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フジシールはなぜグローバル化を成功させ、なぜ長寿企業となったのか?

投稿日:2017/11/07更新日:2019/04/09

前回に続き、10月2日にグロービス経営大学院 大阪校で開催したセミナー「世界を舞台に躍進するフジシールの成長戦略」の内容をお伝えします。(全2回)

資金も人材も海外へ投資する

溝口聖規氏(以下、敬称略): 皆さんこんばんは。ここから対談に入らせていただきます。実は私、前職の監査法人時代からフジシールインターナショナル様に関与していました。監査の担当として、岡﨑さんともそれ以来、ずっとお付き合いをさせていただいていて、フジシールさんの海外拠点もいろいろ訪れたのですが、そのなかでつくづく「ユニークな会社だなぁ」と思っていました。

たとえば、日本の会社は海外子会社のガバナンスが非常に弱いと言われたりしています。また、特に海外でのM&Aでは失敗が多いといったこともよく言われます。フジシールはそういう点で成功している会社と言って良いと思うんですね。なので、そのあたりのご経験や秘訣のようなお話を伺いたいと以前から思っていました。

まずはフジシールの海外事業戦略について質問させてください。1975年当時、売上高20億円程度だった会社が米国進出を決意したわけですよね。20億前後というと、いわゆる中小企業だったわけで、当時のアメリカに製造拠点まで設けるというのはすごく思い切った投資で、例えるなら高校野球の選手がいきなりメジャーリーグに挑戦するようなものだったのではと思います。また、そこで取引する相手もクラフトフーヅだったりしたわけですよね。売上高20億の会社が1兆円企業のクラフトと直接取引をするというのは、すごく難しいことだったんじゃないかと思います。その辺について、当時不安はなかったんでしょうか。

岡﨑: 私自身は当時入社していなかったんですが、竹田や藤尾にその頃の話はいろいろ聞いています。実際、藤尾以外は皆不安だったでしょうね。ただ、藤尾は「社内の全員が反対しても自分がやる」と。会社の将来はグローバルにあるということですね。当時はダイエーが成長しはじめていた頃ですが、アメリカには本当に大きな「メガスーパー」があったし、物量もすごかったわけです。

竹田は当時の決断について、「たとえばアフリカへ行って靴を履いている人がいなかったら、“だから靴を売る当社は進出しない”と考えるか、“靴を履いてないんだから、そこで皆に靴を履かせるために知恵を出そう”と考えるか。そこでうちは“履かせる”方を選んだ」と言います。では、履かせるためにどうすればいいか。とにかく現地生産。だから機械をアメリカに持っていく。「機械を持っているのはフジシールだけだから絶対に強いはずだ」と。それでいろいろチャレンジしていたとき、クラフトフーヅの、たまたま権限を持った取締役の方とお話できるという機会がありました。

それで、その方を日本に呼んで社を挙げたトップ交渉に入ったわけです。アメリカでは新しい企業であってもトップの人がちゃんとしていて、その場で決断して「やるぞ」と言える企業はすごく信頼されます。クラフトとはそういう関係になりました。ただ、当時の日本ではまだ(スループットが)100bpmの機械しかなかったんですが、クラフトからはそれを300bpmに高めるというリクエストがあった。それでいろいろ開発を進めた結果、300bpmの機械を10ライン受注しました。今考えると本当にミラクルです。

溝口: そういうチャレンジングスピリットはどこから湧いてくるんでしょうか。

岡﨑: 私自身がこれまで学んだことと言えば、「考えていても時間の無駄」とか「とにかく何かやりなさい。アクションをとりなさい」ということ。そうしてトライ&エラーを通じて、やったことが良かったかどうかをきちんとレビューする。それがスピードアップにつながります。だから、やって良かったらそのまま進めばいいし、そうでなくても、目的さえしっかり掴んでいれば長期的に失敗することは絶対にない。そういう信念みたいなものを私自身は植え付けられたようなところがあります。

溝口: アメリカには国内営業等でエース級の方を赴任させていたわけですよね。日本の会社が新規事業の立ち上げで失敗する悪い例として、「既存事業が大事だから」ということでエース級の人材を出さないケースがあります。あるいは、そうした新規事業を外部から連れてきた人材にやらせたりして、それで成功しないという例があると思うんです。ただ、実際に現場を預かる立場としては、自分たちのところからエースを出せと言われてもちょっと抵抗感があるとは思います。その辺についても反対はあったと思うんですが。

