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秋山咲恵氏×竹中平蔵氏×堀義人氏「今、僕らがやるべきこと—先輩リーダーから学ぶ」前編

投稿日:2013/11/26更新日:2021/10/19

「まずは竹中先生の、け、け、け、結婚話?から伺いたい(会場笑)。ご家庭では尻に敷かれていらっしゃる?」(小林)

小林りん氏(以下、敬称略):本セッションではabove40ということで大先輩方をお招きして、10〜20年前に私たちの立場で色々なことを築いてこられたお立場からアドバイスをいただこうと思う。御三方の自己紹介は必要ないと思うので、早速ナイトセッションのノリを引きずって、結婚や育児や恋愛といったキーワードでプロフィールを掘り起こしてみたい。まずは竹中先生に恋愛話を振ってみようかと思うが(竹中氏、歓迎のジェスチャーに会場拍手)、…では竹中先生の、け、け、け、結婚話?(会場笑) 「ご家庭では尻に敷かれているのでは?」等、色々妄想しているが、いかがだろう。(01:58)

竹中平蔵氏(以下、敬称略):今日はありがとうございます(会場笑)。自分も若いつもりだが時間はあっという間に過ぎる。皆さんとはもう四半世紀も離れている訳で、そんな場へ出てくるのは何か恥ずかしい気もするが、まず一言申しあげておきたい。ダボスにも40歳以下のヤング・グローバル・リーダーズというコミュニティはあるが、最近、彼らの評判が落ちている。20代によるヤング・グローバル・シェイパーズというコミュニティが創設されて皆さんの世代が霞んでしまったからだ。ざまあみろという感じだが(会場笑)。私たちも皆さんに追いかけて貰っているが、皆さんも追いかけられている認識が大事だと思う。いつまでも若くないからね?(会場笑)(03:26)

結婚については私の場合、単純だ。学生時代から付き合っていた今の妻と結婚し、今もなんとかもっている。私は18歳のとき、和歌山市という人口40万の典型的地方都市から上京した。南こうせつとかぐや姫の「神田川」という曲はご存知だろうか。私たち世代の歌い手と言えば南こうせつや谷村新司で、「神田川」では同棲する男女が歌われている。私たちも同棲していた。…していましたよ?(会場拍手) 皆さんにとっては普通だと思うが、私たち世代では最先端のスタイルだ(会場笑)。二人で風呂屋に行って、出てくるのが遅い彼女を寒いなかで待っていた思い出がある。(04:30)

で、私は以前、とある経済人の方と夫妻揃って食事をご一緒したことがある。大変ダンディな日本を代表する経営者であり国際人の方だ。そこで奥様も交えてお食事をしたのだが、奥様がすごく強い。社会的地位を確立してから結婚する相手と、海のものとも山のものとも分からない時代から一緒だった相手というのは違うのかもしれないが、そちらのご夫婦も若い頃から一緒だった。で、何かにつけて奥様が我々の前で社会的地位ある旦那さんに色々言う。「何言ってんのよ、偉そうに」なんて(会場笑)。それで私たち夫婦もだんだん目を伏せてしまっていたのだが、旦那さんは体面もあるものだから、「俺はこう見えても結構偉いんだぞ」と言っていた(会場笑)。(06:05)

それである言葉を思い出した。「亭主に英雄なし」。堀さんのようなダンディな人でも同じと思う(笑)。私は2001年、小泉総理にご指名いただき思いがけず大臣をやらせていただいた。で、それまで私がゴミを捨てる係だったのだが、大臣になった途端、家内もそうだけれども娘が「それはちょっと近所の目があるから私がやるよ」と言ってゴミを捨てるようになった。しかし大臣を辞めた日から「お父さん捨ててきて」と(会場笑)。まあ、そんなもんだろうなと思う(会場拍手)。(07:14)

小林:咲恵さんも学生時代から続く大恋愛の末に結婚なさったと伺っている。お仕事と結婚生活との両立はこれまでどんな風にやってこられたのだろう。(07:59)

