富士山型ではなく八ヶ岳連峰型でキャリアを築く――藤原和博氏が若きリーダーに贈る言葉 

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前回に続き、2017年12月に行われた第4回G1カレッジより、「世界の模範となる日本の若きリーダー~G1カレッジが実現する100の行動~」の内容をお伝えします。(全2回) 動画版はこちら>>

3つのキャリアを掛け算する

図3
じゃあ、君たちが会社に入るなり起業するなりして希少性を著しく高め、ボードに書いた通り「100万人に1人の◯◯◯◯◯になろう」と言うならどうすればいいか。◯◯◯◯◯はちょっと後で明かしますが、まずは「1/100万の希少性」というのをちょっと頭の中に入れておいてください。これはオリンピックのメダリストと同じ確率です。ノーベル賞なら1/1000万。この計算がどういう根拠で成り立っているか知りたい人は、『藤原和博の必ず食える1%の人になる方法』(東洋経済新報社)という僕の本を読んでくださいね(会場笑)。

ただ、とにかく1つの分野で20年や30年かけて100万人のうちの1人になろうというのは結構不利な勝負なんですよ。おそらく、アスリートとしてオリンピックを目指している人とか、芸術家として絵を描いて世界で勝負している人とか、そういう人はここに来ていないですよね? きっと、どこかに迷いのある人が来ているんだと思う。違います? 自分という存在をどっちに張り出したらいいかまだ分からないとか、まだそれを保留しているとか、そういう人たちだと思うんです。たぶん、覚悟ができている人はもうここには来ないですよ。それを見つけたいからグロービスにも来るんだと思う。

そういうタイプの人たちに1番良いのは、1/100に1/100、そしてさらに1/100を掛けること。簡単に言うと3つのキャリアを掛け算して希少性をゲットするという方法です。たとえば10代から20代のあいだ、1つのことに1万時間ぐらいかけていけば絶対100人に1人にはなれます。営業を1万時間くり返したら、僕のように営業とプレゼンの…、まぁプロとは言わないけど、プロの手前ぐらいにはなる。それで稼げる人になれると思います。

経理でも受付でも、この1万時間というのが1つの大事なコンセプトになる。1日3時間やれば365日で1000時間だから10年。1日6時間、徹底的に集中して取り組めるなら5年じゃないですか? なんにしてもマスターするのは5~10年かかると思って、とにかく10代から20代のうちに1つ目の軸は決めちゃう。

で、それを軸足としてピボットできるようにしておきつつ、もう片方の軸はどこにしようかな、と。これは、会社に勤めていたら異動をかけてもらわないとできないですよね。経理から財務とか、営業から宣伝とか、宣伝から広報とか。いずれにしても、そうして再び1万時間かければ、2つ目の軸が決まる。これでライフラインが決まる感じになります。

ホワイトボードには20代から30代と書いたけれども、それを別に10代でやってもいいし、あるいは40代~50代でそこにたどり着くということでもいい。とにかく2つの軸を決める。そうして3歩目を踏み出す起点をつくってもらいたいんです。たぶんそのライフラインまでくると、年収にして数百万稼ぐことができるんじゃないかと思います。

そして最後が大事なんだけど、たとえば30代から40代になったら、その両辺を結ぶライフラインから一気にジャンプして、高さを出して三角形の面積を広げる。ただ、たとえば経理と財務をやっていた人は、その軸ができてるからということで、次はなんとなく関連会社の下請けをしたり、それでなんとなく「中小の会計事務所をやろうかな」みたい感じになると思うんです。人間って怖さを感じちゃうから、軸が2つ決まると、次は少ししか前に出ない。あるいはちょっと後ろに引いちゃったりする。それだと三角形の面積が広がらない。でも、その三角形の面積が希少性の高さだと思って欲しい。

ということは、3つのキャリアの掛け算がすごく大事になるわけです。その掛け算の力を、僕は「情報編集力」という言葉で今まで何回も何回も、この20年間ずっと言い続けてきた。知っている人は知っていると思う。これからは情報を「処理」する力、つまりプロセッシングする力がいくらあっても、それでできることはロボットやAIの仕事に置き換わっちゃう。だから情報編集力を鍛えなきゃいけないということを僕はずっと言っているし、学校でも『よのなか科』という授業でそれを教えているわけです。

