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【日経コラム】西洋が東洋から学ぶこと

投稿日:2017/06/28更新日:2019/04/09

5月中旬、カンボジアの首都プノンペンで世界経済フォーラム主催の国際会議が開かれた。僕は日本代表の一員として会議に参加し、面白いテーマのセッションに登壇した。

タイトルは「東洋と西洋、アイデアの融合」だ。セッション説明文にはこう記載されていた。「英国の欧州連合(EU)離脱やトランプ現象に見られるとおり、西洋では社会の断絶が起こり、保護主義や自国主義など内向きの政策が進められている。一方、東洋は相対的に政治・経済・社会的に安定しているように見受けられる」

そして3つの質問が投げかけられた。1つ目が「このような社会的断絶は西洋だけのものだろうか」。2つ目が「西洋だけとすれば、なぜ東洋では起こっていないのか」。3つ目が「西洋は東洋から何を学ぶべきか」だ。

自分なりの見解をまとめるため、プノンペン入りする前に有識者と意見交換した。そのうちの1人がシンガポール国立大リー・クアンユー公共政策大学院院長のキショール・マブバニさんだ。セッションの1つ目の質問について聞いてみると「西洋だけの問題で、東洋には起こっていない」との見解が返ってきた。

そこで、「フィリピンや韓国の大統領をどう説明するのか?」と突っ込んで聞いてみた。彼の答えは「ポピュリズムかもしれないが、保護主義でも自国主義でもなく、内向きでもない」というものだった。

プノンペン入りして、セッションに登壇した。僕はマブバニ氏の意見を踏まえつつ、なぜ欧米では断絶が起こり、東洋では起こっていないかを次の通り説明した。

米国のトランプ大統領は就任演説のときに「忘れ去られた人々」という言葉を使い「もはや彼らは忘れ去られることはない」と力説した。

そもそも誰が「忘れ去られた人々」なのだろうか。投票行動からもわかる通り、「忘れ去られた人々」は、地方在住の相対的に高齢で低学歴の白人男性だ。いわゆる地方にいる工場労働者が多い。彼らが抱く不満が、トランプ氏躍進につながった。

では、なぜ忘れ去られたのだろうか?それは単純な理由からだろう。欧米では、工場が海外に移転し閉鎖される際に、労働者を解雇する意思決定がなされる事例が多い。労働者は、工場移転に伴い職を失い、忘れ去られてしまうのだ。

日本では工場を閉鎖しても、労働者は再教育・再配置されて雇用を維持されるべく企業は努力をする。欧米では、労働者を「費用」としてとらえがちだが、日本などアジアでは労働者を「資産」として考える。日本やアジアの場合は忘れ去られた人々は相対的に少ないのだ。

40年近く前だが、ボストン・コンサルティング・グループ日本支社の創設者であるジェームズ・アベグレン氏が「日本の会社はコミュニティーである」と指摘している。

この日本的なコミュニティー経営は、海外からは批判が多かった。日本はバブル崩壊後に「失われた20年」などと言われ、欧米からは「停滞した経済」というレッテルを貼られてきた。企業業績の面でも自己資本利益率(ROE)や時価総額で欧米の方が優位に立っている。

だがここにきて西洋は保護主義・自国主義化して、内むきになり、社会的断絶が起こっている。一方日本は、政治的・社会的にも安定している。今まさに、日本的なコミュニティー経営や社会的システムが見直され始めているのだ。

セッションが終わった。テーマおよびトピックは、西洋の悩みを象徴していた。西洋は今、新たな社会のあり方を模索しているのだ。

「東洋は西洋から多くのことを学んできた。感謝状を出すに値する。だが学びは双方向でなければならない。これからの時代は、西洋は東洋から多くを学ぶ必要がある」とマブバニ氏が僕に語ってくれたことを思い出していた。
 

※この記事は日経産業新聞で2017年6月23日に掲載されたものです。
日本経済新聞社の許諾の元、転載しています。

 

 

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