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ランサーズ・秋好氏×Cerevo・岩佐氏 「ネットとリアルの未来とは」 講演

投稿日:2014/08/27更新日:2021/11/29

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別井貴志氏(以下、敬称略):今はどのようなビジネスであってもネットとリアル、別の言い方をすればオンラインとオフラインどちらの展開もきちんと考えなくてはいけない。そういう時代だという前提で今日は議論を進めたいが、壇上のお二人はその両方をうまく活用し、事業として展開していらっしゃるわけだ。その辺をどう使っているかというお話も含め、事業の概要から伺っていこう。まずは岩佐さん。(01:04)

31572 岩佐 琢磨氏

岩佐琢磨氏(以下、敬称略):Cerevoという社名には「コンシューマエレクトロニクスにレボリューションを起こそう」という意味を込めている。家電を手掛けているのだけれど、家電業界はすごく古い業界だ。凝り固まっているところがあり、「なぜ、この領域でイノベーションが起きないのか」と思えるようなものをお客さまは使い続けるしかない。従って、そのうち新しいプレイヤーにすべて破壊されるといったことが家電の世界でもそろそろ起きるんじゃないかということで、こんな社名を付けている次第だ。(02:39)

で、作っているものはシンプルだ。「今はハードウェアがインターネットにつながって当たり前の時代でしょ?」ということを2007年ぐらいから言っていて、それで「コネクテッドハードウェア」と呼んでいる。ネット家電と言われていた時期もあったけれど、そうしたネット家電と、その裏側にあるアプリとウェブを作っている。だから外からは家電メーカーに見えると思うが、実際には開発人員の半分ぐらいがウェブやアプリを作っている会社だ。今は14人ほどの体制でハードウェアの開発やサポートまで行っていて、「小さいけれども世界で戦う家電メーカーです」といったことを言っている。次に何を作るかとなった時、大手の家電メーカーさんは「100億売るものを考えろ」となるけれど、それじゃあ面白いものはなかなか生まれないし、やっぱり時代が違う。だから僕らは常に世界に一つだけの製品を作り、グローバルに売りたい。(03:43)

最近作ったものをご紹介すると、たとえば映像と音をUstreamやYouTubeに流せるHDビデオスイッチャーがある。操作はすべてiPadのアプリで行うから価格は非常に安い。当社の製品は10万円するけれど、これは業界の人からすると「価格破壊をするなよ」と怒られる金額だ。普通に買うと40万円ほどする。また、各ポートをすべて机外から、iPadでインターネット経由のオンオフ制御ができるというおしゃれな電源タップも作った。こうした、「ありそうでなかったね」といったものを作っている。(04:51)

で、今は正直に言うと何カ国で僕らの製品が売れているか、僕らにも分からない。「南アメリカ全域で売っていいよ」と言っている代理店などをつけて勝手に売らせているところがあるので。ただ、いずれにせよ売上の半分ぐらいは海外でのものだ。また、開発はほぼ自社で行っている。企画から中身の設計から、ほぼ自分たちでやっている状態だ。組み立てだけはアジアの工場でやっているので、アップルさんをイメージしてもらうと分かりやすいと思う。ちなみに会社を登記したのは2007年だけれど、まともに動かし始めたのは2008年1月になる。(05:34)

31573 秋好 陽介氏

秋好陽介氏(以下、敬称略):ランサーズは2008年頃、「クラウドソーシングをやろう」ということで立ち上げたサービスであり、会社だ。最近はよく日経新聞さんなどでもクラウドソーシングという言葉が登場するようになったけれど、実はその歴史は結構古い。6年ほど前から「時間と場所に捉われない働き方を」ということで、働き方をインターネットで変えていきたいということを会社のビジョンにしている。ただ、創業当時は「リアルとネットの架け橋となるサービスをつくりたい」ということで、リートという社名だった。それでクラウドソーシングだけでなくていろいろなサービスを立ち上げようと思っていたためだ。ただ、その後2012年、クラウドソーシングに絞るという意思決定をして現在の社名に変えた。今は70人ほどのスタッフで運営している。(06:45)

