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製品戦略や事業戦略に「ライフサイクル」を活用する

投稿日:2008/10/31更新日:2021/09/28

戦略のフレームワークは数多くありますが、今回はその中でも、典型的かつシンプルで、しかも非常に応用範囲の広いフレームワークである「ライフサイクル」について、考えていきましょう。

人間の一生には、ヨチヨチ歩きに始まる「幼・少年期」、身体・知能・仕事能力が著しく伸びる「成長期」、仕事がバリバリできるけれど成長自体は減速する「成熟期」などがあります。これになぞらえると、イメージの共有がしやすいことなどから、「製品(プロダクト)ライフサイクル(Product Life Cycle、以下PLC)」、「事業のライフサイクル」、「企業のライフサイクル」、「業界のライフサイクル」ほか、様々な応用が考えられています。

ここではPLCを使い、もう少し具体的に考えてみましょう(図1)。

例えば、ノート型パソコンが初めてマーケットに投入されたときのことなど、思い返すとイメージしやすいかもしれません。世の大半の人は、その存在すら知らず、メーカーには、大量生産のための製造ラインも存在しません。製品サイズは大きく、バッテリーの持ちも、あまり良くはなく、そのわりには価格も高額です。この時期は「導入期」と呼ばれます。

導入期のマーケティング目標はまず、潜在的な顧客に製品の存在を知らせ、具体的な利用シーンなど、その魅力を啓蒙するところから始まります。同時に企業内部では、製造ラインを構築したり、販売部隊を組織したりします。従って、この時期はキャッシュフローもマイナス、利益も赤字ということが多いはずです。この時期の事業の達成目標は、むしろ、「製品の認知度」や「売上高」に置かれます。また、ここでの製品購入者は「イノベータ」と呼ばれる、新しもの好きの人たちとなります。

次に、売上が少しずつ伸びて市場規模が大きくなってくると、競合企業が似たようなパソコンを市場投入するなどして、競争関係が急激に激しくなっていきます。この時期は、「成長期」と呼ばれ、競合の広告、自社の広告など、多くのプロモーションに接した人が急速に増えてきます。マーケットの主役は、「アーリー・アダプタ」と呼ばれる、大衆の中でも新しいものに興味がある人々へと移行します。

ここでのマーケティング目標は成長していくマーケットに対し、従来からの啓蒙に加え、競合との差別化シェアを確保することとなります。プロモーションは前にも増して活発になります。企業内部でも製造ラインを増やす、販促体制を強化するなど大きな動きが出てきます。業績については、まだ、キャッシュフローもマイナス、利益も赤字ということが多いはずです。しかし、市場の成長の伸びが止まるにつれ、プロモーション費用も不要になり、製造ラインの増設なども不要になるため、この時期の終わりには利益・キャッシュフローとも黒字化することも多いはずです。この時期は「シェア」「売上高」を事業の達成目標としてたてることが多いようです。

市場の売上の伸びが止まると、「成熟期」といわれます。この時期は、アーリー・アダプタからもっと保守的な「フォロワー」へマーケットの主役は移ります。この時期は、初期の市場開拓と比べれば、プロモーション費用、設備投資費ともに少なくて済むため、利益、キャッシュフローとも最高になることも多く、この時期の製品は「Cash Cow(牛乳の代わりに金を生み出す牛、日本語では「金のなる木」)」と言われることが多いはずです。マーケティング目標はシェアを伸ばすことよりもシェアを維持することに力点が置かれます。事業の目標は「利益」となることが多いようです。

そして、売上が減少し、利益やキャッシュフローがマイナスに向かい始めると、「衰退期」です。この時期になると、新たな機能を付けるなどして再度、導入期を創造するか、ほそぼそと継続し、キャッシュを市場から搾り取ってゲームを終了するのかの判断が必要になります。

図1 ライフサイクル

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製品ポートフォリオの検討に用いる

上記までに見てきたように、製品のステージを、人間のライフステージになぞらえて捉えることで、その製品単体のマーケティング目標や事業目標を検討しやすくなるほか、企業として製品ポートフォリオ全体を検討するのにも応用できます。

企業にとって、大きなマーケティング投資をせずとも、収益を生み出してくれるCash Cowは貴重ですが、その衰退に合わせて企業ごと倒産するわけにはいきませんよね。そこで、キャッシュが回っているうちに、導入期・成長期にある製品を作り出しておきたい、ということになるわけです。例えば、大塚製薬が「カロリーメイト」に続くシリーズとして注力している「SOYJOY」などが、そうした役割を担う製品と言えそうです。

なお、ここで留意したいのは、全ての製品が「導入」→「成長」→「成熟」→「衰退」の経路をたどる訳ではないということです。「導入」からいきなり「衰退」へ向かうものもあります。また「成長」から「衰退」へ向かうものもあります。なぜでしょうか。

「導入」→「衰退」は、そもそも顧客ニーズがない、あるいは顧客ニーズが顕在化していないなどの理由が考えられます。前者と後者の違いは、前者はシーズ発想(顧客ニーズではなく、自分の持つ技術などから商品を考えること)であったため、ニーズとマッチしていなかったということです。また、後者はタイミングが早すぎたということです。例えば、1990年代前半にEC事業を立ち上げたとしてもうまくいかないことが多かったでしょう。インフラとなる、インターネットの普及レベルが低かったためです。

では、「成長」→「衰退」はどうでしょうか。これは、イノベータやアーリー・アダプタといわれる新しもの好きな人たちはキャッチできたが、大衆のニーズ喚起に至らなかった(目新しいが、本質的ニーズではなかった)、強力な競争相手が参入してきて市場を席巻してしまった、バンダイのゲーム機「たまごっち」のように一気に大衆までブームになって行き渡り、すぐにしぼんでしまう一過性の商品であった、などが理由として考えられます。

ところで、なぜ、成熟期があるのでしょうか。成熟期を迎える理由はいろいろあります。例えば、市場に製品が行き渡り、買い換えしかニーズがなくなってしまう、他に同様の機能を持った新しい製品や代替品が現れる、顧客に「飽き」が来る、などです。市場に製品が行きわたったのであれば、例えば海外展開するなど、新たな市場を求めて拡大していくことで、成長は再スタートできます。他の新商品・代替品と異なる付加価値を少しずつ加味していくことで成長を持続する場合もあるでしょう(これを「プロダクト・エクステンション」と呼びます)。以前に、ファーストリテイリングの「ユニクロ」が50色のフリースを毎週3色ずつしか店頭に並べなかったように、飽きが来ないように工夫する場合もあるでしょう。企業はこうした工夫をしてできるだけ長く、成熟期が続くように考えるわけです。

(本稿は、グロービス・オーガニゼーション・ラーニングが発行するメールマガジン「グロービスNews」の2003年5月26日号に掲載されたものを、加筆修正のうえ再掲したものです)。

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