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『江戸のCFO』――江戸時代のCFOに財務マネジメントを学ぶ

投稿日:2018/11/17更新日:2020/02/26

江戸2018年4-6月期の上場企業の業績が過去最高益となるなど、2018年度も日本企業の業績見通しは明るいと予想する経済レポートを目にした。悲観的な経済見通しが出ていたのが、ほんの数年前の出来事だったのだろうかと不思議な感じがした。

ちょうど10年前の2008年秋、後にリーマンショックと名付けられる世界規模の金融危機が起こった。そして、2011年春に東日本大震災が発生。資金繰り担当として、売上の減少や取引先の倒産による回収不能債権の発生など、気の抜けない日々が続いたことを記憶している。多くの日本企業の財務担当者は似たような気持ちだっただろう。こうした困難に直面したとき、先人の知恵を活用できれば心強い。不安を抱えていた当時に出会っていたら、きっと勇気付けられただろうと思いながら本書を読んだ。

本書は、江戸時代に財務面における藩政改革を主導した5名の人物の活動を紹介している。松代藩の恩田木工(1717年~1762年)、米沢藩の上杉鷹山(1751年~1822年)、備中松山藩の山田方谷(1805年~1877年)、長州藩の村田清風(1783年~1855年)、薩摩藩の調所広郷(1776年~1848年)。活躍した時代や場所、藩における立場は違えども、藩の財政再建に果敢に挑戦したCFO(Chief Financial Officer)たちのケースである。

特に興味を持って読んだのが山田方谷だ。方谷は、不要な資産を処分しB/S(貸借対照表)をきれいにしたり、産業振興や新田開発により収入を増やし、不要不急の支出を減らすことでP/L(損益計算書)を改善させたり、藩の財務を回復させる具体的な手法を数々実施した。一方で、風紀や規律を重視し、教育にも力を入れている。方谷は、江戸遊学中に陽明学を学び、目先の利益にとらわれない大局観や倫理観の重要性を理解し、藩内でリーダーの心構えを説いたのである。そして、教えを説くだけではなく、自ら範を示している。最初に自身の減俸を実施し、家計の管理を他人にまかせることで不正な収入を得ていないことが証明できるようにするなど、率先垂範して倫理的な行動を実践したのである。

近年、日本航空(JAL)の再建に際し、会長として陣頭指揮を執った稲盛和夫氏が取り組んだのは、アメーバ経営という経営管理手法とフィロソフィーという精神面での指針の導入であった。備中松山藩での方谷の取り組みとJALでの稲盛氏のそれには類似点が多い。方谷が実践した方策は原理原則に適ったものであり、時代を越えて普遍性のあるものだったのであろう。

もう一つ印象に残ったのが、長州藩の村田清風と薩摩藩の調所広郷である。長州藩・薩摩藩共に関ヶ原の合戦で反徳川陣営に属した外様大名が治め、参勤交代や手伝い普請といった幕府の要請により、巨額の出費を強いられてきたことで多大な負債を抱える状況に陥っている。しかし、そのような負債を完済し、逆に蓄財できるまでに財務を好転させ、江戸時代末期には最も豊かな藩に数えられるようになっている。

両藩は江戸時代初期から倒幕の想いを持ち、それを江戸時代末期まで継続させている。そして、幕末の動乱が訪れた際に、一躍表舞台に登場し、主導的な立場で時代を動かしていった。そういった活躍ができたのも、活動を支える財政基盤がしっかりしていたからである。想いや志を実現するのは資金の多寡ではないが、資金なしに継続して活動していくことは難しい。両藩の財政が傾いたままであったら、歴史は変わっていたかもしれない。CFOたちの活躍があったからこそ、両藩は思う存分に活動ができたのである。彼らの功績は大きい。

2018年4-6月期は過去最高益だったという上場企業の業績も、それから3ヵ月後の2018年4-9月期の業績では予想より利益額が少なく減速感が出てきたという報道がされている。企業の業績は、良い時もあれば悪い時もある。だからこそ、今後もCFOには果たすべき役割がある。備えあれば憂いなし。先輩CFOの知恵を活用できれば心強い。

江戸のCFO  藩政改革に学ぶ経営再建のマネジメント
大矢野英次(著)、日本実業出版社
1512円

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