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キャッシュフローとは?現金が増えるとキャッシュフローが減る

投稿日:2017/03/14更新日:2019/04/09

タイトルを見て「ん、逆ではないか?」「現金が増えるからこそキャッシュフローも増えるのでは?」と思われた方も多いでしょう。しかし、ファイナンス上、ある前提のもとでは、実は現金を増やす(増える)ことはキャッシュロー減につながるのです。今回はこの点について説明しましょう。

キャッシュフローは一般的には以下の式で定義されます。

キャッシュフロー=純利益+減価償却費-投資-⊿運転資本

DCF法などを用いる投資の意思決定においては、この式のキャッシュフローをフリーキャッシュフロー(FCF)に変更します。これは、資金調達を100%エクイティ(株式)でまかなった時のキャッシュフローです。一般には以下の式で表わされます。

フリーキャッシュフロー=営業利益×(1-実効税率)+減価償却費-投資-⊿運転資本

ここまでおさらいした上で、現金が増えるとキャッシュフローが減るという点について説明しましょう。

ファイナンスの初学者の人が悩むのが、⊿運転資本、つまり運転資本(ワーキング・キャピタル)の増分です。「運転資本(WC)の計算方法、どれが正しいの?」で示しているように、運転資本の定義には、

運転資本=売上債権+たな卸資産-仕入債務
運転資本=流動資産(現金及び預金除く)-流動負債(借金除く)
運転資本=流動資産-流動負債(借金除く)

といったようにいくつかのパターンがあります。これが実はミスコミュニケーションの元凶ともなる、ファイナンスの急所の部分です。今回の、「現金が増えるとキャッシュフローが減る」に関連するのは、最後の「運転資本=流動資産-流動負債(借金除く)」と考えた場合です。これは、事業運営に必要な現金は、在庫などと同様に「資金が拘束されている」と見て運転資本に含めるという発想に基づきます。

具体例で考えてみましょう。ここでは、事業運営上、現金、しかも当座預金などではなく、文字通りの現金(紙幣や貨幣)を必要とする典型的な業態であるセブン銀行を例にとります(なお、会計上の勘定科目である「現金預金」あるいは「現金・預金」は、紙幣や貨幣に加え、当座預金や普通預金も含みます)。

セブン銀行は、収入のほとんどは金融機関からの手数料が占めます。そしてその源泉となるのが、全国に約22,000台(2016年3月末現在)設置されているATMです。ATMの中には現金を一定額以上入れておく必要があります。セブン銀行のビジネスを運営する上で、この現金は必要不可欠と言えるでしょう。

同社の「現金預け金」の額ですが、同じく2016年3月末時点で641,558百万円となっています。これは余剰現金も含む額と思われますので、このうち実際にどのくらいの額がATM内にあるのか、さらにはセブン銀行の事業運営に必須なのかは不明ですが、仮にATM1台あたり1000万円の現金が事業運営上必要と考えると、220,000百万円となります。国債などで運用するのではなく、現金預け金として置いている以上は全額が事業運営上必要な現金と考えることもできますが、ここではいったんこの220,000百万円という数字を用います。

これがどのくらいのインパクトかと言えば、同社の年間の経常収益は110,465百万円(ATM受入手数料は102,261百万円)ですから、おおよそその2倍となります。つまり、セブン銀行では、年間売上げの倍の現金の用意がATM稼働のために必要なのです。

つまり同社では、仮に、先の最初の定義に基づく、純利益+減価償却費-投資-⊿(売上債権+たな卸資産-仕入債務)が前年と同じだったとしても、たとえばATMの台数が増え、この「拘束される現金」が仮に10,000百万円増せば、実質的なキャッシュフローは10,000百万円減ってしまいます。これが「現金が増えるとキャッシュフローが減る」ということの趣旨です。より正確に言えば、「事業運営上必要な現金が増えると、実質的なキャッシュフローが減る」というのが本質的なポイントです。

セブン銀行ほど多額ではなくても、一般の製造業の場合、概ね売上高の1%程度の現金はこのように拘束されていると言われています(この数字は、ビジネスモデルや商慣習、商材などによって大きく変わります)。

こう考えると、本来の運転資本は、
運転資本=流動資産(余剰現金除く)-流動負債(借金除く) あるいは、
運転資本=ビジネス運営上必要な現金+売上債権+たな卸資産-仕入債務
などとする方がより正確と言えます。

これについては、アカデミックな世界でもさまざまな議論があり、DCF法による投資判断のシーンなどにおいては、事業運営上必要な現金はやはり何かしらの方法で見積もり、その増分は差し引く方がいいのではという意見が多数出されています。

しかし、この「事業運営上必要な現金(=拘束される現金)」を正確に定義・測定しようとすると必ずしも簡単ではありません。余剰現金との線引きが意外に難しいのです。過去に実際に必要になった額や比率を用いるのか、それともバッファとして置いている現金まで含めるか等の問題が生じるのです。

外部から見たときには、勘定科目がたな卸資産や売掛債権のようには分かれておらず、分かりにくいという問題もあります。

そこで実務上は、多少の誤差には目をつぶり、従来通りの運転資本の定義で計算することが多いのです。一般に予測B/Sなどにおいては、たな卸資資産などは、売上げの10%などとラフに置くことが少なくありません。それに比べれば、売上げの1%くらいであれば、その数分の1であり、ほぼ誤差と考えうるという発想です。

ただし、在庫のインパクトの方が大きい平均的な製造業などはともかく、今回見たセブン銀行のように、事業運営上、多額の現金を必要とするようなビジネスモデルでは、このやり方では意思決定を誤りかねません。

単に教科書の定義を丸暗記するのではなく、妥当性の高い意思決定につなげる上で、実質的な運転資本、すなわち企業がビジネスを運営していくのに必要な資金としてどこまで含めて考えるべきなのか、という点は意識しておきたいものです。
 

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