秋山咲恵氏(以下、敬称略):このセッションは動画配信されているといいうことで…、あ、竹中先生には言いそびれてしまっていました。すみません(会場笑)。だからモニタの向こうにいる皆様に申しあげておきたいが、本セッションのノリはG1サミットのノリと違う(会場笑)。今は相当にノリノリだ。りんちゃんにも昨日、「明日は堅苦しい話ばかりしたら浮いちゃいますよ」と釘を刺されていた。だから今日は私も普段人前であまりしないような話をさせていただきたい。(08:28)

私も10年前、竹中先生が大臣になられた小泉政権下、当時の政府税制調査会という格式高い審議会で最年少の女性委員に突然選ばれた。晴天の霹靂だ。自身のビジネスをやりながらそういったお仕事をお請けして良いものなのかと、当時は相当悩んだ。逆に言えばそれがあったから今日ここに座っているのだと思う。で、結婚とキャリアについて言えば、私が今ここにこうしていられるのは、結果論だが、パートナー選びに成功したから。これは男性の方にぜひお伝えしたい。私は男女雇用機会均等法一期生世代だ。女性の働くロールモデルは世の中に極めて少なく、会社でも女の子はお茶汲みの仕事しかないような時代にキャリアを歩みはじめた。(09:36)

そういうなかで私も躊躇し、悩むことは多かった。ただ、そのとき最も背中を押してくれたのが主人だ。政府税調のときも、「そういう仕事は誰にでも出来る訳じゃない。そんな仕事の話が来たのならお請けするべきじゃないか?」と言ってくれた。それで本業と合わせてこの仕事をやろうと。以来、ある程度時間の枠を決めた範囲だが、細々と政府の仕事をお手伝いさせていただくようになり、今も大役をいただいている。(11:05)

内助の功や糟糠の妻といったイメージをしていただくと分かりやすいと思う。ともに女性をイメージする表現だが、それを20年前からやってくれていた男性ということで、非常にイノベーティブな人材がパートナーだったと(笑)。イノベーティブな人材とは既成概念や周囲の言うことに囚われず、目の前にある現実に向き合ったうえで、「これが一番良いのではないか」と考え、それにチャレンジをする人だと思う。そういう方をパートナーにするのもひとつのパターンではないかと女性にはお伝えしたいし、男性にはぜひそんなパートナーになっていただきたい(会場拍手)。(11:54)

小林:すごく共感する。私も結婚15年目になるが、15年のうち4年間は海外の大学院に行き、国連で仕事をしていた。それを主人に許して貰ったからここにいるのだと思う。私はこの5年間、手弁当でこの学校を立ちあげてきたが、その間は主人に食わせて貰っている。なんと理解のある旦那かと。来年は家族全員でこちらに引っ越し、彼はここから東京に通う。主人は主人で自身のキャリアを進みつつ、私にはこんな風にさせて貰っている。パートナー選びは本当に大事だと思う。(13:29)

「大人も子どもも基本的にはいち人格者。だから家庭内でもMBOを実施し、目標管理をしている」(堀)

続いて堀さん。5人の男の子の父ということで育児についても伺いたい。本業やG1で大変忙しいなか、お子さんの顔を見ている暇があるのかなとも思う。育児に関して「これだけは必ず自分でやる」といったことや、何か気をつけていらっしゃること、あるいは苦労話があればこれから父になる後輩に向けてお話しいただきたい。(14:20)

堀義人氏(以下、敬称略):G1アンダー40に参加出来て大変嬉しく思う。今回の僕はパネリストとして皆さんから質問を受ける訳で、なんなりとお答えしたい。僕は子どもが5人いる。男ばかりだ。で、僕は大人も子どもも基本的にはいち人格者として扱うべきだと考えている。そうなると会社でやっていることと同じ。僕は会社で皆にどんなトップであって欲しいかを聞いているが、家でもどんな父親であって欲しいかを聞く。家庭内MBO(Management by Objectives)ということで(会場笑)、毎年元旦に家族で話し合う。そこで目標設定を行い、その1年後に目標が達成されているかを皆で話し合い、出来ている場合はまた違う目標を設定する訳だ。(14:51)