ホリエモンもキングコング西野氏も…

図5

大体分かりましたよね? ホリエモンもこの考え方を絶賛してくれていて、『多動力』(幻冬舎)という彼の著書でもこのことが真っ先に出てきています。あるいはキングコングの西野亮廣君も『魔法のコンパス 道なき道の歩き方』(主婦と生活社)という著書で、このことについて6ページにわたって解説してくれていたと思います。

ホリエモンの場合、もう12~13歳のときにプログラミングで突出していた。だから1歩目はプログラマですよ。で、2歩目でオン・ザ・エッヂという会社をつくり、IT系の経営者をやりました。ただ、そのままだったら「ITベンチャーのでっかいの」みたいな感じにしかならなかったんじゃないかと思います。それでも立派なんだけど。

でも、そのあと事件になって収監されましたよね。そうして収監中に彼は1000冊の本を読んだ。そしてそのあと…、僕は驚いたんだけど、出てきてから書いた『ゼロ――なにもない自分に小さなイチを足していく』(ダイヤモンド社)という本を読むと、彼は哲学者になってましたよね。だから今、世の中のいろいろなモノやコトについて、彼が言うことはすごくバランスが取れている。すごく哲学してるな、と。だからこそ、君たちもいろいろなことについてホリエモンの言葉を聞きたい。今はそういう人気も出ているんだと思います。哲学者っていう軸が加わったわけですね。これは収監されたからだと思いますよ。

落合陽一君だって8歳ぐらいからプログラミングをやっていた。だから片方の足はプログラミング。堀さんだって最初のキャリアは住友商事じゃないですか。そこで商社マンとして地盤を築いて、100人に1人の商社マンになって、次にグロービス。ただ、グロービスで講義をやっているだけだったら、今のようにはならなかったと僕は思うんです。G1をはじめて10年、今はトップレベルを動かし、社会を根底から動かしていくというベクトルに至ったわけです。それはG1があったからだと思う。違いますかね、堀さん?

とにかく、そんな風にして3つの軸を掛け合わせていくと、もう100万人に1人のオリンピックメダリスト級になるという感じ。僕もキャリアのスタートはサラリーマンだった。最初の10年で営業とプレゼンをという軸をつくって、次にリクルート流のマネジメントをやりました。その2軸があったんだけど、40になる前、ちょっと考えたんですよ。このまま江副(浩正氏:株式会社リクルート創業者)さんの真似をしてもしょうがないな、と。「サラリーマン経営者としてどこまでか行ったとして、それでどうなの?」って。だから、自分の存在を賭けるなら今までと少し違う社会改革にチャレンジしたいと思った。それで37歳のとき子供を連れてヨーロッパへ出て、あちらで2年半間過ごしました。

ある意味では僕も哲学をしにヨーロッパへ行って、それで帰ってきてから40になって会社を辞めました。で、そこから年収が0~4500万のあいだでブレるような仕事をしたあと、「やっぱり教育分野なら僕のレバレッジ効果を最も高められるかな」と考えた。てこの効果が最も高くなるかな、ということで教育の世界に飛び込みました。47歳のときです。

東京都初、義務教育初の民間校長になりました。「教育分野に行ったらリクルート流の営業・プレゼンやマネジメントは通用しないよ?」とよく言われましたね。「風土がぜんぜん違うんだから無理に決まってんじゃん」って、9割9分の人に言われました。でも、やってみたら、なんのことはない。それが1番“効いた”わけです。それで、今は教育と人生と仕事を語れるという、非常に希少な存在になることができました。たぶん、英語で同じ講演ができたら、さらに年収は16倍になるかなと思っています(会場笑)。

というわけで、とにかく今お話しした掛け算がすごく大事ということはもうイメージできましたよね。「納得できた」っていう人だけ拍手くれる?(会場拍手)…大丈夫ですよね、はい。

