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シリーズAまでにガラッと変わった組織と事業―estie平井瑛×湯浅エムレ STARTUP INSIGHT #1

投稿日:2022/04/01更新日:2022/06/23

本連載では、毎月スタートアップ経営者をゲストにお招きして、起業家の生の声からインサイトを得ていきます。第1回のゲストは、オフィスビル情報プラットフォームを運営されているestie代表取締役CEOの平井瑛さん、聞き手は、ベンチャー・キャピタリストの湯浅エムレです。
※本記事は、3月31日に配信されるPodcast「STARTUP INSIGHT」を書きおこし編集したものです。(anchor spotify

オフィスビル情報プラットフォームの必要性

湯浅:今日は、オフィスビル情報プラットフォームを運営するestieの平井さんにお越しいただいております。どうぞよろしくお願いいたします。

平井:どうぞよろしくお願いいたします。

湯浅:平井さんは2018年12月に創業されていますが、まず創業のきっかけをお話しいただけますか。

平井:もともと国内の不動産会社で海外不動産に投資していました。実は日本にいながら、ワシントンのオフィスを買うのは結構簡単なんです。なぜなら詳細なマーケット情報が手に入るから。

後に国内でオフィスビルの賃貸営業をすることになったのですが、これが非常に難しい。海外と違って日本では隣のビルの賃料すらわからなくて、どうやって仕事をすればいいのか悩みました。そこでオフィスビルのデータベースをつくれば、業界や社会へのインパクトは大きいと思って創業しました。

湯浅:創業から3年たちましたが、今のestieはどんな状況ですか。

平井:日本最大級のオフィスビルのデータベース「estie pro」と賃貸オフィスのマッチングサービス「estie」を提供しています。会社としては、2022年1月に10億円のシリーズAの資金調達を完了したので、ここから事業をどんどん伸ばしていこうというフェーズに入ったところです。

組織づくりを意識し、権限委譲

湯浅:2020年7月にプレAの資金調達をされています。シリーズAの2022年1月まで約18ヶ月ありますが、その間に大まかにいうとどんなことがあったのでしょうか。

平井:事業面と組織面で会社がガラッと変わった感覚があります。当たり前ですが、事業が非常に伸びましたし、組織も大きくなりました。

「estie pro」を本格的にお客さんへ提供しはじめたのが2020年4月の第1回緊急事態宣言が始まったくらいのタイミングで、アーリーアダプターというか、最初のお客さんが使いはじめてくれていたような時期でした。

最初はとにかくMRR(月次経常収益)を伸ばしていかないといけないので、僕もCTOも、営業したり、サービスをつくったりと、全員がフロントマンになってやっていました。メンバーは10数人くらいしかいなかったんですけど、2020年の半年間くらいは、その体制でしたね。

それが大きく変わったのが、2020年冬から2021年に入るぐらいのタイミングです。事業が伸びて、特定のセグメントには刺さっているという感触があって、それを他のセグメントにも伸ばして、シリーズAに向かおうと思ったときに、組織づくりを意識し出しました。そこからの1年間は、ひたすら権限委譲です。権限委譲して、その過程をドキュメンテーションしていく仕事に自分の時間を結構使っていた記憶があります。

PMFは、「熱狂している顧客」をベンチマーク

湯浅:最初はプロダクトをしっかり作っていき、PMF(Product Market Fit:製品やサービスがと特定の市場に受け入れられること)の兆しが見えてきたタイミングで、組織化に入ったということですが、estieの場合はこのPMFをどう定義していましたか。

平井:すごい難しい問いですよね。社内では、熱狂的に使い込んでくれるお客さんをベンチマークしていました。「このお客さんの使い方が、プロダクトの価値を一番出している」というお客さんは、定性的にわかりますよね。なので、新規のお客さんが3カ月後にどれくらい、その方と同程度の使い込み度合になっているか―具体的には、機能の使い方のバランス、使用時間など―をKPIにしました。そういう人が、会社の中に1人でもいたら、その会社は満足している、つまりPMFしていると捉えていました。

湯浅:売上とか導入件数といった表面的なことではなく、ユーザーの利用状況をしっかり把握・分析しているのが面白いですね。熱狂的なお客さんをベンチマークにされたということですが、比較がないと誰が熱狂しているかはわからないと思うなか、どのぐらいのサンプル数があったら熱狂している人を特定できるのでしょう。また、このセグメントにおいてPMFしたと判断できたときの顧客数はどのくらいでしたか。

平井:不動産業界に特化しているので、顧客数はそもそもそんなに多くないんです。初期では、例えば10社で10人ずつ100人が使っているくらいのレンジで、3人にすごい響いている人がいたら、その3人を各社1人、10人にしていきましょう、というようなイメージです。本当に初期の初期はそれぐらい泥臭い数字の積み上げだったと思います。