たとえば次男には「週3日、家で食事をして欲しい」と言われた。最初は「もっと家で食事を」という表現だったが、MBOは測られなければいけない。「じゃあ目標設定をしよう」とのことで週3日という話なりスケジュール調整をはじめた。グロービスは大阪・名古屋・仙台・福岡だけでなくシンガポールと上海にも出来たし、僕は海外へ行くことが多い。だから週3日は大変だったが、なんとかクリアした。すると週4日に上方修正された。週4日は本当に大変だ。1週間家にいなければバツが4つになる。そうなると4週間、週5日を家族と過ごしてはじめてチャラになる。(15:59)

また、男ばかりなので中学生になれば「親父うざい」といった状態になる。だから小学生のうちが勝負だ。僕はばしばしビンタをする。かなり体罰はやるほうだ(会場どよめき)。子どもが聞かなければ妻も困るし、基本的に子どもは聞かないのでばしばしやっている。ただし、それが効くのは小学生まで。中学生になるとでかくなるから(会場笑)。小学生のあいだにやるべきことをしっかりとやるという躾になる。(16:58)

それと、経営者にも同じことが言えると思うが、子どもはなるべく試練を与えたほうが育つ。愛情があるのなら敢えて試練を与えるべきであって、嫌いなら過保護に育てたらいい。それで今は子どもたちに囲碁をやらせたりしている。普通のお稽古事であれば出来たかどうかで褒めたりもすると思うが、それでは駄目だ。何かこう…、ぎりぎりのところで戦いながら、泣きながら、落ち込みながら、そして乗り越えていきながら努力をして勝つというのが囲碁の世界でも大事だ。(17:35)

それで、長男、次男、そして三男は、全国大会で優勝した(会場どよめき)。三男は今小学6年だが、子どもたちが行っている小学校は6年連続東京都で優勝しており、6年連続全国ベスト8。そのうち3回は全国優勝だ。四男と五男も同じように鍛えていて、平日は1日4時間、週末は同8時間と決めている。そうした戦いのなかで試練を乗り越えさせ、鍛えていくということをやっている。(18:30)

ただ、子どもと接するうえで重要なのは、聞かない子を聞かせようとすることでなく、いかに仕向けていくか。接する時間をなるべく増やし、子どもたちとともに乗り越えていきたい。そうしていくと5人もいるものだから家庭内でコミュニティやロールモデルが出来あがる。長男は今海外へ行っているが、次男の三男も「何年かしたら海外へ」という気持ちになっている。そんな風にロールモデルを設定しながら家庭内の教育理念を皆でつくり、目標管理制度も交えて楽しみながらやっている。のちほど長男を除く4人が会場へ来るので囲碁で戦ってみて欲しい。絶対に勝てない(会場拍手)。(19:05)

小林:会場のどよめきは、「堀さん、やっぱりすごいな」というものと、「堀家に生まれなくて良かった」というものがあったと思う(会場笑)。さて、次の議論に進みたいが、まずは咲恵さん。今、大きくクローズアップされてきたのが成長戦略、特に3本目の矢だと思う。その辺に関して、産業競争力会議で議論を進めていらっしゃる方として特に重要だと思う規制緩和等の政策があれば教えて欲しい。それが何故大事か、そしてそれを実行するうえでハードルとなることも併せて伺えたらと思う。(20:21)

「規制緩和に向けた法制度の変更はソフトウェア開発に例えると分かりやすい。全体への影響踏まえ触れる人が必要」(秋山)

秋山:規制緩和が大変重要な課題であることについては論を待たない。どうやってそれを実現したら良いかという議論もある。ただ、規制緩和に関する政府のお仕事に初めて参加させていただき、状況を間近で見たからこそ気付いたこともある。規制緩和でテーマに挙がる項目はたくさんあるし、実際、それをやろうとしている。ただ、過去の議事録等を読んでみると、小泉構造改革で、あるいは土光臨調(第二次臨時行政調査会)で交わされていたことと同じ議論が、まるでタイムカプセルに乗ったかのように10年以上延々と続いている。規制緩和・規制改革の領域ではそれほどの時間とエネルギーを使ってもまだ実現出来ない重要事項があることに私は驚いた。(21:27)

