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濱松誠×伊藤羊一(2)みんなに諦めてほしくない

投稿日:2016/06/30更新日:2021/10/25

リーダーシップの出現メカニズムを解き明かす本連載、前回はパナソニックで組織や部門を横断してメンバー同士の交流を図る会「One Panasonic」を主宰する濱松誠さんに、交流会で具体的にどのようなことをされているのか伺いました。今回は、「One Panasonic」を続ける理由や今後の目標について教えていただきました。(全2回)

<プロフィール>
One Panasonic代表 濱松誠
1982年京都市生まれ。大阪外国語大学卒業。2006年松下電器産業(現パナソニック)に入社。海外コンシューマー営業、インド事業推進を経て、12年に社内公募でコーポレート戦略本社 人材戦略部に異動。パナソニックグループにおける人材戦略の立案や人事諸制度の設計・運営を担当する傍ら、同年、組織や部門を横断して社員同士の交流を図る有志の会「One Panasonic」を立ち上げる。16年3月から、コミュニティサービス事業、コンサルティング事業、旅行事業などを多角的に展開するパス社に出向。資本関係のない国内ベンチャー企業への出向はパナソニック初のケース。

まず10人の飲み会から始めてください

伊藤: One Panasonicは、内定者懇親会がそもそもの始まりですよね。何事も最初の取っ掛かりが大変だと思うのですが、その会は具体的にどうやって実現させたのですか。

濱松: 同期など一人ひとりに自分で声を掛けました。「久しぶりに飲みに行こう」と誘って、そのときに「今度、内定者と飲まない?」「実はこんなことを考えていて」と話すとか、そんな感じです。

内定者や新入社員が来るというのが、参加動機になるんですよ。若い世代の人から「話を聞きたい」と言われたら、ほとんどの人が「だったら行こうか」となる。仮説を持ってやり続けて検証しました。

伊藤: 200人規模のイベント「One Panasonic」から始めるとなると難しいかもしれないけど、40人の飲み会だったら、誰でも少し頑張ればできそうですよね。

濱松: 例えば、100人以上集めるとなると、自分だけではく、仲間にも結構頑張ってもらわないといけません。でも40人程度なら何とかなる。まずはここから始めてよかった。この内定者20人、社員20人の飲み会がなかったら、今のような状況はたぶんないと思います。

今、いろいろな企業がOne Panasonicのような取り組みを始めています。ただそう簡単にはいかないようで、よく「人が集まりません」とか「どういう会にしたら盛り上がるのか分からない」といった声を聞きます。

いきなり200人規模の真面目に話をする会を開いたって誰も来ません。だから「まず10人の飲み会から始めてください」とよくアドバイスしています。パナソニックは社員数が多いから、20:20の40人でも集まるけど、もっと規模が小さければ10:10の20人でも、5:5の10人でもいい。

伊藤: ここで大事なのは、会を続けたこと。継続した結果、仲間が増えていったところが一番の要諦ですよね。

濱松: そうです、それが一番の要諦です。もちろん、ただだらだら続けても、マンネリ化して年々参加者が減っていくようでは駄目でしょう。内定者懇親会の場合は1年目40人、その後は50人、60人、80人、90人と年を追うごとにメンバーが増えていきました。それには工夫が必要です。面白い人を呼ぶとか、他社の人を1人だけ混ぜるとか。一斉メールじゃなくて一人ひとりに個別にメールを送るとかめっちゃ細かいことです。

伊藤: これは記事にしないほうがいいのかもしれない。読んだ人が本質を理解せずに、事象だけ見て「ずいぶん簡単だな。そういうテクニックを使えばいいのか」と思っちゃうから。テクニックが良いんじゃなくて、大事なのはテクニックと思いの両方、このハイブリッドなんですよね。

濱松: その通りです。思いがないのに、テクニックをいくら駆使してもまるで意味がない。多くの人の共感を得るのに思いは絶対に必要です。先ほど話した他社の人たちは強い思いを持っているので、うまくやるコツのようなものを教えるというか、みんなでシェアしていきたいと思っています。

僕は着火石、未来に向かって走る人を増やしたい

伊藤: 濱松さんは今後どんなことを目指していきたいのですか。

濱松: 「みんなに諦めてほしくない」みたいな気持ちがあるんですよ。僕はバスケットを小学校時代からやってきたので、「あきらめたらそこで試合終了だよ」というスラムダンクの安西先生の言葉がすごく好きなんですが、情熱や思いを持ち、それを仲間に丁寧に伝えていけば、人はついてくるし、すべてではないけれど、やりたいことができる可能性は高まる。僕はOne Panasonicを通じてそう思ったし、そこに集う仲間を見ていてもそうです。

だから僕が、心に火をつけるモチベーター、着火石になって、未来に向かって走る人を増やしたい。具体的には、大企業の中からイントラプレナー(社内起業家)と呼ばれる人がたくさん出るような土壌というか、コミュニティーをつくりたいと思っています。

伊藤: びっくりした。僕もほぼ寸分違わず同じことを思っていた。僕は頑張っても報われなくて諦めちゃう人を減らしたいんですよね。それについて濱松さんはすでに何かアイデアがあるのですか。