岡﨑: もちろんすごく反対がありました。アメリカではどうだったかというと、当時は営業部長が2人いて、まずそのうち1人がアメリカに行きました。で、それから4年経った時点でもう1人の営業部長である前社長の竹田、そして私が一緒に行ったという流れになります。それぐらい力を入れていました。当時、営業チームは10名にも満たなかったんですが、それでもトップの部長を出したわけで、「日本側は潰れるんじゃないか?」と皆が言っていましたけれども。

溝口: やっぱりそこはトップの英断でしょうか。

岡﨑: そうですね。やるなら中途半端にはやらない。「ダメだったら止める」という選択肢はほとんど取らず、やってみてダメなら、次の手をいろいろ考えながらまた進む。常にそういう考え方でした。

溝口: 特に日本企業は加点主義より減点主義といいますか、どちらかというと傷を負わず登りつめるのが美しいといったような文化もあると思います。そのあたりのマインドはどうなんでしょう。

岡﨑: 失敗しないと強くなれないというくらいの気持ちでやっていますね。失敗を自分のなかで肥やしにして成長できる人間というのが前提になりますが。

企業を永続させるために委員会設置会社へ移行

溝口: ところで、2004年にはホールディング制、そして委員会設置会社に移行しています。この制度が導入されたのは実質2004年なので今年で13年目位になりますが、データ上では2017年7月時点で上場企業3,500社強のうち指名委員会等設置会社(以前は、委員会設置会社の名称)の形態は全体の約2%。1番多いのは監査役会設置会社で、約75%になります(日本取引所グループ調べ)。

この委員会設置会社という形態、何がネックに思われているかというと、社外役員が過半数を占める委員会という点なんですね。取締役会が指名委員会、報酬委員会、そして監査委員会という3つの委員会で構成されているんですが、このうち指名委員会は何をするかというと、社外の方が会社の取締役を決めるわけです。だから会社の人からすると、会社のことをわかっていない人間にクビにされる可能性がある、と。もう1つが報酬委員会。給料も社外の人に決められるわけです。この2点が、社内の取締役からするとリスクに感じてしまう。「“分からない人”が会社の重要なことや自分たちの身の振り方を決めちゃうんじゃないか」と。そんな恐れがあって、今もなかなかこの形態に踏み切れていない。

先ほどの岡﨑さんのお話ではありませんが、これも良い悪いという話じゃないんです。ただ、1つの形態としてそういう選択肢があるにも関わらず、それを選択できない事情があるわけです。でも、フジシールは2004年にその委員会設置会社へ移行しました。当時、初年度にこの形態を選択した会社は36社。フジシールさんは相当早かったわけです。これ、怖くなかったんでしょうか。煽ってしまって申し訳ないんですが(笑)、「よく踏み切ったな」と。そうした意見が社内からは出なかったんでしょうか。

岡﨑: たくさん出ました。ホールディング制への移行についても同じです。2003年に東証1部へ上場していますから、日本の会社の役員からすると「東証1部企業の役員から子会社役員に落ちる」というような感覚を持っていて。だから「いや、落ちるんじゃないんですよ」という話は何回もしましたね。委員会設置会社への移行についても、ほとんどの役員は「事業を知らない人にフジシールの特殊性を分かってもらうのは時間がかかる」と。そういう人々に力を与えることに対しては、反対の声がたくさん挙がりました。

溝口: 逆に言うと、どういったメリットを感じていたんですか?

岡﨑: 委員会設置会社に関しては企業の永続性です。時代が変わって誰が社長になるかわからないといった状況になったとき、「誰が通常とは異なるアングルの意見を出すことができるか」ということを当時はすごく考えていたんですね。それで、実際に社外取締役を任意でやっていらした企業もいくつか見させていただいたんですが、その結果、「やっぱりこれは活用次第ですごく良い結果になる。多様な意見を言ってもらえる」と感じました。特に我々がやっているようなパッケージというのは、ある意味、限られた井戸の中のような世界です。だからこそ、そこで一般論でもいいし、何でもいいからきついこと、あるいは通常と異なる意見を口にしてもらって取締役会を活性化する必要があると感じていました。

溝口: お話を伺うにつけ、常に「今」ではなく「先」を見ていらっしゃるという感じがします。それがいつまで続くか分からないにせよ、今現在のビジネスを当面守っていくことだけを考えれば、そこまでする必要ないのかもしれません。ただ、次の世代とか、そのまた次の世代のことを考えると今動かないといけない、と。なんというか、そういう危機感を持っていらっしゃるように感じます。「このままではいけない」といった思いは常にあるんでしょうか。

