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ブラザー工業 宮脇健太郎氏「部門の壁を越え50億円事業を創出、目指すは1000億円ビジネス!」

投稿日:2016/12/09更新日:2020/03/10

MBAの真価は取得した学位ではなく、「社会の創造と変革」を目指した現場での活躍にある――。グロービス経営大学院では、合宿型勉強会「あすか会議」の場で年に1回、卒業生の努力・功績を顕彰するために「グロービス アルムナイ・アワード」を授与している。2016年、「変革部門」で受賞したブラザー工業株式会社の宮脇健太郎氏(グロービス経営大学院名古屋校、2015年卒)に、MBAの学びをどのように活かしたのかについて聞いた。(聞き手=GLOBIS知見録「読む」編集長 水野博泰、文=荻島央江)

知見録: 受賞おめでとうございます。受賞の感想は?

宮脇: 欲しいアワードだったし、いずれはそこに到達したいと思っていた。そのためには、どういう事業に取り組み、どのくらいの結果を残さないと駄目だろうなと、ある程度逆算もしていた。ただ「その先」はあまり考えたことがなかった。だから受賞を聞いたときまず思ったのは「大変だ。次は何をすればいいのか」ということ。僕自身は企業組織の中の一課長にすぎない。今までの受賞者の経歴と比べて格段の差がある。そんな人たちに混じり、アルムナイ・アワードを受賞したからには、この賞に恥じないよう、これから相当頑張らないといけないと思った。

知見録: まずはここまでの道のりを振り返ってほしい。

「既存事業も新規事業もWin-Winになるビジネスを立ち上げろ!」

宮脇: 僕は大学で機械工学を、大学院では情報処理を専攻していた。入社以来研究開発の担当で、新規事業の立ち上げにずっと携わってきた。ブラザー工業ではこれまで新規事業を幾度となく立ち上げてきたが、ここ10~15年は大化けする事業は出てこなかった。既存事業との軋轢はその要因の1つ。既存事業も新規事業もWin-Winの関係になるようなビジネスを立ち上げろと言われていた。

知見録: 宮脇さんが手掛けた新規事業について教えてほしい。

宮脇: ドキュメントスキャナを核としたソリューションビジネスを創りたかった。スキャナーから攻めてプリンターを巻き込む形を目指した。なぜならプリンターや複合機の領域では富士ゼロックスやキヤノン、リコーなどの競合企業が強すぎる上、ライバル全体では数百社もいる。片やスキャナーはわずか数社。このため、2012年に自社が得意なC(消費者)向けの製品から市場に入り込み、拡大のためにM&Aも検討し、経営再建中だった米イーストマン・コダックのスキャナー事業の買収を試みたが失敗。2013年の4月のことだ。

では次にどんな手を打つか。個人向けのドキュメントスキャナで売れているのが、富士通の「ScanSnap」。BtoBに強い富士通が個人仕様に出したもの。我々はその逆、Cから攻めてBに行く道が現状ではベストなアプローチであると考えた。

当社にも複合機はあるが、ソリューションの場合はあまり使われていない。入口と出口が別の業務になっている。文書を保存したり整理したりするスキャン業務と、最終的にそれをワークフローで使い必要に応じてプリントするという業務だ。ドキュメントマネジメント、フローの入口と出口を押さえればその間のソリューションも自ずとできるんじゃないかと考えた。

知見録: ドキュメントマネジメントのビジネスが、ブラザーからなぜもっと早く生まれなかったのかが不思議なくらいだ。

宮脇: ブラザーはC向けが得意な一方、B向けが不得意。Bなら個人事業主ぐらいのレベルが一番得意、そこから上は途端に弱くなる。これまでもB向けに行こうと努力をしてきたが、プリンターの競合企業に阻まれてきた。そこを突破して少しでも顧客を獲得できれば、プリンターをどんどん投入してという絵は描きやすい。

スキャナーのBtoB市場は富士通が寡占していてなかなか入れない。そこでグロービス経営大学院で学んだことをフル活用して、食い込めるような戦略を描いた。プリンティングだけでもスキャナーだけでもない、ネットワークスキャナーという軸がその要。ネットワークで押して入って、そこを絡めてスキャナーとプリンティングでシナジーを効かせる。