湯浅:かなり細かく見てられたんですね。ちなみに、当初営業は1人ということですが、その方がCS(カスタマーサクセス)なども全てされていたんですか。

平井:今となってはすごく良かったなと思うのですが、当時は、全員がCSをやっていました。プロダクトマネージャーも、エンジニアも商談の場に出ていく。新規の商談もそうですし、既存顧客との定例会議にも出ていく。なんならプロダクトマネージャーがその議論を回すみたいなことを、人がいないのもあって自然にやっていたんです。

そうすると、エンジニアが開発の議論をしていても、「○○株式会社の○○さんがこういうことを言っていたよね」と、バイネームで意見が出るんです。BtoBのビジネスってお客さんから遠いイメージがあると思われがちですが、estieはバイネームで分かるぐらいお客さんに近いのが特徴的だなと思っています。

(社内の会議の様子)

開発メンバーとビジネスメンバーの比率を揃えていく

湯浅:ちなみに当時、プレAのタイミングでは、何人くらいの組織だったんですか。

平井:15人いないぐらいだと思います。1人が営業で、10人以上が開発チームにいて、残り数名、2、3人がコーポレートみたいな、そんな形でした。

湯浅:開発チームは具体的にいうと、エンジニアとデザイナーですか。

平井:エンジニア、それからデザイナーとプロダクトマネージャーが各1人いました。

湯浅:ビジネスサイドと比較して、開発チームに相当偏った組織体制だったと思うのですが、意図的に開発チーム側にリソースを寄せていたのでしょうか。

平井:完全に意図してそうしています。さきほど「何をしたらPMFか」という話をしましたが、僕らは未だにPMFしたと満足しているわけではなくて、常に自分たちはもっとフィットできるんじゃないかと思い続けています(笑)。ありがたいことに外からはPMFしたよね、と言っていただけますが、社内では「もっと」という議論をします。

そのためには、物を作れる組織でないといけないと思っています。なので、僕らは思想として「物を作れる単位」というのを大事にしています。今も各サービスをデザイナー1人、プロダクトマネージャー1人、エンジニア1人を最小とするユニットで同時並行でいくつもの開発を進めていますが、それぐらい「物を作れる単位」に対するこだわりは強かったですし、今もそうです。

湯浅:私もプレAから投資させてもらってご一緒していますけど、外から見ていると、セグメントごとにPMFをじわじわ広げていっている、常に新しいセグメントにPMFさせていっている、そんな感じの印象があります。

平井:そうですね。徐々に対応できる業務領域とか、対応できるお客さんの属性を広げていっています。それが組織の話と関わってくると思っています。

プレシリーズAの段階だと営業は1人で、着実にプロダクトを作ってお客さんと話すというのを愚直にやっていましたが、流石にデリバリーの限界が来まして、2人目の営業を雇えたのが、創業から2年目の2021年2月でした。

今から1年前とかそういうレベルの話なんですけど、2人目の営業を雇えて、そこからは2カ月に1人ぐらい採用ができて、と少しずつ人が増えて、今2022年の第1クォーターの状況で言うと、ビジネスメンバーが5人です。

湯浅:今後は、ビジネスメンバーの比率を開発と同じようにされていくわけですか。

平井:この1年から1年半をかけて、チーム全体を32人から80人ぐらいにしていきたいと思っています。その中でプロダクトチームも、ビジネスチームも、ざっくり30人ぐらいで、比率としては同じぐらいにしていきたいです。

(estie社のメンバーと。中央が平井氏)

最も予期しなかった出来事

湯浅:ここまで、シリーズAまでの道のりを伺ってきましたが、とはいえ、平坦な道ではなかったのではと思います。シリーズAまでのところで最も予期しなかったこと、あるいは、最も大変だったことを何かご紹介いただけますか?

平井:隠しているわけではないのですが、わざわざ話すことではないので、ほとんど話したことがないのですが、せっかくエムレさんとこうやって話しているので…

湯浅:もしかして本日初公開ですか?

平井:具体的なお話をするのは本当に初めてだと思います。実は創業した時は、3人で創業していて、今残っているのは僕だけなんです。スタートアップあるあるかもしれませんが、最も予期しなかったことは一緒に始めた創業者が辞めてしまったことですね。本邦初公開です(笑)。

湯浅:たしかに、それは予期しないことですね。シリーズAまでにそういうことが起きたということですよね。

平井:そうですね。プレシリーズAの前に1人辞め、プレシリーズA直後に1人辞め…という感じなので、もう1年半ぐらい前の話ですけど。

湯浅:これは平井さん個人としても影響が大きいと思いますし、組織とか事業への影響もあると思うんですけれども、どういうふうに対応していったんですか?