岡﨑: 「このままではいけない」というか、「何か1つでも良いものにしておきたい」と。このままでも、ある程度はいけるかもしれないけれども、少しでも可能性があるなら今より良いものにしておきたい、ということは考えていましたね。

ちょうど東証1部に移ったところでしたし、機関投資家のレベルも一気に変わりましたから。質問も凄く厳しくなるわけです。そうした株主の目を取締役会に入れたうえで厳しい言葉を聞けば、やっぱり出席しているメンバーも成長するじゃないですか。そういう風にすれば皆で成長できる基盤をつくることができると思うんですよね。だから取締役会でも、まずは執行役が社外取締役にプレゼンして意見をもらったうえで、それを踏まえて我々が改めて議論をして最後に決めるといった流れでした。

海外拠点にまで理念が浸透している理由は?

溝口: 一般的には、海外拠点というと社長や役員クラスは日本人にしている会社が多い。そこで“日本人村”と現地スタッフとのあいだでコミュニケーションギャップが発生したりする。でも、フジシールはというと…、もちろん日本人がいる拠点もありますが、例えば、ポーランドやメキシコには日本人がいない。すごくユニークだと思います。これはどういった方針なんでしょうか。たとえば現地子会社に日本人が1人もいない状態を不安に感じることはないんですか?

岡﨑: ヨーロッパの拠点にもいろいろあります。中心は今オランダになっているんですが、そこに中核となる日本人は何名かいて、月1度、各拠点のトップが全員集まります。日本人スタッフ3~4名、現地スタッフ5~6名でマネージャー会議を行っていますし、ほかにも機能的な会議は結構やっています。品質管理部門、開発部門、管理部門、あるいは営業部門でもそれぞれ集まりがあるので。そこで顔を合わせていろいろと話をする機会が多いこともあって、たとえばポーランドに日本人がまったくいなくてもマネジメントはブレない。かつ、フジシールの“イズム”もきちんと浸透していて、皆、それを踏まえたうえでやってくれます。各拠点でそういうトップが育っていますね。

溝口: どこかの場所に日本人が常駐することが現地の人々と常にコミュニケーションを取ることになるとは限らない、と。逆に、普段同じ場所にいなくても定期的に集まって必要なコミュニケーションを適宜取るほうが良いということでしょうか。

それで合点がいったことがあります。以前フランスで、あるフランス人の営業部長の方が、「フジシールのポリシーを知っているか?」ということで、私に細かく説明してくれたことがあるんですよ。あるいは、以前伺ったメキシコの拠点では月曜の朝8時からマネージャークラスの定例会をやっているんですが、そのあと日本のラジオ体操やっていました。今は英語のナラティブがついたラジオ体操のCDがあるらしくて。それを日本のつくば工場を見学に来た際、買って帰ったそうなんですね。その日本のやり方が「すごくいいプラクティスだ。自分たちも採り入れるべき」と。日本側から何か言ったわけではなくて、彼らが自主的に導入を決めたそうで。

岡﨑: そうですね。日本側は誰も指示してないです。

溝口: 会社のポリシーを現場にまで周知徹底・浸透させるのは大変難しいと言われますよね。フジシールはそこがすごく浸透している。なぜかなと思ったんですが、結局は要所要所でコミュニケーションをとっているということだと思います。場所や組織といった形の話ではなく、大事なのはそういう部分なのかなと理解しました。

それともう1つ。先ほど岡﨑さんからは「現地のマネージャークラスが育ってきている」というお話もありました。彼らをそういった立場や考え方に導くためには、どういったリーダーシップが必要になるとお考えですか?

岡﨑: 私自身はずっとCFOの立場でしたし、物事を決めてリードするのはトップだったわけです。ですからトップのリーダーシップとCFOのリーダーシップは少し違うかも知れませんが、マネージャークラスは常にトップと同じことを言っています。どこの部門でも、たとえば工場長に聞いても、皆同じことを言います。だからフジシールには学閥も派閥もない。トップのメッセージが1つあるだけ。大事なのは、できるだけ多くの人に同じことを言ってもらえるようにすることだと思います。

そのために、フジシールでは2007年頃から「バリューセミナー」というのも不定期に開催しています。これまで4回ほど開催していたと思いますが、そこに海外から日本からもシニアレベルの層を20~30人ずつ集めて、それぞれペアにしていろんな課題について討議してもらうんですね。ヨーロッパに集まって討議をして、そのあと一定期間を経て今度はテレビ会議でいろいろ議論をしたりして、それでまた3ヶ月後位に集まるといったことを1年間通して行います。そのなかでも、やっぱり日本人の幹部層はブレない。これはどういうことか。