で、今はオンライン上でおよそ36万人におよぶ個人の方に登録いただいていて、その個人に非対面で8万社の企業が発注しているというサービスだ。クラウドというと「雲」の意味でよく使われるけれど、我々にとってのクラウドは「群衆」。2008年に日本で初めてクラウドソーシングというモデルで立ち上げた当サービスだが、現在はおよそ200社が参入している同業界でNo.1となっている。(08:18)

岩佐さんは前職がパナソニックさんだったと伺っているが、最近はパナソニックさんのような大企業にも製品デザインなどでご利用いただいている状態だ。このほか、たとえば日活さんという映画会社にご利用いただいたり、伊香保温泉観光協会さんにゆるキャラ制作でご活用いただいたりしている。現在、日本でも個人に仕事を発注するというスタイルが盛んになってきた。そこで我々ランサーズとしてはオンラインとオフラインを駆使するというか、基本的にはオンラインで場所に捉われず働けるということをビジョンにして6年ほど会社をやらせていただいている状況だ。(09:03)

別井:起業の経緯もそれぞれお伺いしてみたい。(10:02)

岩佐:僕は新卒でパナソニックに入社したのだけれど、当時の僕は皆さんのようにいろいろ考えて調べるということをしておらず、パナソニックで何ができて何ができないかといったことも分かっていなかった。「パナソニックやソニーならあれだけのお金があって、すごい従業員も大勢いるんだから、なんでもできるでしょ」と思うけれど、本当になんでもできたら赤字を垂れ流すこともない。実際には得意なことや不得意なこと、できることとできないことがあるわけだ。ただ、僕がそれを把握できていなかった。「大企業だからいろいろな仕事があるし、いろいろなことができるはずだ」と思って入社したのが浅はかなところだったと思う。(10:35)

僕はよく、「ゼロ100」「ゼロ10」という話をする。すべての人が使っているようなデバイスは100で、まだ世の中に存在しないデバイスはゼロ。ということは、誰かがゼロを1や10にして、それを誰かが100にして、その結果としてすべての人が使う、たとえばボールペンや眼鏡になるのだと思う。ただ、大手メーカーはゼロを10にするのが苦手だ。パナソニックだけでなくソニーやシャープの人に聞いてみても、「分かってると思うけど、できるわけないでしょ?」と言う。また、「ゼロから10」と「10から100」のどちらが好きかと言えば、僕は前者のほうが好きだし向いていると、パナソニックで5年ほど仕事をさせていただいたなかで気付いていた。だから、「どこへ転職してもできないのなら自分で始めるしかないよね」ということで立ち上げたのがCerevoだ。とにかくやりたいことがあって、その実現方法が起業しかなかったという話になる。(11:33)

ただ、僕はかなりの“チキン”ということもあって、「ハードウェアベンチャーなんていうものを自分でやるのは怖いな」と、当時は思っていた。資金調達なんてできるわけがないし。だから誰かやっている人がいないかなと思ったのだけれど、当時、ネットにつながるハードウェアを作る会社は日本のどこにもなかった。「それなら、始めるしかないよね」ということで、必要に迫られてスタートした感じだ。(12:38)

秋好:僕は学生時代から個人事業に近いベンチャーをやっていて、卒業後はニフティという会社に入った。で、学生時代に自分が個人でやっていたということもあったのだけれど、ニフティでは個人に発注しようとしてかなり稟議を上げまくっていた。ところが、ニフティも富士通系の会社でしっかりしているから、それが難しい。個人に発注したほうが安く早くできるし個人の方としても良い単価だったりするのは間違いないのだけれど、ニフティではそれができない。「じゃあ、インターネット上で信頼を担保して個人に発注することができたら、個人も法人もハッピーになるのでは?」と思った。(13:09)

それを2006〜2007年頃に思いついて、僕もインターネット上で調べまくった。するとインターネット上で個人へ発注し、すべてオンラインで完結するサービスは本当に一つもなかった。「もう、気付いちゃったな」と。だから気付いた者の責任というか、「気付いちゃったからやるしかない」と思って起業したという経緯だ。逆に言うと、誰かがやっていたらやらなかった。基本的に人と同じことをするのが嫌なので。(14:00)

別井:秋好さんの学生ベンチャーはどういうものだったのだろう。(14:49)