産業力競争力会議で議論するテーマは幅広い。そこで民間議員がテーマごとに提言をまとめ、それを民間ペーパーという形にして各担当省庁の方に投げる。そして局長クラスや大臣の方に出てきていただいて省庁折衝を行うのだが、そこで何に驚いたか。某省庁の事務方は民間ペーパーに対して、「某省としてはこのように考えます」というお返事を持ってきてくださる。で、それはもう美しい言葉と丁寧な態度で説明してくださるが、一通り聞き終えるとまったくのゼロ回答ということに気付く(会場笑)。民間の感覚からすれば、「これは辞退見積もりということですか?」というほどだ(笑)。それほど、「同じ目標に向かって進んでいきましょう」というスタートではないと実感する。(23:28)

規制改革に関しては制度、あるいは色々な既存組織・団体の問題も取り沙汰されるが、大概は法律事項の議論となる。「法律のここをこう変えたらこの規制はこんな風に緩む」というのは極めて技術的な内容だ。そのエキスパートがまさに官僚の皆さんであり、官僚の皆さんにしっかり仕事をしていただかないと規制改革は実現しない。ただ、これがなかなか上手くいかない。民主党政権ではあまりにも脱官僚を高らかに謳い過ぎて官僚の皆さんに協力を得られなかった。ビジョンは素晴らしかったが、それがなかなか実現に繋がらなかったのはそういう部分にあったのではないかと思う。(24:56)

規制に関わる法律を変えていくという作業は壮大なソフトウェア開発に例えると分かりやすい。アーキテクチャをつくり、仕様書をつくり、そしてプログラマに渡すという仕事があったとき、ゼロからつくりあげるのであればアーキテクチャについてしっかり考えなければいけない。また、既存プログラムの一部分を変えることで機能を変える場合、「どこをどう変えたら目的が達成出来るのか」「ここを触るとプログラム内でほかにどんな影響があるか」といったことはプログラムを理解する人でないと分からない。SEやプログラマが行うソフト開発をまったくのエンジニアリング素人が色々言ってもなかなか変えることは出来ない訳で、手を動かしてくれる人に協力して貰わないとソフトウェアは変わらない点がひとつの難しさだと思う。(26:11)

ではそうした官僚の人達をどう動かすか。これは政治の仕事になる。で、この部分は、私自身の個人の感覚ではあるが、少しずつ良い方向に動いていると感じる。この辺については与党と政府・官邸の関係も重要だ。与党の力が強いと物事もある程度は決まるし、それが政策に反映される。ただ、与党の政策決定プロセスには色々な利害関係が絡んできて、それがどうしても政策に反映されてしまう。要は、規制改革の議論は全体を包括する問題ということだ。もちろん一つひとつのトピックについても大切な問題はたくさんあるが、政策決定プロセスにイノベーションが起こらないと規制改革は難しいのではないかというのが間近で見た私の第一印象だ。(27:12)

で、私としてはそのイノベーションが今起こりかけているというか、起こる余地があると信じている。党と政府との関係でいくと、たとえば官邸のトップダウンで旗を振ったトピックに関してはやはり動きが出る。そうした動きをなんでもかんでも安倍総理にやって貰うのは現実的ではない。ただ、官邸の意思を組織の力として動きに繋げていくため、トップダウンのパワーを高めていく必要はあるだろう。そうなると、やはり政治の世界では、内閣支持率等で国民がそれを支持しているという状態が強く表れれば表れるほど官邸のリーダーシップも発揮しやすい。(28:26)

現在、過去にはなかった新しい政策決定プロセスの取り組みが与党でいくつか進んでいると聞いている。これはどんどん進めていただきたいし、特に規制改革に関しては安倍総理や菅官房長官の意思が実行へ繋がる形に進めて貰いたい。そのためにもリーダーシップに対するフォロワー精神を私たち自身が発揮し、意思表示をしていくこと。それが実は規制緩和にも大きな影響を及ぼすと思う。(29:36)

「悪名は無名に勝る。批判を恐れず戦うリーダーでなければ政治にせよ経済にせよイノベーションは導けない」(竹中)

小林:竹中先生は第三の矢に関してどうお考えだろう。小泉政権時代の郵政民営化は世論を劇的に動かした歴史的出来事だったと思う。そうしたご経験も踏まえ、現状に関して「こうすれば上手く進む」といったお考えがあれば。(30:27)