プリンターではどうしても入れなかった。その突破口がスキャナーだ。今あるスキャナー技術を最大限活用すれば確実に勝てるという絵を描いた。富士通もコダックもプリンターを持っていない。キヤノンとエプソンはグループ会社が手掛けている。

これはどう考えても投資効果が一番上がるなと踏んだ。例えばネットワーク技術や電子部品を作るとか、液晶パネルのUIを作り込むには数億円単位の金がかかる。プリンティングではそれを簡単に回収できるが、スキャナーでは回収できない。市場規模50分の1のところで同じ技術を使えるかというと使えない。だから他社はそこに積極投資はしてこないと判断し、我々はどんどん投入していこうという戦略だ。

MBAクラスで戦略を練り込み、現場で即実践

知見録: その戦略は、グロービス経営大学院の「イノベイティブ・ストラテジー」(三谷宏治講師/実践的、革新的な戦略を立案するためのスキルを磨く講座)を受けて練り込んだものだとか?

宮脇: そうだ。そこでストーリーを集中的に考えてブラッシュアップし、愚直に実行していった。既存事業の開発リソースを100%生かすというのがコンセプト。それが他社に向けての勝ち筋だった。スキャナー用に開発部を作ったとしても、そこに多くを投資できない。コダックや富士通に必ず負ける。既存事業の開発リソースとボリュームを最大限に活用する。これは絶対に曲げないと社内に宣言してやっていた。

その姿勢を崩さなかったために、逆に既存事業の開発部隊とは戦わざるを得なかった。彼らは既存事業で手一杯の状態なので嫌がったが、粘り強く、なだめ、すかして、ねじ込んだ。

実は、それまでは新規事業開発にあたり、人を集めて、新しい部署をつくって、予算を取って、ということをしてきたが、そのやり方で散々失敗してきた。既存事業の開発部隊から離れるべきではないということが身にしみていたのだ。

知見録: R&D部門のメンバーなら誰でも、新しい事業の柱を立てたいと思っているはず。宮脇さんのように従来のやり方に懐疑的な人もいれば、元気なメンバーを遊軍として集めてゲリラ的に始めたほうが良いという人もいたのでは?

宮脇: 確かに、メンバーの8割は自分たちでゼロからつくったほうが早いと考えていたと思う。既存事業を動かすのは本当に骨が折れる。ただ、長期的に見た時に成功の確度は低くなることもみんな分かっている。そこで、既存事業の部隊からも受け入れてもらいやすい、事業規模にして数十億円ぐらいのものを選んだ。連携の小さな成功モデルを作り、次々にその連鎖をつくっていく作戦だ。

今のブラザー工業はプリンターの会社だが、いつか、「プリンターの会社だった」と呼ばれるようにしたい。今年3月に発表した新中期戦略では、「プリンティング事業中心の体制から、今後の成長が見込まれる産業用領域や新規事業に重点を置き、複合事業企業を目指す」と宣言した。

我が社はずっと低成長率の産業(PLC中後期)で生きてきた。「この事業がなくなってしまう前に何とかしろ!」ということを繰り返し、変革を繰り返しながら生き延びてきた。ミシンがなくなる前に何かやらないとあかんでということでタイプライター、タイプライターがなくなる前に何かやらないとあかんでということでファックス、ファックスの次がプリンター、プリンターがなくなる前に何かやらないとあかんというのが今。事業選びは必ずしも上手くないが、飽和した事業の中で食い続けていくのは上手い。

そういうことが得意な人、面白いと思う人が集まっている。入社したときに決まって「今の事業はあると思うな。新しいことやれ!」と言われる。それで新しいことをやりたい人だけが残る。だから、新規事業を一丸となってサポートするという文化はある。横の事業部との垣根は低く、連携は取りやすい。他部門のメンバーにものが頼みやすく、新規事業は立ち上げやすい環境にあると思う。

しかし、プリンティング事業は名だたるメーカーがひしめく競争環境で部分最適を強いられている状態。だから、新しいことをやりたいって言っても、「そんなリソースは割けない」と言われてしまう。