秋好:当初は受託でウェブ制作などをしていたけれど、その後、自分が旅行好きということもあって旅行の比較サービスサイトをつくったりしていた。インターネット上をクロールし、同じAというホテルでも「『じゃらんnet』経由なら何円。『一休.com』経由なら何円」といった風に比較するサイトだ。それで広告収入をいただいていた。当時の年商は2000万〜3000万だったから学生ベンチャーとしては大変うまくいったと思う。(14:53)

別井:ベンチャーがうまくいっていたのにニフティへ入ったのはなぜだろう。(15:33)

秋好:お金を稼ぐこと自体にあまり興味がなかったというか、ユーザーさんに喜ばれた結果としてお金をいただく感じだったので。また、当時流行っていたライブドアさんや楽天さん、あるいはiモードのようなサービスに、大阪の片田舎にいる大学生の私が勝てる可能性はどう見てもないと思っていた。だから、2000万〜3000万稼ぐビジネスを続けるより、インターネット業界の最前線に行きたい気持ちのほうがずっと強く、それで学生ビジネスはたたんだという流れになる。(15:36)

で、ニフティに入ってからも起業への思いはあまり強く持っていなかった。「エンジニアに見えない」とよく言われるけれど(笑)、僕は実はエンジニアで完全にプロダクトアウトタイプ。起業したいというより、自分がつくったサービスを世の中に提供したい気持ちのほうが強かった。それでユーザーさんから、「楽しいね」「ちょっと良くないね」といった反応をいただくのが好きだったわけだ。それを実現する手段であればフリーランスでも日曜プログラマでも起業でも良かったというのが正直な気持ちになる。(16:23)

31574 別井 貴志氏

別井:学生時代の岩佐さんは起業したいという思いを持っていたのだろうか。(16:56)

岩佐:漫然と「起業という選択肢もあるな」といったことは考えていた。ただ、基本的にチキンだから(笑)、当時の僕にできるとまったく思えなかったというのがある。自分の能力がないだけなのに、「東京の人たちはできるかもしれないけれど、こっちでは無理だよね」なんて考えていて。で、「とりあえず大企業に行けば何か分かるだろう」程度の気持ちでパナソニックに入ったのだけれど、実際、情報収集をきちんとせずに大企業を選んだことで社会の仕組みのようなものがよく分かった。それで、「あ、やっぱり起業という選択肢もありなのかも」と、昔の選択肢が再燃した感じだ。学生時代にそれを一度は検討していたのが良かったのかもしれない。あと、学生時代は一応ベンチャーのようなところでバイトをしていたので、それも効いていた気もする。(17:01)

別井:「学生時代、これをもう少しやっていれば」といったことはあるだろうか。(18:11)

岩佐:英語(秋好氏も同調)。僕はそれを現場で叩き込んだけれど、今の世界は本当にグローバルとなっていて、もう気持ち悪いぐらいフラットだ。英語ができるかどうか自体はどうでもいいけれど、英語ができないと思ってしまうと、なにかこう、びびってしまう部分がある。びびるのは絶対にダメ。何事もそうだ。喧嘩でも筋肉や格闘技の経験がないと、たとえば相手が骨折していて今にも倒れそうな状態でも、目の前にむきむきのお兄ちゃんがいるというだけで、「あ、なんかヤバい」と思っちゃう。その意味では、もっと英語をきちんとやっておけば良かったと思う。(18:17)

別井:ただ、今は売上比率も海外のほうが大きいし、展開しているのは有名な国ばかりでもない。(19:15)

岩佐:ニッチなものを作るとマイナーな国からたくさんのオファーが来る。以前、面白いことがあった。ベネズエラの代理店からCerevoの商品を5〜10台仕入れたいという依頼があったので発送したのだけれど、3週間後に「まだ届かない」という連絡が来た。それで、「国際スピード郵便(EMS)で送ったから10日もかからないはずだよ?」と言ったら、「お前、ベネズエラにEMSで届くわけがないだろ。空港でどこかに行っちゃうぞ」と言われた(笑)。それで、「ひどい話だな」と思いながらもFedExで送り直して、結局EMSで送ったほうは宛先不明で返ってきたという出来事がある。ただ、そんな地域からも発注していただけるというのがすごく面白い。(19:24)

