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情報過多​時代​に目立つには? ―『アテンション―「注目」で人を動かす7つの新戦略』

投稿日:2016/03/05更新日:2019/04/09

本書は、米国strategy+business誌が選ぶ2015年ベストビジネスブック賞(マーケティング部門)を受賞した話題の1冊である。著者のベン・パー氏は特にメディア戦略やブランド戦略に長けたベンチャー・キャピタリストであり、前職のニューサイト共同編集者時代には、同サイトをTwitter上の影響力世界第1位メディアに育て上げた実績を持つ。

注目(アテンション)の重要性はいまさら説明するまでもない。インターネット時代になって、あらゆる人々が情報発信できるようになった結果、情報量は激増した。こうした情報過多の時代には、まさに注目(アテンション)こそが企業にとって極めて重要な経営資源となり、競争優位の源泉となる。注目を集められない企業は、売上げも上げられないし、他の経営資源を獲得することも容易ではなくなる結果、ジリ貧になっていく可能性が高い。特に、一般消費者を相手とするBtoCやCtoCのビジネスではその傾向が高いことは容易に想像がつく。本書は、そうした情報過多の時代にいかに注目を集め、社会に影響を及ぼすかというテーマに対してヒントを提供するものである。

本書のメッセージは極めてシンプルである。注目には3つのタイプがあり、まずはそれを理解することが必要ということ。そして、注目を集めるためには、7つのトリガー(動機付けの方策)があるということである。3つのタイプを理解した上で、7つのトリガーを巧みに組み合わせることができれば、高い費用対効果で大きな注目獲得ができるというのである。特にページ数を割いて説明しているのは7つのトリガーの各論であり(各トリガーについて1章ずつを割いている)、著者自体、「注目が働く仕組み」を体系化することが本書の重要な目的であると述べている。

まず、3つの注目のタイプとは、「即時の注目」「短期の注目」「長期の注目」である。著者はこれを焚火になぞらえ、「点火」「(小さな)藁火」「(大きな)焚火」の比喩を用いている。まずは点火をし、それを徐々に大きな火とし、最終的には人々が詳しく知る「大きな焚火」とすることが必要である。

著者がこの3つの段階を巧みに経た例として紹介しているのが、任天堂のキャラクター、スーパーマリオである。ここでは詳細は解説しないが、なぜ小太りでひげを生やした配管工のマリオが最終的に大きな注目を集めるに至ったのか、ご興味のある方はぜひ考えてみていただきたい。

次に、7つのトリガーとは以下のようなものだ。

1) 自動トリガー: 色やシンボルや音などの感覚的刺激
2) フレーミング・トリガー: 相手の世界観に従うか、それを覆すやり方
3) 破壊トリガー: 人々の期待をあえて裏切るやり方
4) 報酬トリガー: 内外からの報酬でモチベーションを向上させるやり方
5) 評判トリガー: 専門家や権威者、大衆の評価を活用するやり方
6) ミステリー・トリガー: 謎や不確実性やサスペンスを作り出すやり方
7) 承認トリガー: 人々の承認欲求に訴えかけ、深い結びつきを作るやり方

それぞれのトリガーは、過去のさまざまな研究や心理学者、認知科学者などへのヒアリングに基づいており、著者の単なる思い付きではない。引用されている書籍や法則には、経営大学院などでも紹介されるような、多くの人がご存じと思われるものも多い。

例えば評判トリガーについては、ロバート・チャルディーニ著『影響力の武器』の「権威」「社会的証明」が色濃く反映されているし、報酬トリガーについてはダニエル・ピンク著の『モチベーション3.0』の内容が、自動トリガーについてはダニエル・カーネマンの『ファスト&スロー』の内容が反映されている。巻末にはもちろん参考文献も紹介されているので、そうした組織行動学や認知科学の研究が本書の内容とどのように関連しているのかを改めて確認し、頭の中を整理しておくと、それぞれのトリガーがより効果的に使えるはずである。

(ちなみに、2016年3月10日発売の拙著『グロービスMBAキーワード図解 ビジネスの基礎知識50――知っていると差がつくワンランク上のセオリー』でも同様に、過去の実証研究などをベースに、数多くの役に立つビジネス関連の法則を紹介している。ご興味のある方はご一読いただけると幸甚である)

また、それぞれのトリガーについて、理論的ベースだけではなく、豊富な事例も紹介されているので、そうした事例も参考にすると、さらに実践に応用しやすくなるはずだ。なお、先にスーパーマリオの事例を紹介したが、我々に身近な日本の事例で最も長く紹介・解説されているのはAKB48だ。「ヘビーローテーション」の歌詞から、いわゆる「総選挙」のことも触れられている。AKB48が人気者になった理由を先の7つのうちのあるトリガーと絡めて解説しているので、ファンの方は「本当にそうなのか?」という視点でも読んでいただけると楽しめるだろう。

ある種のBtoBビジネスや、名店でもない限り「知る人ぞ知る」ではなかなか勝てなくなってきているのが昨今のビジネス環境だ。組織全体として多くの人々からの関心を得ることは、企業の存続可能性にも直結しかねない。そして、関心を獲得することは、マーケターや企画部の人間だけの仕事ではない。そうした意識も持ちながら読まれることをお勧めしたい。
 

『アテンション――「注目」で人を動かす7つの新戦略』
ベン・パー著
 1,620円(税込1,749円)

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