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カスタマイズ=顧客ニーズに応える=善、ではない

投稿日:2018/03/17更新日:2019/04/09

法人営業『法人営業 利益の法則』から「営業マンにとっての『麻薬』」を紹介します。

前回も触れたようにカスタマイズ品は思った以上に儲からないことが少なくありません。それでも現場の営業担当者がカスタマイズ品を売りがちになる理由として、他部門の追加コストに対する無自覚に加え、目の前の顧客をどうしてもつなぎとめておきたいという視野の狭さ、そして顧客のニーズに応えていることは顧客に評価されるはずだという思いがあります。特に最後のものなどは、本人としては顧客のためにやっているという思いが強くなる分、厄介とも言えます。

営業部門のマネジャーとしては、そうした教育をしっかり行うとともに、他部門とも連携を取りつつ、どの顧客はカスタマイズニーズに応えてもよいのか、どの顧客のカスタマイズニーズは応えなくていいのか、大局を見ながら意思決定していくことが求められるのです。

(このシリーズは、グロービス経営大学院で教科書や副読本として使われている書籍から、ダイヤモンド社のご厚意により、厳選した項目を抜粋・転載するワンポイント学びコーナーです)

◇    ◇    ◇

営業マンにとっての「麻薬」

先に「カスタマイズは営業マンにとっての武器」と述べたように、カスタマイズは他社との差別化を作る有効な手段です。あるいは第3章の「深める」営業で詳述するように、顧客囲い込み時にも、カスタマイズは威力を発揮します。

このように営業戦略上の必要性が高い一方で、収益性の面でカスタマイズに問題があるのであれば、価格転嫁できる取引のみ応じていくのが理想です。しかしながら筆者がこれまで見てきた経験では、得てして過剰に(つまり、営業戦略上必要な度合い以上に)カスタマイズに応じてしまっているケ-スが少なくありません。

図
原因の一つとして、営業マンが心のどこかで「カスタマイズ=顧客重視という絶対的善」と感じてしまっている点があります。「カスタマイズは顧客ニーズ重視という『善』の実行」という理解は一見正論ですが、実は「顧客が口にすることを、対応すべき顧客ニーズ」と捉えるのは、必ずしも妥当な判断ではありません。

というのも、顧客が口にできる要求というのは、すでに市場でも顕在化しているニーズであって、業界内で提供できる企業がすでに出てきていることが多いからです。自社が優位性を発揮できる競争ならよいのですが、そうでない場合に後発で他社と同じ方向で努力しても、不利な競争に巻き込まれる羽目になるだけです。

また、顧客が口にしたニーズを仮に満たせたとしても、顧客満足度は意外と小さいものです。例えば、食品スーパーに行って10キロの米袋を手に取り、それをレジで「米を一粒ずつバラにして売ってほしい」と頼んだとしましょう。普通は断られるでしょうが、もし本当に応じてくれたら、あなたは大喜びするでしょうか? せいぜい「よく頑張ったな」と、店の真摯な姿勢を褒めたくなる程度ではないでしょうか。

顧客満足というものは、顧客側が期待する水準を大きく越えたと感じてもらえたとき、もしくは顧客が期待していない点で価値提供してもらえたときにグンと高まるものであって、意思表示された期待にそのまま真面目に応えても、「よくやってくれた」以上の顧客満足をもたらすことは少ないのです。

もう一つの原因として、営業マンの視野の狭さがあります。一人の営業マンがカバーできている顧客は、市場全体から見ればほんの一握りなのですが、営業マン自身にとってはお客様の「すべて」です。どうしても目の前の顧客が発する声が、市場全体を代表するニーズに思えてしまうのです。そのため、自分の担当顧客の声を代弁し、会社を挙げてそのリクエストに応じることが、マーケティング戦略上も自社を正しい方向に導くと、しばしば錯覚するのです。しかし市場全体の視点から見ると、個別の営業マンが認識している顧客の声は、一部の顧客層の特殊なニーズだったり、先ほども述べたような顕在化している陳腐なニーズだったりするケースが少なくありません。

視野の狭さという点では、カスタマイズに伴う負担を、営業マンが過小に見積もる傾向も否めません。営業マンには、カスタマイズに伴う自分自身の頑張りは認識できるのですが、開発や生産、物流といった他部署が被る追加負担については、相当な想像力のある人でない限り、見えないものです。筆者がクライアント先で、先にご覧に入れたようなカスタマイズ品の収益性分析を見せると、開発や製造部門のスタッフは「やっぱりそうか」とすぐに納得されるのですが、営業部門にいる人の多くは当初「この分析はどこかおかしい」という態度を示すことからも、営業マンの過小認識がうかがえます。

さらに悩ましいのは、筆者のこれまでの経験では、営業の成果があまり芳しくない営業マンや営業組織ほど、カスタマイズ品の提供に奔走して、職場が疲弊していく現象が時として見られる点です。というのも、顧客企業のリクエストに合っていて、かつ価格プレミアムを抑えた特注品は、買い手企業からすればお買い得感があるため、営業としては「楽をして売れる」商材でもあります。そのため、収益性や自社の顧客ポートフォリオなどを無視して、「担当顧客からの売上げをとにかく伸ばしたい」と考えた場合には、カスタマイズ品を積極的に売るのが、一つの起死回生策になり得るのです。

「高い成長目標を目指してカスタマイズ品を積極的に売り込んだために、売上げは伸びたけれど利益が低迷してしまった。そこで利益額をもっと稼ぐために、顧客の反応が良いカスタマイズ品をさらに売り込んでいく。しかし、カスタマイズを裏で支えてくれる他部門の負担はどんどん増し、営業マン自身も顧客や社内との調整のために、過度の残業や休日出勤が続き、挙句の果てに関係者全員が疲弊し切ってしまう」――そんな悪循環に陥ってしまうのが、カスタマイズの怖さでもあります。

まとめると、目の前の商売を取ることを重視して過度のカスタマイズに応じてしまう営業の場合、典型的には次のような弊害が生じ、収益性を損ねてしまうのです。

・標準品で勝負すべき顧客にまで、安易にカスタマイズを提供してしまう結果、(儲かるはずの標準品が売れないので)顧客ポートフォリオ全体での利益率を落としていく。また、開発や製造といった他部門に負担をかける。特に開発部門がカスタマイズに追われると、次の新製品開発に支障をきたす

・カスタマイズ製品でつかんだ顧客を深掘りするのに、継続的にカスタマイズ製品を売り込んでしまう結果、顧客あたりの売上げは伸びるが、利益率はどんどん低下してしまう。また、アカウントの大口化に注力するあまり、新規顧客開拓が手薄になる。大口顧客が離反した場合に、次に攻める顧客を擁しておらず、成長にブレーキがかかる

(本項担当執筆者:山口英彦 グロービス経営大学院教員)

『法人営業 利益の法則』
山口英彦(著)
1382円

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