別井:ランサーズは海外展開しているのだろうか。(20:20)

秋好:我々はダブルターゲットモデルということで企業と個人の双方をターゲットにしているけれど、個人ユーザーには海外の方もいらっしゃるし、我々自身もフィリピンで展開したりしている。あと、私自身もエンジニアなのでプログラムなどで解らないことがあれば英語サイトのドキュメントを読んだりしている。その意味でも英語を勉強しておいたら良かったなと思う。(20:26)

別井:いずれにせよ、お二人とも起業への熱意が強かったかというと、そうでもないところが意外だった。ただ、イノベーションを起こしたいという思いは強く持っていたと思う。たとえば岩佐さんはハードウェアにこだわってきたと思うが。(20:59)

岩佐:この領域が面白いということで結果的にハードを手掛けているけれど、それにこだわっているわけでもない。こだわりという意味では、僕はブルーオーシャンが好きだ。「今はソーシャルカードゲームが流行っているから、そこで他社よりも良いものを出そう」と考える人もいると思うけれど、僕の場合は「そんなことは絶対に無理」と(笑)。たとえばグリーがあれだけ頑張ってあれほどユニークユーザーを獲得したわけで、僕らにそれ以上のものは絶対に作れないと思ってしまう。ただ、誰もやっていないものなら絶対に1番になることができる。ゼロから1にするだけで最初は1番になるから、「先に走っておけばかなり逃げることができるだろう」というようなところがある。(21:38)

また、僕の言っているブルーオーシャンというのは、まったく参入のないブルーオーシャンじゃない。僕はいつも「レッドのなかの1滴のブルー」と言っている。家電業界は2007年時点でレッドだった。ソニー、パナソニック、シャープ、東芝、等々…、皆が「1円でも安く」なんていう価格競争をして、それで5%の利益率が6%になったら狂喜乱舞するなんていう状態だった。で、A社とB社の扇風機2台では値段が30円違うだけといった状態だ。そういうところに1滴のブルーを垂らす。たとえば、「この扇風機はスマートフォンで制御できて、しかも風がめちゃくちゃ柔らかいんです」と。でも、扇風機一筋20年でやってきた人々はそうした機能の良さを理解できない。「iOS8には新しいBluetoothのプロファイルが入ってさ」なんて話が通じないわけだ。僕らはそこにぽちゃんとブルーを落とす。すると、既存の扇風機に比べて電力消費効率が15〜20%悪く、値段だって1.5倍高いといっても、そもそも違う商品になる。(22:32)

別井:その商品を欲しいという人が一定数いれば、全世界で売れると。(23:54)

岩佐:そう。そういうところにはこだわっている。(24:08)

秋好:僕も自分がやりたいことをずっとやってきた。学生時代の旅行サイト制作もそうだし、ランサーズも企業で個人への発注に苦労したという経験が、僕のなかで生きている。だから、こだわりと言っていいのかどうか分からないけれど、とにかく会社を作っても、「流行っているから」「お金が儲かるから」といった単純な理由では10〜20年続かないように思う。今もぜんぜんうまくいってはいないけれど、ランサーズだって最初からうまくいっていたわけじゃない。創業当初は売上も月10万円ぐらいで、日々、社長なのにベッドから起きるのが嫌だった時期もある。そこで事業を支えていたのは「個人にこういう働き方をして欲しい」「自分自身も困ったこの感じを解決したい」といった思いだったりした。だから、答えになっているかどうか分からないけれど、モチベーションとしてはビジョンや思いに尽きるのかなと思う。(24:18)

別井:そうした思いをベースに、「よし、起業しよう」と決めた瞬間がお二人ともどこかであったと思うけれど、それは覚えているだろうか。(25:27)

岩佐:ニフティ社員だった頃、大森のビルで「あっ」と思いついた瞬間がある。当時、11時頃にオフィスのエアコンが消されるルールがあり、それで11時半前後に汗だくで仕事をしていたときだ。エスクロウというモデルで信頼度を担保しながら個人と法人をオンライン上でつなぐことができたら、「世界が変わるんじゃないか?」と、ぱっと思いついた。エンジニアとして“ググり力”が超高かった私はそれでいろいろ調べまくってみたのだけれど、そういうサービスは1件もない。その瞬間は鮮明に覚えている。(25:38)