富士山型一山主義ではなく八ヶ岳連峰主義

図4
では最後に、この「掛け算」が、仕事やキャリアをつくる意味で大事だけれども、人生にもすごく効いてくるという話をします。皆さんのひいおじいちゃんやひいおばあちゃんのなかには、明治生まれの人もいるじゃないですか。19世紀まで、日本人の平均寿命は40代だったんです。『坂の上の雲』(著・司馬遼太郎)の主人公だった秋山真之という連合艦隊の参謀は49歳で亡くなってる。夏目漱石も49歳で亡くなってます。

そんな風に40代で亡くなる人生なら、それはやっぱり人生の山だって1つになりますよ。15~16で元服して、そこから一生懸命やって一山築いて、そうしてひと仕事を終えたら、あとは余生という感じ。それが当たり前だったと思います。昭和に生まれた皆さんのお父さんお母さん、それからおじいちゃんおばあちゃんは、実はその人生観を引きずっちゃってるの。本当はもうちょっと寿命が伸びていたのに。だから30代~50代がひと仕事をするピークで、60や65で定年したあとは「余生」という感じになっちゃっていた。

それも平均寿命が75ぐらいまでなら、まぁ、いい線だと思うんですよ。でも、それがさらに伸びましたよね。今は90代から100歳まで。これからはサイボーグ技術もiPS細胞も、あるいは遺伝子操作もさらに発達するでしょうから、たぶん君たちの世代になれば、もう否応なく100年ぐらいまで生きると思います。そういう時代に、今までの「富士山型一山主義」の人生観で生きていくというのは、どう? あまりにも寂しくないか? たとえば会社で一生懸命に40年間働いて、そのあと引退してから40~50年あるんですよ。これ、まずいでしょ。

だから、君たちは新しい世代の人生観を持たなきゃダメなんです。じゃあ、新しい世代の人生観が何かと言えば、「富士山型一山主義」じゃなくて「八ヶ岳連峰主義」。いくつもの人生を重ねていくということです。まずは先ほどお話ししたような3つの軸で人生を3つ重ねる。で、さらに重ねて…、女性なんて9つぐらいの人生を生きる。旦那も3回ぐらい替えるぐらいの感じで(会場笑)。それぐらいの覚悟が必要じゃないかと思います。90~100年の人生を、できたら最後は登ってる最中に「プッツン」とこと切れたいじゃないですか。違う? 「富士山型一山主義」より「八ヶ岳連峰主義」がいいっていう人、ちょっと拍手してみて? (会場拍手)…ですよね。

だとしたら、数ある山を順番に登っていかなきゃいけない。しかも、1つの山を登っている最中も左右に2本ずつぐらい、本線とは別の支線をつくってコミュニティを育てていかなきゃいけない。その裾野が大事なの。そうしてコミュニティにおける自分のポジションをつくっていく。たとえば被災地支援でもいいし、地元の学校支援でもいいから、何か裾野のコミュニティでも1万時間やっていけば、必ず主峰に近いものへ育っていくと思います。

そんな風にして、最初から本線とは別に支線を左右2本ずつ、計5本ぐらいの人生を生きながら、その支線が育ってきたところで乗り換えていく。そういう感じがすごく大事になると思います。とにかく、もう3本ぐらいは同時に人生を走るぐらいの感じがいい。そうでもしないと…、今はもう「富士山型一山主義」というのは無理だと思う。だから、とにかく今日話したような掛け算の美学がこれから大事になるし、だからこそ情報編集力が大事になるということを僕はこれまで言い続けてきました。

というわけで、今日は質問を取りませんでしたが、「よのなかnet」という僕のホームページには、すごく古い、もう20年間同じフォーマットというツリー型の掲示板があります。そこでのみ僕は双方向の交流をしているから、君たちがもし質問を書き込んでくれたら僕がカズと言うハンドルネームで答えます。IDもパスワードもいらないし、君たちの本名やアドレスを明かす必要もありません。で、申し訳ないんですがFacebookとTwitterは片方向の瓦版的に使っているから、双方向のやりとりはしていません。

あと、一応今日の話は僕の『10年後、君に仕事はあるのか?――未来を生きるための「雇われる力」』(ダイヤモンド社)を読んでいただければ復習になります。これ、当然今日中にクリックだよ?(会場笑)  俺、帰ってからアマゾンのランキングを見ておきます(会場笑)。で、ランキングが上がったら堀さんにお礼のメール、みたいな(笑)。

