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サービスローンチ後2年程度のスタートアップ「Oscar」がバリュエーション $2.7bnで$400Mの大型調達を実行しました。日本では未だ馴染みのない企業かもしれませんが、医療保険の分野で非常に面白い挑戦をしているのでご紹介したいと思います。

Oscarとは?

Oscarは医療保険を提供するスタートアップです。

ただ、従来の医療保険とは異なり、ただ保険を提供するだけでなく、契約者の健康維持に積極関与することで、全体の医療費(と医療保険料)を下げることを目指しています。

例えば、Oscarの契約者であれば、医師との24時間電話診察、往診、ジェネリック医薬品の処方、一般的なワクチンや検査などがすべて無料になります。また、契約者にフィットネスモニター(Misfit Flash)を無料配布し、フィットネス状況に応じて報奨金を提供しています(最大$20/月)。病気予防や早期診断・治療によって深刻な病気や手術を減らそうという施策です。

ユーザーエクスペリエンス(UX)も優れており、医療保険に申し込むための全ての手続きがスマホで完結でき、過去の往診履歴や処方歴も一括管理することもできます。症状を入力するだけで近隣の専門医を紹介してくれるサービスもあり、「健康のことで不安になったらとりあえずOscarを開いてみる」という立ち位置を作り出しています。

Oscarの躍進

そんなOscarは、2014年のサービスローンチ以来(創業は2012年)躍進を続けています。

NY州から始まり 、NJ州、CA州、TX州と徐々に広げており、契約者数も約16,000人(2014年)→40,000人(2015年)→145,000人(2016年)と急成長しています。平均保険料は$5000/年だそうで、2016年の保険料収入は約$750Mと推計されます。

Oscarの急成長は、従来のアメリカの医療保険に対する不満の表れともいえます。国民皆保険が存在しないアメリカでは医療保険は大きな問題で、医療保険が高すぎて加入できない人が4800万人いたり(2012年)、個人破産の6割のケースが医療費によるものと言われたりしています。加えて、保険料、免責額、自己負担額、自己負担最高額が絡み合った難解なプランや、医療費の支払い申請が異常に複雑だったりして、「医療保険は分かりにくくて高額」という問題がありました。それを分かりやすく、簡単に、お手頃価格で提供するのがOscarです。

また、制度変更の機も狙ったのが成功要因でもあります。2010年にオバマ大統領がAffordable Care Act(通称オバマケア)を成立させ、2014年から特定の条件を満たす場合は個人医療保険に補助金を提供開始したことで、今まで医療保険に加入していなかった層(ブルーオーシャン)を一気に取込むことができました。

今後、Oscarは毎年3-4州ずつ拡大し続ける予定で、5年以内に契約者100万人を目指すとしています。

創業者は金融・医療業界のイーロン・マスク?!

Oscarの創業者は3人いますが、特にJoshua Kushnerはすでにカリスマ的存在になっています。

Joshuaの父は不動産王(推定資産$500M)であり、Joshuaが幼い時から工事現場や交渉現場に連れて行き、ビジネスマインドを徹底的に叩き込んだと言われています。帝王学のおかげか、Joshuaはハーバード大学在学中(2007年)にブラジルでソーシャルネットワーキングサイトVostuを起業、ピボットを経た後に同社はをブラジル最大のソーシャルゲーム会社(4000万人利用)に育て上げました。

2009年にはThrive Capital(ベンチャーキャピタル)を創業し、2012年にSequoia、Greylock、 BenchmarkといったトップティアVCと競りながらInstagramのSeries Bラウンド(時価総額 $500M)にゴリ押しで入り込み、その3日後にはFacebookに$1bnで売却するという奇跡のプレーを繰り広げます。

そして、Thrive Capitalのマネージングパートナーに就きながら、2012年にOscarを創業しました。ちなみに、2014年にはCadreという商業不動産売買プラットフォームのスタートアップも共同創業し、こちらも今年1月に$50M調達しています。

裕福な家庭で育ったお坊っちゃんかと思いきや、ハードワークと謙虚な性格を持ち合わせているらしく、オフィスで寝泊まりをすることも多いのだとか。また、Instagramに出資した金額を3日で倍にした直後も、”Heads Down”, “Stay Focused”, “Ignore the Noise”と自分のデスクに貼って、舞い上がることなく仕事に取り掛かったようです。

ちなみに、ここまで経験豊富なJoshuaは1985年生まれの30歳です。

Oscarの今後

そんなスーパースターが経営するOscarは、Peter Thiel、Khosla Ventures、Google Capital、 General Catalyst Partners、 Founders Fund、Fidelityなどの有名VC/エンジェルに支えられ、累計$700M以上を調達しながら爆進中です。

一方、規模の経済が活かせず、病院に対する交渉力が無いため、コスト面で不利だったり、初期ユーザーの期待値の乖離からの悪評判も多々あり、必ずしも順風満帆とはいえない状況です。

特に、コスト面の不利さは短期にはどうにもできない部分もあり、現在は提携病院を絞ってコストを下げてなんとか競争力を保とうとしています。また、無料の付随サービス(24時間電話診察、ジェネリック医薬品、検査)や優れた情報管理システムを提供することで、価格以外の優位性を築こうとしています。今回の$400Mの調達資金でどこまで効率的に規模拡大できるか注目です。

将来的には、テクノロジー企業としてデータを活用した個人の健康管理(ならびに医療費・保険料の削減)に踏み込んでくれることを期待しています。

日本は国民皆保険制度があるので、同様のビジネスモデルは成り立たないでしょうが、保険という従来のプロダクトカテゴリを超えて、顧客目線でのトータルソリューションの設計、テクノロジーを駆使したユーザーエクスペリエンスの向上は、日本の金融・医療業界を変革する上でも参考になる部分は多いかと思います。

※  湯浅エムレ秀和の個人ブログはこちら

※ 本記事は湯浅エムレ秀和の個人ブログから転載したものです(初出: 2016年3月7日)

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