竹中:ファクトについて考えてみたい。日本がビジネスをしやすい国かという点について客観的な指標がある。世界銀行は毎年、各国の規制度合いを測る「Regulatory Quality」というランキングを発表している。規制が少なく税金の話もきちんとしており、ビジネスがやりやすいか否かという指標だ。この指標では香港とシンガポールが毎年一位を争っている。一方で日本は森政権であった2000年時点で40位だ。そこで「これではいけない」という話になり、「民間で出来ることは民間で、地方で出来ることは地方で」という大原則に則って規制緩和を少し進めた。そして小泉内閣から安倍内閣にバトンタッチした2006年時点で40位から28位に上がった訳だ。(31:16)

それでも28位だ。しかも当時、ほぼすべてのメディアと政治は「行き過ぎた規制緩和」と言っていて、それで改革の勢いは止まってしまった。今は47位だ。日本よりビジネスをしやすい国が46カ国ある。それで特にこの3年ほどのあいだ、ビジネスがどんどん外へ出て行った。そこで失われた売上高は35兆円にのぼるという試算も日経新聞で出されている。(32:26)

「こうすれば経営が上手くいく」という打ち出の小槌などないことは経営者の皆様ならお分かりだろう。同様に、「こうすれば経済が成長する」という打ち出の小槌はない。ビジネスに出来るだけ自由を与え、出来るだけ税金等の負担を減らすしかない。しかしここ数年は税負担と規制を重くしてきた。今は当然のことが起きている訳だ。(33:01)

ただ、とある国際アンケート調査で、「格差等、少々の問題が起きても自由な競争をするほうが良いと思うか」という設問への答えを見てみるとどうか。YesかNoで答えを求めた場合、日本では49%がYesと答える。断トツに低い。どの国でも8割前後がYesと答える。ちなみにYesが最も多いのは中国(会場笑)だ。で、日本の次にYesが低いのはロシアだ。つまり、この3年ほどは政治だけでなく国民にも責任があったということだ。「行き過ぎた規制緩和でこんなに可哀相な人が出た」とメディアで紹介されると一気にそちらへなびいてしまう。これこそ経済リテラシーだと私は思う。(33:34)

国民は一生懸命働いていて皆忙しい。「この規制は緩和したほうが良いのか」という点についてはそれほど分からない訳だ。だから私たちのデモクラシーでは1億2700万が全員集まって賛成か反対かを決めるのでなく、まずリーダーが「こうしようではないか」と言うことが大前提になる。これが指導者民主主義だ。そこでは「こうしようではないか」と言わなければ民主主義も機能しない。郵政のことも国民はよく分からなかったが、小泉総理という圧倒的指導力を持った総理が、「私はこれがいいと思う。それが駄目なら私は辞めます」と、見事な発信をなさった。それで国民も、「なるほど。そう言われたらそうだな」と考えた。それで2005年に圧倒的支持を得た訳だ。(34:31)

だから総理にも「総理大臣になったのはなんのためか」という理由が必要になる。小泉総理以降の方は…、申し訳ないけれど、はっきり言うと「総理になりたいから総理大臣になった」という話だろう。小泉総理は郵政民営化をやるために総理大臣になった。そういうものがないと機能しない。これは政治リーダーの大きな責任だと思う。(35:27)

そうした前提を踏まえたうえでイノベーションについてお話ししたい。政治の世界でこの10年間に生まれた最大のイノベーションは、経済財政諮問会議のような機能をつくり、それを活用したことだ。何故それがイノベーションだったのか。それを上手く活用した内閣とそうでなかった内閣はある。ただ、小泉内閣でそれがまがりなりにも機能した理由は、とにかくオープンに議論させ、その議事録を3日後に公開していたためだ。そうなるとどちらが変なことを言っているのかが分かる。(35:57)

そして総理の前で争う。総理がそれを聞きながら「これだ」と、指示を出す訳だ。争わないと総理の指示は出せない。争うことがイノベーションになる。しかし今、経済財政諮問会議や産業競争力会議は復活したものの、そのなかで争われていない。役所の説明を聞くメンバー10人のうち、半分以上はそこに利害を持つ人だ。本来、利益相反となる人はそこに参加してはいけない。陪審員のなかに被告が入るようなものだ(会場笑)。株式会社であればそんなことには絶対にならない。しかし日本の政策決定プロセスでは「コンセンサスを得るために」という美しい言葉の下、利益相反する人を明示的に入れていく。それをクリア出来るかどうかがイノベーションに向けた最大の鍵だ。従って、ひとつのイノベーションは経済財政諮問会議のような議論をオープンにして総理が決断する場をつくることと言える。(36:25)