岩佐:起業のトリガーはパナソニック社員だった頃に上司から言われたことだった。あるとき、上司にすごく先進的な、いわゆるゼロを1にするような機能を今後はやっていくべきだという話をしたことがある。「仮にゼロでなくとも、どこかのメーカーがやっていて今は2ぐらいのものに我々も入らなければいけない。30の段階から入ったって絶対にその機能で一番は獲れない」と。すると、「岩佐君、それは敗者の戦略だよ」と怒られた。当時、とある機器に関してゼロから2までやったメーカーさんがいたから、それで「あれをもっとこういうふうにして、たとえばiモードから予約ができるようなHDDレコーダーをやるべきです」と話したのだけれど、箸にも棒にも掛からなかった。(26:32)

ただ、僕はその上司に悪いイメージを持っていない。「あ、これが大手の考え方なんだ」と。当時はその分野でパナソニックが圧倒的に首位だった。それで、「なんで今1位を獲っている俺らがそんなリスキーなことをやらなきゃいけないんだ」というわけだ。「そんなことをしたらおじいちゃんやおばあちゃんが、難しい操作を嫌ってソニーに流れるかもしれない。とにかく、うちの戦略は簡単な操作にするということだから、それ以外のことはやらない。2までやったメーカーがあるとしたら、それが30になったらやる。それまでは黙っていろ」と言われた。(27:39)

それで、「あ、これはどこかで転げ落ちるな」と。ただ、チキンだった僕は…、今日のテーマはチキンだけれど(笑)、「でも起業というのもなあ」と。自分ひとりでは飛び出せないと感じていた。ところが、そのときに起業のお膳立てをしてくれる人がいるという話を聞いて、その方に会ったことがある。それが、シリアルアントレプレナーの山田進太郎さんと、当時からあちこちで起業を手伝っていたインスプラウトの三根一仁さんという方だった。その二人に、「会社は登記済みでシードマネーも用意してある。あとは社長を探しているんだけれど、岩佐さん、ハードウェアカンパニーの社長をやらない?」と言われて(笑)、「これはいける」と。具体的に、「よし、起業しよう」と考えたのはその日だ。だから起業のトリガーと実際のアクションが別になっている。(28:17)

それで、起業にあたっていろいろと大変な手順はすべてスキップして、僕は代表取締役就任の紙を1枚書いただけという流れになる。とにかく、そうした大変な手順を踏みたくなかったし、それが自分にできるとも思わなかった。実際、シードラウンドで資金を調達するというのも僕にはまったく分からない世界だった。だから、「それをスキップする方法もあるんだ」と思って、すべてスキップしちゃった。(29:27)

秋好:私は中古家具屋さんへデスクを買いに行くところから登記まですべて自分でやった。オフィスについても同じだ。行政のインキュベーション施設に入っていたのだけれど、当時は60歳ぐらいの市役所職員の方を相手に、「クラウドソーシングが云々」なんてプレゼンしていた。それで、ぽかんとされたりして。とにかく、会社をきちんとつくるだけで3カ月ほどかかった(笑)。で、資金調達は2回行っている。1回目は自分で900万の資本金で出し、そのうえで3年ぐらい回した。で、そのあとはベンチャーキャピタル(以下、VC)さんだ。GMOベンチャーパートナーズさんとグロービス・キャピタル・パートナーズさんの2社から資金調達をしたという流れになる。(29:50)

岩佐:調達はうちもめちゃくちゃ大変だった。2008年の時点でハードウェアカンパニーに資金を張るというのは大変な判断だ。ある程度のお金をかけなければ、シードと言ってもハードウェアカンパニーの事業は回らない。とりあえず社員を採用してモノを作るために1.5億ぐらい必要というスタートだった。ただ、当初は、「君たち何も持っていないじゃん。しかも、ハードウェアでしょ?」と。しかもその最中、2008年にリーマンショックがあった。それでハードウェア系のデザイン家電メーカーで苦しんでいた会社はかなり多かったし、僕らも「(失敗した)あの会社みたいにならないと、どうやって証明できるの?」と言われて大変だった。今はクラウドソーシングもあればKickstarterのようなファンドもある。この5年でハード系企業はすごくやりやすくなった。(30:40)

