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成長性や規模だけでOK?事業機会はヨコではなくタテで探す

投稿日:2015/07/10更新日:2019/04/09

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ベンチャーが起業する時、あるいは既存企業が新規事業を興そうとする時、どんな事業分野を選ぶべきなのか。判断基準の1つとなるのが参入先市場の成長性や規模ですが、一方で、成長性や規模への過度な期待は事業失敗の典型的な原因の1つでもあります。「経営の知恵を働かせて、より上手に事業機会を探しましょう」というのが、今回のテーマです。

まずは、企業内でありがちな会話から見てみましょう。

Webやスマホ向けアプリやシステムの開発を手掛けている某X社。社長に「スマホアプリ開発の仕事はどんどん収益性が落ちている。何か次の柱になる新規事業を考えろ!」と命じられた室長のAさんとその部下のBさんが、互いのアイデアを持ち寄って議論しています。

A氏:「ここ1週間ほどメーカー中心にリサーチをしてみたけれど、どこもIoTに力を入れているね」
B氏:「私はサービス業を色々調べましたが、各社ともインバウンド(訪日外国人旅行)向けで工夫しているようです。何しろ前年比40~50%増の勢いで、外国人の観光客が増えていますからね」
A氏:「インバウンドか。確かに駅や繁華街で外国人が道に迷っていたり、小売店で言葉が通じずに困っていたりする姿を、以前より見かけるようになったもんなあ」
B氏:「訪日外国人向けの情報提供サービス、チャンスありそうですね」
A氏:「よし、その方向でプランを作ってみよう!」

さて、2人の事業提案はうまく行くのでしょうか?

市場の評価に欠かせない「5つの力」

私がX社の社長だったら、出された事業プランのタイトルに「インバウンド」と掲げられているだけで、まずマイナスの印象を持ちます。「たぶん既にあるサービスの焼き直し程度のアイデアだろうな」と。もちろん中には優れたアイデアもあるので、タイトルだけで結論づけたりはしませんが、その時々で人々が関心を持っているテーマを扱ったプランは、経験的に今一つな内容である確率が高いのです。「インバウンド」の他、最近だと「ビッグデータ」「女性の社会進出」「職場のメンタルヘルス」などを多く見かけます。

プランを作った当事者たちは「市場は伸びていて、将来はさらに大きな規模になる」「強い競合もまだいない」と、正当性を主張してきます。そんな時、私は「それって現在の業界内のことしか見ていませんよね。もっと広い視野で考えてみたら?」と提案を突き返します。

業界を広く見るのに役立つのが、よく知られた「5つの力」です。業界の収益性を「業界内の敵対関係」「新規参入の脅威」「代替品の脅威」「供給業者の交渉力」「顧客の交渉力」という5つの要因で分析する手法です。

さきほどの「市場は伸びている」「市場規模は大きい」「強い競合もあまりいない」というのは、業界内の敵対関係を決める因子の一例です。しかし5つの力が示唆するように、そのビジネスの収益性は成長スピードや規模、現在の競合の数だけで決まるわけではありません。「業界内の敵対関係」を決める因子には、他にも「製品の差別化がしやすいか」や「固定費や在庫コストの高さ」などがあります。さらに言えば「新規参入の脅威」など、業界の外との関係を決める4つの要因にも着目する必要があります。

特に誰もが注目する“アツい”市場の場合、勃興期は成長スピードもあり、競合の数も限られているので、一見すると魅力的な市場に見えます。しかし誰もが注目するということは、素人でも仕組みが理解でき、参入がしやすい(=新規参入の脅威がある)ケースが多いのです。結果、現在は強い競合がいなくても、市場の立ち上がりと共に次々と参入が相次ぎ、競争が激化します。他にも「差別化がしにくい」や「代替品が存在する」といった悪条件が重なると、どんなに売上規模を伸ばしていっても利幅の薄いビジネスになってしまうのです。

5つの力

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出展:M.E.ポーター『競争の戦略』(ダイヤモンド社、1982年)より編集

市場の熱狂から一歩引いたところにチャンスがある

相手の事業プランにダメ出しするだけでは無責任ですので、切り口を変えることでビジネスチャンスを見出せないか、一緒に考えることもあります。

事業機会の探索に慣れていない人は、まず「こんなものを提供したいよね」というプロダクトのイメージを決め、それをどういうセグメント(ファミリー/単身者向けとか、若者/ミドル/シニア向けとか)に当てはめるかを一生懸命考えます。つまり市場を水平(ヨコ)方向で見ているのですが、多くの人が同じ発想をするため、冒頭事例の2人のように競争激化する市場を選んでしまう傾向があります。

一方、もう少し慣れた人だと、市場を垂直(タテ)方向に広げて考えます。これからニーズが生まれそうなプロダクトをイメージした後、川上方向(そのプロダクトを生産するのにどんなサプライヤーが必要になってくるか)と川下方向(そのプロダクトが購入された後、どんなサービス需要が生まれてくるか)に思考を振ってみるのです。すると、それまで見えなかった事業機会が思い浮かんだりします。

私がよく薦めるのは「つるはしビジネス」の機会探しです。

米国のゴールドラッシュの時代、最も稼いだのは金の採掘に成功した人ではなく、ひと山当てようと集まってきた人々に、採掘に必要な「つるはし」を売りまくった人物だったという有名なジョークがあります。これにちなんで、成長に伴って新規参入が相次ぐ市場の裏側で、参入業者向けに必要な機材や物資、インフラなどを提供する商売を「つるはしビジネス」と俗に言います。ゴールドラッシュの熱狂に加わって、本当に金を掘れるかどうかはギャンブルに近いですが、市場参加者が増えている以上、彼らに道具や生活物資を提供するのは確実に稼げるビジネスです。

「つるはしビジネス」は主に川上方向を探る見方ですが、スマイルカーブの存在が多くの業界で指摘されている通り、川上と同時に川下のビジネスにも魅力があります。実際に、自動車に関する付加価値の過半は、自動車本体(素材・部品、およびディーラー販売を含む)ではなく、自動車が購買された後のカー用品や保険、メンテナンスなどのアフターマーケットで生じていることは昔から知られています。

商品自体の交換価値よりも、購入後に生み出される使用価値が重視される傾向は、IoTの時代を迎えて一段と加速すると思われます。携帯電話業界で、端末メーカーからキャリアへ、そしてさらにグーグルやFacebookといったサービス提供企業へと価値移転が起きました。多くの業界の製品がネットワークとして繋がることで、携帯電話で起きた現象と同様に、川下のサービス部分での事業チャンスがますます増えてくることでしょう。

【まとめ】
・市場を選ぶときは、目先の成長スピードや競合の数だけで判断しない
・市場をヨコ(水平)方向だけでなく、タテ(垂直)方向に見ることでチャンスが拡がる

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