平井:僕自身が一番変わるタイミングになったかなと思います。当時皆かなりハードワークをしていたんです。特に創業者は、いろんな意味で、気持ちの面でもハードワークできるじゃないですか。その中で、キーマンの創業者が辞めるというのは、すごく大きな出来事だったんですけど、その時に「このままだとチーム全体が長距離走を走りきれないだろうな」と気づいたんです。

さきほど、プレシリーズAが2020年7月で、2020年の冬とか2021年の頭に、僕の役割が組織を作ることにシフトしていったと申し上げましたが、まさにそれが共同創業者が辞めたあとのタイミングです。スケーラブルな組織とか、働いている人がハッピーな組織や仕事の仕方とは何かということに初めて目を向けました。そこで初めてで大丈夫か、と突っ込まれる話ではありますが。

湯浅:投資家目線ですが、プレAで投資させていただいた時は、そのハードワークっぷりがすごくいいなと思ったんですよ。当時オフィスや飲み会にお邪魔させてもらっても、良い意味で部室感があったじゃないですか。熱気も熱量もあって良いチームだな、と。でも、おっしゃる通り、そのままでは規模化できなくて、プレAからAのところでシフトさせていく必要性があったのかもしれないですね。

平井:事業をやっていて一番大事なのはお客さんに価値を届けることですが、このままだとサスティナブルに価値を提供し続けられないと気づきました。どこのスタートアップもどこかで直面するんだと思いますが、僕の場合はそういうことがきっかけでした。

ノールックで信頼できる仲間が何人いるか

湯浅:ありがとうございます。ここまでプレAからシリーズAまでの道のりを伺ってきましたが、最後に、これからシリーズAを目指して邁進している起業家の方々に向けてのアドバイスとか、もしくはベストプラクティスとかがあればお願いします。

平井:僕がそんな大層なことを言える立場では全然ないのですが、僕なりに大事だと思うことをお伝えしますと、一番は良いチームが作れているかだと思います。良いチームとは何かというと、創業者や社長をされている方向けの定義になりますが、自分がノールックで信頼できる人が周りに何人もいるということです。

シリーズAを経てスケールしていくフェーズにいざ突入した時に、やっぱり創業者の働く時間を倍にはできないので、無理矢理にでも権限委譲しないといけない。権限委譲するのは不安だと思うのですが、だからこそ「僕の言うこととか無視していいから、いちいちレビュー求めなくていいからお願い」と言える人がどれぐらいいるかというのが本当に大事だと思います。

あともう1つは、シリーズAをやろうとすると、TAM(Total Addressable Market:獲得可能な最大の市場規模)とか、PMFしているのかという質問はたぶん必ずされると思います。そこは、良い意味で話半分でディスカッションすればいいんじゃないかなと僕は思っています。仮説を立てるのはもちろん大事なのですが、されど仮説に過ぎないというか、その仮説が正しいかどうかは、どこまで行ってもシリーズAで調達して踏んでみないと分からないものだと思います。

「あくまで仮説ですがこうです、その仮説信じてくれますか?」ないしは、「もっと良い仮説になるよう一緒にブラッシュアップしてくれますか?」という議論をしてくれる投資家さん、もっと良い仮説を一緒に探していきましょうと言ってくれる投資家さんと出会えると、すごく良いんじゃないかなと思います。

湯浅:たしかにシリーズAの資金調達完了と言っても、目指している山の大きさからするとまだまだ1合目くらいで、今後の事業展開を考えると仮説だらけですよね。そこを一緒にブラッシュアップしていく相手は重要だと思いますし、初めにおっしゃられた背中を預けられる仲間も、おっしゃる通り大事だと思います。

平井さん、本日はお忙しいところありがとうございました。様々なインサイトをいただきました。また、シリーズBのタイミングでAからBまでの話をお聞きできればと思います。本日は本当にありがとうございました。

■一問一答

Q:休みの日の過ごし方

平井:最近子どもが生まれたので、休みの日はなるべく家にいて、たまに一緒に外に出て散歩したりしています。

Q:好きな本

平井:『貞観政要』(じょうがんせいよう)という本が好きです。唐の時代の太宗、李世民の政治哲学をまとめた本で、今の経営にも学びになることが多く勉強になります。2021年発売の『ユニコーン企業のひみつ』というSpotifyの成長物語を描いた本がありますが、言ってることはほとんど一緒です。

Q:最近買って良かったもの

平井:何もついていない木の天板だけの机を買って、DIYで天板の裏にMac miniをネジで取り付けて、コードも隠したりしたのですが、それですね。今、かなり心地よく在宅ワークができています。

Q:最近身に着いた新しい習慣

平井:子どもが生まれたので、授乳のタイミングに生活リズムを合わせることです。前は自分のペースで家事もできたのですが、子どもが寝てる間に全部やらなければいけないので、すごい密度が上がった気がします。

Q:今後このPodcastに出演してほしい人と聞きたいこと

平井:30人くらいの組織で創業3年、シリーズA前後みたいな、そういう同じぐらいのフェーズにいるスタートアップの経営者の話は聞いてみたいです。個人的には、投資もしてもらっていますし、身近なすごい起業家として(GCP代表パートナー、グロービス経営大学院学長の)堀さんの話は聞いてみたいです。

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