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【日経コラム】すごい地方企業の共通点は地元の「におい」

投稿日:2017/03/08更新日:2019/04/09

先日「地方企業のすごい経営戦略」というテーマのシンポジウムに登壇するため、水戸市に帰省した。僕の得意分野ではないので、事前に徹底的に調べることにした。地方発で成長した企業を体系化した結果、大きく3つに分類できることがわかった。

1つ目が「地方発グローバル企業」だ。愛知県東部の三河地方が発祥のトヨタ自動車、石川県小松市のコマツ、浜松市のスズキやホンダなどが該当する。茨城県であれば、1910年に鉱山機械の修理工場として始まった日立製作所がある。

2つ目が「地域ドミナント型多角化企業」だ。新潟市を拠点に学校や医療福祉事業を展開するNSGグループ、福岡県で医療や教育・不動産などを手掛ける麻生グループなどがある。茨城県では、トヨタの販売店や信用組合を経営する幡谷グループが有名だ。圧倒的な強みを生かして事業を多角化する地方の名士型だ。

3つ目が「地方発の多店舗展開型企業」で小売・外食に多い。山口県のファーストリテイリングや大阪府のカルチュア・コンビニエンス・クラブなどがそうだ。ラーメン店「一風堂」を運営する力の源ホールディングスも発祥は福岡県だ。茨城県には、カジュアル衣料大手のアダストリアと家電量販店のケーズホールディングス(HD)がある。

アダストリアは1953年に福田屋洋服店として始まった。今では、売上高2000億円、営業利益160億円を稼ぐ。国内外で1300店舗を展開し、社員数は約4700人に達している。ケーズHDは47年に加藤電機商会としてラジオの販売・修理をなりわいに始まった。現在は売上高6400億円、営業利益220億円の業績を誇る。

あまたある小規模店舗の中でなぜこの2社だけが急成長を遂げたのか。共通項がいくつか見つかる。1つ目がいち早く県外に進出し、株式を上場していることだ。人材やお金、知恵といった経営に必要な資源を最善の場所から調達している。2つ目がM&A(合併・買収)を活用して他ブランドや店舗を購入し、成長スピードを速めていることだ。

3つ目がユニークな経営手法だ。アダストリアの企業理念は「なくてはならぬ人となれ なくてはならぬ企業であれ」。ケーズHDは「社員を大事にするがんばらない経営」を標榜している。ユニークな戦略は創業者2人、そして僕の母校でもある水戸一高の石碑に刻まれている言葉「わが道をゆく」に通ずる。

「成功したグローバル企業は創業の地のにおいがぷんぷんとする」。経営共創基盤の冨山和彦氏がこう言っていた。創業の地で醸成された企業文化・理念といった独自性が「におい」つまり強さの源泉だ。トヨタからは三河の堅実経営のにおいがする。サムスン電子からは韓国固有の強烈なスピード経営のにおいがする。イケアからはスウェーデン南部エルムフルトのシンプルで質素なにおいがぷんぷんする。地元のにおいが消えることはアイデンティティーの喪失を意味し、強みを失うときといえよう。

改めて茨城・水戸のにおいとは何だろうかと考えてみた。「納豆のにおい」という冗談はさておいて、まずは明治維新の端緒をつくった強烈な使命感と他の先駆けとなるリスクテイクの思想が当てはまるだろう。さらには倹約の精神だ。ケーズHDは徹底的なローコスト戦略で成長してきた。先日放映されたNHKの「ブラタモリ(水戸編)」でも「あるものを使う」という倹約の精神がさかんに紹介されていた。

「地方企業のすごい経営戦略」とは、創業の地のにおいを大事にして、積極的に外に新たな分野に出ていく成長戦略ともいえよう。これからも数多くの地方企業が独自戦略で成長することを期待している。地方企業の発展こそが、地方創生の原動力になると信じているからだ。

※この記事は日経産業新聞で2017年3月3日に掲載されたものです。
日本経済新聞社の許諾の元、転載しています。

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