPLC(プロダクトライフサイクル)

スマホにおける「付加価値として顧客からの評価が向上する対象となる要素」である「拡大」までは、圧縮していない高音質音源対応・ハイレゾ対応や、4K動画撮影機能などがそれに当たるだろう。「ああ、それあるといいね」と評価する人もいるが、長く久しく、もしくは若い人は生まれてからほとんどMP3規格などの圧縮された音源の音楽を聞いてきたし、多くの容量を食うというトレードオフを容認して超高画質撮影を行いたいわけではない。つまり、これらの機能が搭載されてきた時点でスマホはもはや成熟期入りしているとわかる。

その上で、今回のスグ電の価値は、商品発表会にゲスト出演した際の綾野剛の言葉を借りれば、「新しい感覚で衝撃的・画期的」なわけだが、それは5層モデルの「期待はされていないが、実現できれば価値を増大させる」という「潜在」に該当する。「振ってかける・当てて受ける」という使い方を「期待」していた人はほとんどいないはずだからだ。だが、正直なところ画期的として価値を感じるか否かは、スマホの利用スタイルによるところが大きく判断が分かれると思われる。「潜在」的なニーズを持ったユーザーが多く、スグ電が普及していくかはまだ不明だが、「潜在」の価値が訴求されているということは、スマホはもはや完全なる成熟期に突入したということだ。

スグ電が普及するためには?

成熟期に突入したスマホだが、ほとんどの人が想定していなかったであろう「振ってかける・受ける」という新しいスタイルは、一つのイノベーションであるとも考えられる。とすれば、プロダクトライフサイクルの原則からすれば、最初に飛びつくのはとにかく新しもの好きのマニアックなイノベーター、次にその製品・サービスの価値をきちんと評価できる目利きのアーリーアダプターが採用を決める。まずはそこを取り込んで、次にアーリーアダプターのマネをする気の早い大衆層であるアーリーマジョリティーに伝播させることで本格的な普及をさせるのが定石である。

そのためには、まずはとにかく初期段階で利用体験者を捕まえて、その利便性などを体験者に語らせて未利用層を納得させていくことが欠かせない。使い続けさせてその良さをユーザーの潜在的なニーズに気付かせて、その気付きを語らせて新たなユーザーを獲得していくという手法は「後のアフター」として、「『後のアフター』でニーズの深掘りはできていますか?」で述べたとおりだ。

ぜひ、スマホをブンブン振って電話をしている姿が、街のあちこちで見られるようになって欲しいと思う。
 

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