以前、あるコンサルタントに「Creative」「Customer」「Control」「Communication」という「4C」で全世界の社員を分析してもらったことがあります。すると、世界中どこへ行っても「Creative」「Customer」がすごく高い。「Communication」がその次ぐらい。そして1番低いのは「Control」という結果が出ました。「Control」に関しては、もう存在してないのかなというぐらいの低さでした。これがフジシールの文化を形成している。そういう文化のなかで、フジシールのバリューもマネージャー層に浸透しているんじゃないかなと思います。

現場主義で課題を乗り越えていく

溝口: ちょっと目線を変えて、これまで海外事業を推進されてきたなかで、失敗談というか、反省点といったものがあれば、そちらもぜひ教えていただけないでしょうか。

岡﨑: もう本当に失敗の連続でした。25年間赤字を垂れ流していましたし、それでずっと我慢して減損に次ぐ減損といった状態で。そういうなかで1番の課題だと感じたのは、特に営業や技術のHRについて。競合他社にいた方が「キャリアアップのために」ということでフジシールにいらっしゃるんですが、3~5年経つと辞めちゃう。ノウハウもお客さんのことも知ったうえで。だからパッケージの展示会等に行くと、競合他社さんのブースで「フジシールのOB会ができるなぁ」なんて状態になっていたりして(会場笑)。そういうHRの取り組み、特に絶対出て行かれては困るような人材について、どのようにリテンションするかというのは1番の課題かもしれません。

溝口: そのあたり、「こういう風にして克服した」といった例が何かあれば、お話しできる範囲でお聞かせいただけないでしょうか。

岡﨑: 今はヨーロッパでもアメリカでもHRを強化しています。フジシールインターナショナル(グループのホールディングカンパニー)がHRのそういうところに入っていって、すべて個人名で「誰がどのくらいで」といった話もして。

溝口: 現地任せにしないあたり、1975年に竹田さんが現地を歩いて肌で状況を掴んできたこととも共通すると感じます。直接、自分で行きますよね。一緒にお仕事をさせていただいたときも感じたのですが、岡﨑さんは総論を嫌うような印象があります。「要するに、こういうことだよね」という話をあまり欲しがらない。「いや、それを言う前に、まずは現地へ行って見てきてよ」と。普通は一応、経費を使うことになるので、やっぱり実際に行くのは最後というか、「まず仮説を立てるなり、日本でできることをやってから」なんていう風になると思うんですね。でも、フジシールにはそれがない。「とりあえず行ってきて」と。これは、ご自身の経験も踏まえてそういうお考えになっているということでしょうか。

岡﨑: 現場主義が定着していますね。ヨーロッパで工場を開設する際もまずは現地に出向いていましたし。実際に行ってみると、やっぱり総論で見ているときと全く違うレベルのいろんな事実や情報が入ってくるじゃないですか。もちろん、そこで個別に任していることについて直接文句は言いません。ただ、そこで「あ、こんな問題もあるんだな」という情報が入ってくることで、たとえば数字の見方も変わってくる。新しい視点で、それまで見えなかったものも見えてくる。そういう部分を大切にしています。そのために現場のいろいろな人とも気楽に話をしますから、「フジシールのトップは気さくだね」と言われているみたいですが。

溝口: たしかに、ぱっと会ってもトップの方かどうか分からない感じで(笑)。実際、現地マネジメントの方々もすごくモチベーションが高いというのは、現場を拝見してすごく感じていました。グローバルボードメンバーが現地まで来て自分たちの話を直接聞いてくれたり、意見を反映してくれたりするというのは、やっぱり嬉しいですよね。日本人以上にローカルマネジメントやスタッフは喜んでいるように感じます。名誉に感じるところがあるみたいで。そういう部分もフジシールの“イズム”定着に寄与するし、さらには彼ら自身が部下に対して“イズム”を継承するようなリーダーシップの発揮にもつながると感じます。

岡﨑: それともう1つ。定期的な取締役会は年4回あって、それは通常2日ずつ行うんですが、秋は1週間海外で行うんです。そこに取締役も執行役も全員集まって工場を視察したり皆で歓談したり、あるいは意見を述べ合ったりするという、そういう場もあります。

溝口: そういうところからも海外の拠点やビジネスを重視されていることが分かりますよね。その結果が、海外売上高比率4割、実質ほぼ半分にまで高まっているという数字にもつながっているのだと思います。数字に裏付けがあるというか、行動が伴っているということなのかなと思いました。

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