それともうひとつ。今はひとつのイノベーションにしたいという思いで新しい戦略特区を提言している。今回の戦略特区は今までに比べてパワーアップしている。今までは地方が国にお願いするもので、国は上から目線だった。「これはやってよし。これは駄目」と。しかし今回は国を代表する特区担当大臣のポストが出来た。そしてその大臣と地方代表の知事や市長、そして民間代表の企業が3者統合本部をつくる。そこにさながらミニ独立政府のような形で独自の権限を与えるというものだ。これはやり方次第で大変イノベーティブになると思う。(37:41)

ただ、これは「国も譲るが地方も民間も譲れ」という意味でもある。皆が譲らないといけない。結局、規制緩和に最も反対するのは経団連だ。皆さんも将来そうなる可能性があるということはぜひ申しあげておきたい。そのなかで戦う姿勢を持って欲しい。戦うことが鍵になる。昨日、「朝まで生テレビ」で田原総一郎さんに「竹中さん、あなたはどうしてそんなに嫌われるの?」と聞かれたので、「真面目に戦うからでしょう」と一応申しあげた。この点について、やはり小泉総理は偉大だった。「竹中さん、悪名は無名に勝るから安心しろ」という名言を私は貰ったことがある(会場笑)。すごいですよね(会場拍手)。ぜひ、悪名を受けても良いから戦うリーダーになって欲しい。(38:30)

「日本は変われる。だから、リーダーが集まる場の構築やビジョンの発信にコミットしていく」(堀)

小林:続いて堀さん。堀さんは一つのロールモデルだと思うが、経営を行いながら政治にも積極的に関与するという現在の考え方はいつ頃から持ちはじめたのだろう。10〜20年先のプラン、あるいは20〜30代に向けた「今のうちのこれをやっておいたほうが良い」といったメッセージ等があれば併せて伺いたい。(39:46)

堀:私の祖父は一人が政治家で一人が学者だった。それで、親父が科学者ということもあり、僕の人生も政治家か学者になるのだろうなとは思っていた。政治は権力を通して世の中を良くしていくこと。そして科学は…、理系の学者であった祖父のほうはケンブリッジに留学していたのだが、彼は「科学を通して世の中を良くしていくのだ」という考えを明確に持っていた。それで僕も「どの道に進もうか」と考え続けていて、そこで理系のクラスに入ったのだがあまり研究が面白くなかったので変えてみたりして、そのなかでビジネスの道を歩むようになった。そして留学を通し、「やはり教育だ」ということで大学院をつくり、「産業を創出しよう」ということでVCもつくり、そして今は知恵の発信も行っているという流れだ。(40:45)

その間ずっと考えているのは、社会を良くするということだ。そのツールとしてビジネスをやっている認識が最初からある。大学院といっても学校法人になったので授業もお金も譲渡しており、それらは今すべて国のものだ。とにかく社会を良くするために教育を行い、産業を創出し、知恵を創出している。ただ、いくらやっても日本が良くならないので、「どうしたものか」と。何故右肩下がりでおかしくなっているのかと考えた。そして「自分たちがやっている範囲ではまだ足りない」と考えるようになった。今のままではいくら人材を輩出しても足りないから何かしなくてはいけないと考えていた。(41:45)

歴史を見る限り、日本は変わることが出来ると思う。ではどうすれば変わることが出来るかというと、三つ、不可欠なものがあると思う。一つはリーダーが集まる場。そこでたとえばフォロワーとして竹中さんを徹底的に応援する。秋山さんや政治家の方々が戦うときも同じだ。会場の皆様は皆それぞれの分野で活躍中だが、そうした人々をG1サミットに集め、戦う人を皆で応援出来るような場が必要になると考えた。それが大きなパワーになると。そして、お金を持っている人はお金を出し、知恵を持っている人は知恵を出し、権力を持っている人は権力を使う。そうやって世の中を良くしていくためのネットワークがG1サミットだ。(42:39)