だから、協力を要請しても担当者のほとんどに「ノー」と言われて、すべて自分たちでやった。例えば、製品を梱包する段ボールがある。あれをデザインしないと運べないし、売ることができない。国ごとに通関の基準があるので、合わせて作り込まないと輸出できない。専門部隊に頼んだら「できない」と断られたので、「せめて、やり方を教えてください」と頼み込んで自分で作った。300~400ページもある取扱説明書とか、製品を売り出すのに必要なものは何から何まで自分たちでやった。

知見録: よく腐らなかった。

宮脇: 確かにその頃は「どうしてこんなことまでやらなければいけないのか」と思っていた。

だが、なんとしてでも新しい事業を立ち上げたかった。その思いをぶつけながらやり続けていると、次第に皆が協力的になってきた。最初の製品をなんとか立ち上げ、次の機種、その次の機種に取り組む辺りから、部門の壁を超えて仲間が増えてきた。「宮脇さんがそこまで言うならやりますわ」と言ってもらえた時は嬉しかった。こちらも、他部門が困っているときには飛んでいって手伝ったりもした。

それが3年前くらいの話。そういうことを一つひとつやり続けていると、周りの評価がどんどん変わっていった。

知見録: グロービス経営大学院の「パワーと影響力」で学ぶ「返報性の原理」を実践した(笑)。

組織に埋め込まれたイノベーション創出のメカニズム

宮脇: 「やりたい人に、やりたいことをやらせる」というのが、うちの会社の文化。現場はやりたいことをやり、上司は阻害要因を取り除くことに努め、それ以外に関してはあまり口を挟ない。苦労を重ねながら様々な部門と連携を取って、新しい価値を生み出すことができた人が上がっていく。

うちのMBO(目標管理制度)では、どんな「行動」をしたかが評価され、昇進が決まる。つまり、横のつながりをどれだけ作ったかとか、どんなチャレンジをしたかという項目で評価が決まる。他部門を巻き込んでいろんなことをやっている人が評価される仕組みだ。

知見録: 違うものを掛け合わせ、現場からボトムアップでイノベーションを生み出すことが、評価制度に明確にビルトインされているということか。

宮脇: もちろんトップダウンの指示もあるが、現場は「それどころじゃない!」となかなか動いてくれない。

知見録: だが、「トップダウン」「公式の力」に頼らずに組織を自分たちの力で動かすということはかなりのエネルギーが必要だ。そこを切り崩そうとする人が次々に出てくるのは、なぜだろうか。

宮脇: おそらく、そういうことを過去にやってきた経験者が上にいるからだと思う。かつて部門間障壁と戦い、何とか新しい事業を立ち上げた人が上にいて、僕のような後輩を何も言わずに温かい目で見守ってくれている。実際、僕が部門の壁を越えて動いても、他部門の部長から文句を言われたことは一度もない。むしろ「どんどんやれ」と言ってくれる。

知見録: 部門の壁を越えるための宮脇さんの秘策は?

宮脇: 僕はだいたい同期入社組を頼る。「すまんが、やってくれよ」と頼み込んで、少しずつひっくり返していく。同期がいなかったらきつかった。横のつながりというのは本当にありがたい。衝突が起こることが目に見えている会議でも、事前に握っておけるのは他部門の同期連中だ。「たぶんこのあたりが落としどころだ」と思うところであらかじめ合意しておいて話を進め、目配せしながらやっていく。日本的で古臭いと言われるかもしれないが、うちは、このやり方で新規事業を生み出してきた。

知見録: グロービス経営大学院に入学したのはいつ?