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別井:起業後はどうだっただろう。売上が順調に伸びるまでのファーストステップはビジネス的にもすごく大変だったと思う。(32:20)

秋好:そもそも2年間、ほぼ売上がなかった。当時、KPIであるクライアント様の登録数と依頼数を見るのが嫌で嫌で仕方がなかった。当初はそれが1日5〜10件で、売上も数百〜数千円。それを増やすのに2年ほど苦労し続けたし、そこは本当に辛かった。資金調達のほうがはるかにラクだったと思うし、正直、そこで明確なブレークスルーポイントはなかった。ただただ、インターネットサービスとして日々ユーザーさんからいただくご要望を受けて改善し続けていったという形だ。ダブルターゲットを少しずつマッチングしていって、カテゴリも最初は「デザイン」だけ。それでシステムで最適化し、次は「ライター」のカテゴリで最適化するといったことを重ねていった。それで少しずつ、前月比数%増で積み重ねた感じだ。ただ、その間、震災を経て働き方に関する人々の考え方に変化があったということは感じた。たとえば企業側も土日に工場を稼動させて平日はスタッフを休ませるといった、パラダイムシフトというか、考え方の変化があったように思う。その辺から風向きが変わってきた感じがする。(33:00)

岩佐:僕らのほうもビジネスが軌道に乗るまではいろいろあった。イメージしづらいかもしれないけれど、実は僕らの会社はスキル積み上げ型だ。ハードウェアを作るのには時間がかかる。で、たとえば1.5億の資金を元に、それほど経験があるわけでもない人たちが少人数で、しかも1年かけてハードを作ろうとしても、できるものは限られてくる。だから1年後にターゲットを置くのがすごく難しい。12月発売だった予定が簡単に1月や2月にずれ込んでしまうし、1億だと思っていた予算が簡単に1.2億となってしまう。ハードウェアの電子部品価格も時価で、八百屋のように変動する。だから、ゼロの段階では製品とクオリティと納期、そしてコストの算出が難しい。その辺が大幅にずれてクオリティも落ちてしまい、お客さんから酷評をいただいたこともある。(33:44)

ただ、今振り返ってみると、そうしたことがなければ絶対に今はなかったとも思う。これ、プロ野球選手が中学時代の野球部を振り返り、「あの頃の基礎体力トレーニングはめちゃくちゃ辛かった」と言うのに結構近いと思う。ただ、辛いけれどもそのときについた筋肉があったから高校野球でレギュラーになれたというようなこともあるわけだ。だから、大変ではあったけれども辛かったという思いはあまりない。(36:32)

別井:実際、Cerevoは今年一挙に事業の拡大を図っていく。(37:07)

岩佐:だから今は毎日面談で大変だ。人員を50人前後にまで一気に増やす。(37:13)

別井:そうなってくると、リーダーとして会社組織をどう動かすかということも今度重要になると思う。その辺に関してはどんなことに気をつけているだろう。(37:24)

秋好:依頼数や売上がなかなか伸びなかったという苦労のほかにもう1つ、やっぱりチームや組織に関しての苦労も多かった。6年やっているといろいろな問題が出てくるし、その辺に関して言うと組織としてはこれまでに大きく3つのフェーズがあったと思う。1つ目は創業から15人ぐらいの規模になっていったフェーズだ。この時期のベンチャーにとっては社長がほぼすべてだと思う。どれだけ社長が引っ張って率先垂範できるか。独善的にやるという意味でなく、社長が誰よりも頑張って、誰よりもコミットして考え抜くことで乗り切れたフェーズだと思う。(37:51)