二つ目はビジョンだ。どのように変えたいかが明確でないと世の中は変わらない。だからG1サミットで議論したものについては「100の行動」という形で発表している。そこで「こうすれば日本は良くなる」と、自分の頭で考えたことを自分の言葉で書く。これをやることで何をすべきかが自分でも分かる。それを皆さんに広げていけば、ビジョンがあり、リーダーがいて、そしてそれを支えるフォロワーがいるという状態になる。内側だけで議論をしていてもなかなか広がらないから、それをネット配信することでフォロワーも増やす。日本を良くするということに僕の資源を使うのであれば、そういうやり方が一番良いと思った。(43:37)

それともうひとつ。人は三つの座標軸を持っていると思う。僕の場合、その一つ目は遊び好きな堀義人という男で、二つ目は家族人だ。子どもが5人いる父親として一つ目とはまったく違う顔をしている。そしてもう一つ、組織のトップあるいは学長としての顔がある。で、僕はそこに加えて四つ目の顔もあると思っている。日本人という顔だ。国というコミュニティもある訳で、これが良くならないと皆が不幸になる。だからリーダーは能力がある以上、自分が属するコミュニティに貢献する義務があると思う。(44:58)

いずれにせよ、僕はそうした三つの座標軸できちんと行動出来ているなら50歳からの10年は日本のために生きると決めた。幸いグロービスの大学院やVCも皆に任せて上手くいっている。ならば僕は日本を良くすることにコミットしようと。日本を良くしていこうとすると…、たとえば今は中国や韓国と関係が良くない訳だが、そんな風に揉めることもある。ただ、日本人という顔のひとつ上はアジア人。アジア人となった瞬間、皆と仲良くなることが出来る。そのうえに地球人の顔があるのだと思う。(45:54)

そうすると、日本人として僕がやっていることは何か。日本のコミュニティを支えるリーダーや仲間もいるのなら、その次はアジア人として皆と連携していく。そこでは中国や韓国も仲間になる。で、次はグローバルな問題意識にぶつかる訳だ。人口問題、貧困問題、食料問題、等々…、そうしたさまざまな問題をダボス会議で議論しているが、その場に自分が関わっていきたいという気持ちがある。その中心的存在としてセンターステージで登壇したい。竹中さんはそれをすでにやっていらっしゃる訳だが、そういったことを皆が願い、どんどん出ていくべきだ。そのためには多くの人をインスパイアする能力を高めなければいけない。そこで懸命に努力して、世界でも存在感を発揮しながら多くの人をインスパイア出来たらいいなということをずっと考えてきた。(46:24)

小林:本業やダボスにはどのような時間配分で向き合っているのだろう。(47:31)

堀:やらないことを決めることが大切だ。僕としては、不要な仕事に多くの時間をかけてしまう起業家も多いと感じるときがある。たとえば時価総額を大きくするために買収等を行う訳だが、結果的にそれで時間がかかってしまっている。そういう企業を見ているとビジョンが明確でないと感じる。自分が何をしたいかが明確であればやらないことも明確になる。僕らの場合、たとえば大学院のビジョンはアジアNo.1経営大学院になること。これ以外は一切やらない。VCにも明確なビジョンがあり、それ以外はやらない。本業の範囲であればそれほど時間はかからない筈だ。分かっている分野だから。ただ、よく分からない分野に入ってしまうと問題解決にも時間がかかる。(47:40)

そこでやるべきこととやらないことを明確化すると、何に時間を使うべきかがすごく明確になる。今、僕のなかでは子どものプライオリティが高い。三男は今小学6年生だし、卒業するまでは懸命に向き合わなければいけないと思う。だからある時期は自分の何かを犠牲にしなければいけないが、少なくとも50代のあいだは日本のことをやると決めた。で、その間、グロービスは仲間に任せていく。結局、複雑性を排除して、明確な範囲でシンプルに手掛けていけば自分の関与を減らしていくことが出来る。そういうことを考えながら時間を配分し、そして必要に応じて発信もしていく。たとえばツイッターに何か書けばすべて編集されずに流れていく。自分の生の声を伝えていくことでコミュニケーションのコストは下がるだろう。そんな風に時間を配分している。(48:35)

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