それと一条高校についても少し。僕が校長になって2年間でどれぐらい面白い学校になったかというと、すでに今年の春、奈良県下ではすべての公立校のなかで1番人気になりました。応募倍率が最も高い状態で、2022年頃にはぶっちぎりになると思います。

たとえば授業でスマホを使っていたりするんです。どういう風に使うか、今シミュレーションしてみましょう。僕はここまで28分ほど話をしたけれども、今、質問ある人はいる? (会場挙手なし)…ほら、こうなるでしょ? みんな怖いから質問しない。質問がないってことはないよね。あるんだけど、フルセンテンスで、会場にこれだけの人がいるなかで発言するのは恥ずかしい。ちゃんと言えるかどうかわからないから。

そこで一条高校ではどうしてるか。それぞれ自分のスマホから質問させるの。全員に。そうすると、僕が授業をやっても亀山さんがやっても…、先日は茂木健一郎さんに授業をやったけど、全員から質問がきました。軽度発達障害の子も一生懸命スマホで質問してくれる。それをスクリーンに表示するんです。そのための「C-Learning」というソフトもあります。

つまり、スマホとWi-Fiと「C-Learning」によって、君たちが持っている情報を逆流させる機能が生まれたわけですね。これ、普通のICTとは違います。学校が普通のICTで何をしてるかというと、教員が見せたいウェブや動画を生徒に見せてるだけ。「そんなんだったらテレビを観てたほうがよっぽどいいんじゃないの?」って。

そうじゃなくて、児童・生徒が持ってる情報を逆流させる。意見をフィードバックさせるんです。あるいは質問や自分が出した答えもフィードバックさせる。そういうことを頻繁にやっています。わかりますよね? そうすると、思考力、判断力、そして表現力が高まるだろうという話です。

なんていっても無記名だから、かなり不用意な意見も言える。学校だとすべての授業が道徳の授業になっちゃうじゃないですか。「正しいことを言わなきゃいけない」みたいな。一条高校はそうじゃなくて、極端な意見まですべて取ることができる感じなんです。そういう一条高校の様子が見たいという人は、「一条LABO」という学校の“公式裏サイト”に(会場笑)アクセスしてもらえればと思います。

最後に1点。今日の希少性という話は、君たちにとっては、こういう言い方のほうが分かりやすいんじゃないかな。「レアカード」。つまり君たち自身をレアカード化しよう、と。100万人に1人のレアカードになろう。それが今日の僕からのメッセージです。どうもありがとう(会場拍手)。

スピーカー

1955年東京生まれ。1978年東京大学経済学部卒業後、株式会社リクルート入社。東京営業統括部長、新規事業担当部長などを歴任後、1993年よりヨーロッパ駐在、1996年同社フェローとなる。2003年より5年間、都内では義務教育初の民間校長として杉並区立和田中学校校長を務める。08年〜11年橋下大阪府知事の特別顧問。16年4月より奈良市立一条高校校長として生徒所有のスマホを100%活用し世界初の「スーパー・スマート・スクール(SSS)」を目指す。著書は『リクルートという奇跡』『つなげる力』(ともに文春文庫)、『藤原先生、これからの働き方を教えてください。』(ディスカヴァー)など累積133万部で講演回数も1200回を超える。人生後半戦の生き方の教科書『坂の上の坂 55歳までにやっておきたい55のこと』(ポプラ社)は12万部を超えるベストセラーに。日本の技術と職人芸の結晶であるブランドを超えた腕時計「japan」(文字盤漆塗り)や「arita」(文字盤白磁)を諏訪の時計師とファクトリーアウトレット方式でオリジナル開発し、第7弾まで完売。高校時代はバスケット部だったが、弱くてもっぱら強い女子バスケ部の相手をさせられた。いまは女子テニス部の練習に参加。3児の父で3人の出産に立ち会い、うち末娘を自分でとり上げた貴重な経験を持つ。詳しくは「よのなかnet」http://www.yononaka.net に。

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