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理念経営は組織に“浸透”させるべきなのか?

投稿日:2018/09/27更新日:2019/08/16

連載「理念経営の常識を疑え」の第2回は、理念浸透について考察します。

VUCA時代に突入し、再び理念の重要性にスポットライトが当たり始めている。理念経営は、企業を取り巻く多くのステークホルダーが利益実感を持てるものでなければ、その目的は果たせないと、前回のコラムでお伝えした。しかし「言うは易く行うは難し」だ。その難所として、特に大企業の組織運営の要であるミドル層によく見られる「理念経営の3つの常識の呪縛」について考えてみたい。1つ目は、「理念は“浸透”させなければならない」という理念経営の主体者に関する幻想だ。

今も不滅の「有楽町飲み屋症候群」

水曜日、有楽町の飲み屋街では、エリート風の中年サラリーマンのグループが夕方から飲んでいる姿を見かける。どうも大企業の部長のようだ。聞き耳を立てていると、唾を飛ばしながら不平不満をぶちまけている。「トップが明確な方向性を示してくれないから、俺たちの部門の方向性も決められない。物事を決める際の優先順位や判断軸も不明確。到底達成できそうにない目標が上から降ってきて疲弊感でいっぱいだ」─ーこんな声だ。

翌木曜日、今度は同じ飲み屋に同じ会社の課長層がやってくる。やはり会社の不平不満をぶちまけている。「うちの部長は何とかならないかなぁ。部の方向性を明確に示してくれない。朝令暮改ばかりで、その判断軸がよく分からない。これじゃうちの課の方向性も決められないよ」と。

翌日の金曜日。同じ飲み屋に同じ会社の若手社員たちが大勢やってきて憂さ晴らし。「うちの課長は何を考えてるんだろう。方向性を示してくれないからどう動いていいのか分からない。早く決断して、説明責任を果たしてほしいよなぁ。こんな状態が続くなら、転職考えようかなぁ」と。

いまもグロービスのエグゼクティブ・スクールの冒頭にこの事例を紹介すると、少なからず大企業の部長層は苦笑いして頷かれる。では、この現象の本質的課題は何なのか。

自組織の「見えない未来」に対しての不安が、組織の上位層(最後はトップ)への不満につながっているということだ。となると、トップが明確な方向性を示しきれていないところに根本原因がありそうに思える。では、方向性が明確になれば、こうした不満はなくなるのだろうか。

現場の意識が変わらない限り組織は変わらない

近年、日本でもLIXIL、資生堂、サントリーなど、他業界で実績をあげたプロの経営者が変革に挑むためCEOに就任するケースも増えてきた。

プロの経営者は、自ら明確なビジョンを持って企業に乗り込み、短期間で現場を回って戦略仮説を作り、現場に実行を促していく。そうしたトップに対して当初現場から聞こえる声は、「今度の新社長も方向性を明確に示してない」「新社長は戦略までトップダウンで押しつける。自業界のことも知らないくせに」 など相変わらずネガティブであることが多い。

変革には抵抗はつきものなので、半強制的にトップは現場に戦略仮説を実行させる。しかし、戦略の前提となっている外部環境は日々変化しているし、やってみないとわからない。しかも、本来その変化を誰よりも肌感覚でわかるのは現場だ。従来以上に現場起点の高速回転のPDCAが求められる時代である。

ただ仮に戦略と市場とのミスマッチがあっても、やらされ感が漂う現場からは正しい情報がトップに上がらず、戦略の軌道修正もできないまま結果が出ない状況が続く。そして、現場はトップに対しさらに懐疑的になるという悪循環に陥る。

しかし、プランニングと実行の分離が前提であった時代とは、もはや違うのだ。すなわち、有楽町飲み屋症候群への解決策は、組織メンバーも見えない未来に対して自らも考え切り拓いていくんだという当事者意識を持ち、他責意識を払拭することだ。言いかえれば、一人ひとりが変化にアンテナを立てながら理念の主体として“意志”を持つことが大事で、「理念は“浸透”させるものだ」という上意下達的なマインドセットを根底から変革しなければならない時代になったのだ。

"浸透"というリーダーの発した言葉が、組織メンバーのマインドセットに大きな影響を与えることを肝に銘じたい。

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