宮脇: 2011年から単科で学び始め、12年に入学した。まさに新規事業立ち上げと同じタイミングで、苦労していたとき。「自分の力だけではどうにもならない。勉強しないと駄目だ」と考えた。立ち上げと同時進行だったので、正直、かなりきつかった。でも、あえて自分にぎりぎりの負荷をかけたことで仕事も勉強も効率を考えるようになった。自分で言うのもなんだが、能力はかなり上がったと思う。

グロービスで学んだものは全部、仕事に投入した。“柔らかい”段階でどんどん放り込んで、トライ・アンド・エラーを繰り返していたので自然と身についた。「人はこうやって動かすんだ」とか「上手に戦略を立てれば必ずうまくいく」とか。それでも苦労するところは多かったが、余計に学ぶ意欲が沸いてきた。自分の仕事も学びによってどんどん変化し、成果が出た。それが目に見えたので、多忙の中でも勉強し続けられたと思う。

知見録: グロービス経営大学院で学ぼうと思ったきっかけは?

宮脇: MBAを意識したのは米国ニュージャージーに5年半、赴任していたとき。向こうの上の人たちは多くがMBAを取得していて、議論になると理路整然とコテンパンにやられていた。そうこうするうちに帰任が決まり、帰国後しばらくしてグロービスで学ぶことにした。

1000億円の事業を作り、幸福を生み出す

知見録: グロービス経営大学院では常に志を問い続ける。宮脇さんの志は?

宮脇: 僕は入社時から1000億円の事業を作ると言い続けていた。なぜ1000億円かというと、社会に影響を与えられる大きさだからだ。それが作れれば、それなりの数の人たちを幸せにできるはず。今はまだ道半ばで50億円程度の事業しか作れていないが、いつかこの目標を達成したい。

知見録: 今後、会社の中でどう動いていきたいか?

宮脇: 新規事業立ち上げに際して、役職は課長だが、僕自身は自分を事業部長だと思って取り組んだ。すべての戦略を決定したし、上司も僕に全面的に任せてくれた。次はもう少し広いエリアで複数の事業を見るとか、会社を丸ごと1つ見るというようなことをしたい。それが次の目標だ。

今回の経験で1つステージが上がったとは思うが、それをどう使いこなすか、そこで自分の立場を構築できるかが次の課題だと思う。今までは明確な目標があり、そこを目指してステップを踏み、1つひとつクリアしてきた。今は次に行くべきところが見えない。そういう領域まで来た気がしている。

知見録: 今メンターと呼べる存在はいるか?

宮脇: そういう人を作らないといけないなとは思う。でも今でもグロービス経営大学院でいろんな人と話す機会があり、補われている。あすか会議に行けば諸先輩方からいろんな話が聞ける。

知見録: ブラザー工業だからこそ宮脇さんの活躍があったのかもしれない。

宮脇: そうだと思う。他の会社なら潰されていたはずだ。

グロービス アルムナイ・アワード2016 変革部門
宮脇健太郎氏(ブラザー工業株式会社 営業・マーケティング推進部 チーム・マネジャー)の受賞理由
1999年、ブラザー工業株式会社に入社。「1000億の事業を創造する!」を目標に掲げ、R&D部門に在籍しながら数多くの新規事業プロジェクトに参画。2004年から米国販売会社出向を経験しながら、2009年の帰国後は新事業企画担当部門にて事業企画/立ち上げ業務を担当。2012年ドキュメントスキャナ事業を立ち上げ、BtoB向けのソリューションビジネスを推進。新たなBtoB営業を世界中に展開するため、年間25か国以上を回り、パートナーやエンドユーザへの直接営業から、現地セールスのトレーニング、サポートを行い事業拡大に貢献。2016年からは自社にBtoB営業を根付かせるため、営業・マーケティング推進部にて営業活動の変革に邁進されています。

 

グロービス アルムナイ・アワードとは?
「グロービス アルムナイ・アワード」は、ベンチャーの起業や新規事業の立ち上げなどの「創造」と、既存組織の再生といった「変革」を率いたビジネスリーダーを、グロービス経営大学院 (日本語MBAプログラムならびに英語MBAプログラム)、グロービスのオリジナルMBAプログラムGDBA(Graduate Diploma in Business Administration)、グロービス・レスターMBAジョイントプログラムによる英国国立レスター大学MBAの卒業生の中から選出・授与するものです。選出にあたっては、創造や変革に寄与したか、その成功が社会価値の向上に資するものであるか、またそのリーダーが高い人間的魅力を備えているかといった点を重視しています。

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