濱松: 経営者には経営者の、ベンチャーにはベンチャーのネットワークがあるのに、大企業の特に若手、20代、30代にはそれがない、もしくは希薄だと思っています。それに大企業の場合はなかなか自由に発信もできない。僕はOne Panasonicという出島、ほぼ自由に発信する特区をつくりました。大企業の20代、30代が頑張るためにはネットワーク化や発信が必要だと思います。

最近はOne Panasonicと似た取り組みを手掛ける富士ゼロックス、NTTグループ、JR東日本、リコー、ベネッセなど数社で「One JAPAN」という緩やかな団体も立ち上げました。同じ志や課題意識を持つ同年代同士で日本企業の活性化を目指しています。ただ、これは単に大企業だけで集まるのではなく、外資系企業やベンチャー、NPOや行政などと連携を強化して、オープンイノベーションや組織活性化、ひいては人材の流動化を進めていくプラットフォームでありたいと思っています。

不平不満を言う側ではなく、常に言われる側になる

伊藤: 濱松さんからは有り余るエネルギーを感じますが、それを保つために何かしていることはありますか。

濱松: 1つは人と会うことです。誰々と会って、こんな質問をされたとか、こういうのに共感していただいたとか、すごく刺激になる。もう1つは講演などで発信することです。発信すればよくも悪くも反応が返ってくるのがいいですね。

伊藤: 自分のエネルギーにしようと意図的にやられている部分があるのですね。濱松さんにとってリーダーシップとは何ですか。

濱松: 確固たる情熱と志もしくは思いを持ち、継続した行動に仲間を巻き込んでやり続け、孤独と批判を恐れずに発信をしていくことでしょうか。

伊藤: かなり明確に言語化されていますね。それをご自身の中で明確に意識されているということですね。

濱松: 自分が正しいと信じることは、勇気を持って言っていこうと思っています。それで批判されてもいい。批判が出ることこそリーダーの証し、それがリーダーへの階段だと勝手に解釈しています。不平不満を言う側ではなく、常に言われる側になろうと思っています。自分がリーダーになれるかはわかりませんが、折角この世に生まれてきたんだから、社会により良い影響を与えられる人間にはなりたいですね。

伊藤: One Panasonicの運営メンバーは今何人くらいいるのですか。

濱松: 大阪を中心に、全国に20人程度います。

伊藤: 通常の組織の指示命令系統ではない中で、なぜみんな濱松さんについてくるのか。運営メンバーへの接し方で何か心掛けていることはありますか。

濱松: 僕についてきてくれているのか、One Panasonic自体に魅力を感じているのか、それは分かりません。でも、やっぱり一番はOne Panasonicの理念や思いに共感しているからだと思います。もちろん、参加することによる個人のメリットが得られるということもあると思いますが、それぞれが会社生活の中で様々な原体験を持っていて、それを何とかしたいという思いが人一倍強い。そうでなければ、毎週仕事が終わった後、22時から24時までミーティングをしようとかならないですよ。
そんなメンバーへの接し方で心がけていることは、まず自分自身がコミットメントしている姿を見せること。コミットメントをするというのは、誰よりも考えて、誰よりも働くということです。そのうえでメンバーに任せています。

あと、心掛けているのは、自分の弱みを見せることです。わからないことはわからないと素直に言えるところだったり、涙もろいところだったり、たまにはチャラい部分だったり。僕は弱みを見せるリーダーシップというのが大事だと思っています。強さだけじゃ誰もついて来ない。それはある程度意識してやっています。強さと弱さを持つ「人たらしの」リーダーに憧れます。

【インタビュー後記】

濱松さんは、情熱的な方です。話しっぷりも、実際の行動についても、熱量がとても高く、その熱さに人は心動かされます。
しかし、それだけでは、広がらないはず。One Panasonicというムーブメントが、どのように生まれ、育っていったのかというストーリーは、濱松さんの熱さをベースにしつつ、他にもいろいろな要素があるに違いない、と思っていましたが、今回の対談で、その片鱗を理解することができました。

濱松さんのお話から学べることはたくさんありますが、なかでも大切だな、と思ったのは、(1)Why?から始める、(2)小さく始める、(3)継続は力なり、(4)仲間の存在、という点。このように書くと当たり前に聞こえるかもしれませんが、(1)「なぜこれをやるのか」ということが明確にあれば、それを伝えることによって人は共感し、動かされる、(2)では最初から皆が動くか、と言えばそんなはずはないので、共感して動く気になった、ごく小さなところから始める、(3)小さく始めるところから大きな流れにしていくには、何回も繰り返して、さざ波を広げていく、(4)継続し、強い流れにしていくには、一人ではできず、仲間と一緒にやっていく。こういう流れを、しっかりと順を追ってやられている。素晴らしい実務家としての要素もお持ちです。

強い情熱があり、戦略もロジカルに考えられる。やはりリーダーには、その両面が必要なのだよな、と改めて強く感じました。その上でやはり最後は、ことを成し遂げていく行動力。これは、起業家でも、大企業に勤める方でも同じですね。

濱松さんがPanasonicで始められたOne Panasonicは、他の企業にも、ぞれぞれのワンチーム化に向け、急速に波及しつつあります。大規模な組織をボトムから変革するパワーがますます強くなるよう、私もできる限りサポートしていきたいな、と思いました。
 

次回は、ランサーズを起業した秋好陽介氏にインタビューします。

https://globis.jp/article/4642

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