ただ、15人から40人ぐらいになるとそれではワークしなくなってくる。そこで大事になるのはミドルマネジメントの強化。当初はそこで、「この人は経理ができるから経理部長」といったミドルの選び方をしていた。ただ、そうすると企業としての考え方が伝播しないチームになってしまう。AチームとBチームで考えていることが違うといったことが起きて、ボードとしても権限委譲しづらくなっていく。それで最近気付いた。ミドルマネジメントには能力も大事だけれど、会社のビジョンやボードの考え方を理解し、どれだけ経営者と同じ目線でできるか、つまり「考え方において分身化できるか」も大切になる。そうした視点でミドルマネジメントを選ぶようになってから、会社は一致団結してきたと感じる。

で、3つ目が50人から100人ぐらいになるフェーズだ。ここではコミュニケーションの量が大切だ。合宿や1on1ミーティングやランチミーティングなどいろいろ試し、コミュニケーション量を増やしてチーム力を高めようとしている。(38:41)

岩佐:現時点でまだ14人の組織だから、秋好さんがご経験してきたようなお話はまだあまりない。ただ、僕の場合は「皆がこれやっているから同じことをやろう」とは考えず、どうすればラクができるかといったことを常に考えるところがある。だから、超多品種超少量生産できる仕組みをこの2年間で徹底的に作っていった。300個でも請けてくれるような海外工場や部品ベンダーを揃えたので、300〜500個でも作れるし、損益分岐点が1000個といった商品も普通に作ることができる。それを1カ国100台として10カ国で売ったら、とりあえず損益分岐点を越えるというハードウェアだ。それができたら組織もラクになるだろうということで、実は今、4人で1つのハードウェアを作るプロジェクトを立ち上げている。それで去年はだいたい成功したから、来年以降もいけるだろうということで今は一気にスケールさせようとしている。何十人のチームを1人でマネジメントして、それで「マネージャーとのチームメンバーのコミュニケーションが云々」なんていうことがなるべく起きないようにしたい。セル生産的な方式だ。で、そのセルを一気に2つから8つへ増やすということを今はやろうとしている。(40:06)

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別井:ファウンダーかつ社長なら株主さんとの付き合いも多くなると思うけれど、社外の人とのコミュニケーションで何か重視していることはあるだろうか。(41:56)

秋好:私の場合、そう見えないけれどもエンジニアということもあって、人と接触したり会食したりするのが得意じゃない。正直、飲みに行く機会も多くない。ただ、気を付けていることは2つある。まず、実際に使っていただいている個人のユーザーさんとは月に数回、必ず会うようにしている。あと、「自分の人間力は頻繁に会う5人の平均」といったことが言われたりするので、自分より少し先に行っている人や目線が高い人には無理を言って会っていただく。それで人間力を高める努力だけはしている。ぜんぜん高まらないけれど(笑)。(42:27)

別井:オンラインでサービスを提供する企業はオンラインだけで完結しているように見られがちだが、「食べログ」にしても「トリップアドバイザー」にしても、リアルなユーザーイベントを頻繁に行っている。オンラインとオフラインの双方をうまく活用しないとユーザー満足につながらないし、サービスもうまくいかなくなる部分はあると思う。(43:25)

秋好:実際、ウェブの画面やログを見ているだけではまったく分からないけれど、ユーザーさんとリアルにお会いして声を聞くととんでもない発見ができる。インターネットサービスだからこそオフラインやアナログが大事になるのだと思う。(44:04)

岩佐:面白いことに、僕は逆だ。“ネト充”なので、お客さんがどんなふうに使っているかをひたすらネットで見ている。実際、ベネズエラやペルーにまで行って見ることができないから、たとえば朝の4時、現地時間の昼間にネットで見まくったりしている。で、たとえば、「あ、アメリカではBの設定で使っているお客さんが多いな。なぜだろう」なんて考えたりするわけだ。ツイッターやフェイスブックのフィード上に「Cerevo」という言葉を発見したら、「なんて言っているんだろう」と。それを次の製品に反映させるということは結構やっている。商品を売ってくれるエージェントにもリアルではあまり会っておらず、ほとんどインターネットと電話だ。展示会だけはリアルで頑張るけれど、そこでお会いした方々ともその先のコミュニケーションはネット。少人数ということもあって、その都度出ていくと効率が落ちてしまうので。だから、申し訳ないと思いつつ、スカイプや電話やメールでコミュニケーションをしている状態だ。(44:23)

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