◇登壇者◇
冨山和彦:産業再生機構 代表取締役専務(COO)
星野佳路:星野リゾート 代表取締役社長
後藤英恒:東ハト 取締役副社長
小城武彦:元・産業再生機構/元・カネボウ 取締役兼代表執行役社長
冨山和彦:産業再生機構 代表取締役専務(COO)
星野佳路:星野リゾート 代表取締役社長
後藤英恒:東ハト 取締役副社長
小城武彦:元・産業再生機構/元・カネボウ 取締役兼代表執行役社長
「不満が表面に出るのは健全。厄介なのは水面下で動く抵抗勢力」(星野)
小城 私は、産業再生機構から落下傘でカネボウに入ったが、内部からの抵抗は大きく2つに分けられるように感じた。
1つは、年功序列に代表される、老舗企業ならではの企業文化によるものだ。40歳代というと通常は課長クラスであり、それと同年代の社長が来たとなれば、拒否反応を起こす。もう1つは、ヨソモノへの抵抗感。カネボウは生え抜きの社員が多数を占めており、仲間意識が強い。
加えて、「社長」という立場の人間に対するイメージが非常に悪いということもあった。前社長はいわゆる“御輿に乗った”タイプの人物。短期的にはそれでも組織は回ってしまうわけだが、そのせいで、社長というものに対する猜疑心が社員の心に植え付けられてしまっており、自分もそういう先入観を持って迎えられた。
逆に外から入っていった強みは、「この会社を再生させることが自分の役割、ミッション」ということがはっきりしていたので、それ以外のことは気にせず、腹を括ってかかれたこと。自分自身、元来、カラッとしたキャラクターではあるので、変だと思うことは、「これって、おかしいですよね」と全部、口にしてやってきた。
後藤 ユニゾン・キャピタルから東ハトの再生に入った。まだ若い自分が選ばれたのは、マーケティングとコンサルティングの両方を経験している人間が珍しかったからだと思う。最初は経営企画担当の執行役員として入ったが、簡単に言えば何でも屋。東ハトはオーナー企業で当時、執行役員は皆50歳代。33歳の自分は異分子、外国人扱いされた。受け入れ側にしてみれば、「こいつの話を、どこまで本気で聞いていいのか分からない」「どうせ3年で抜けるんだろう、信用できない」という感じだったのだと思う。
小城さんの話にもあったが、私も、問題があると思ったことは全て口にしてやってきた。生え抜きの社員が常識としてやっていることの中には、一般的な社会通念から見たら、全然、常識ではないこともある。それを、「なんでですか」「どうしてですか」と、ひたすら疑問を伝えていった。問題の本質に迫るまで、5回でも6回でも「なんでですか」を繰り返すので、「なんでボウヤ」と呼ばれるようになった。そうこうするうちに、「仕方ない(応えてやろう)」というような、社内に置けるキャラクター設定ができていった。
ヨソモノが信頼を得るには、とにかくコミットすること。朝は誰よりも早く行って、夜は誰より遅く帰った。それを続けることで、「本当に(この会社を)良くしたいのだな」と感じてもらえるようになったと考えている。
星野 温泉旅館業というのは極めて特殊な世界だ。形式的に上から入って「どうぞよろしく」で、すんなり始まるわけではない。
私が考える2種類の抵抗は、「表に出てくるもの」と「水面下で進むもの」。前者は議論の場などで出てくる抵抗勢力で、これはある意味、健全。真っ向勝負で対応できる。問題は後者。表向きは合意しているのに、現場に行くと何も進んでいない、進ませない。これが危険だ。
後者を止めるため、私の場合、再生プロセスの最初の1年は、従業員全員が一致する利害に集中することにしている。例えば、「高収益を目指そう」というのは生活に直結するから反対のしようもないし、「お客様に褒めてもらえるようになろう」「給与を上げよう・休みを増やそう(そのために生産性を向上させよう)」も同じ。
とにかく議論が表に出てくるように、出やすいようにする。目的さえ一致すれば、あとは方法論だけの話だから、大変に進めやすくなる。経験的には、それで結果を出せば、2年目、3年目はおのずと上手くいく。
冨山 再生が上手くいくか否かは「危機感があるか」にかかっている。ヒトは変化に抵抗する。野球をやっていた人に、明日からサッカーをやれ、というようなもので、古くからいる人ほど、それまでやってきたことに固執する。
中小企業は規模が小さい分、経営状態を肌で感じやすく、また、大企業に対して元々、ハンディキャップがあるのを分かっている分だけ、危機感が生まれやすい。ところが、カネボウ、ダイエークラスになると、客観的には明らかに破綻しているのに、危機感はなかなか生まれない。沈みかけのタイタニック号に乗っているようなもので、外に投げ出された瞬間、10秒で死ぬ、みたいな状況なのに、船の中ではまだ席次とかを決めている感じだ。そこで、どれだけリアリズムを持たせられるかが一つのカギだ。
再生機構は国が関与してしまっているから、ますます厄介で、うち(再生機構)が入っていった瞬間、「もう、これで大丈夫だ、救われた」みたいな空気感になっちゃう。
現場はまだ良い。最先端でドンパチやっているから、負けが込んでいるのは肌で知っている。問題は、40歳代、50歳代、高学歴の中間管理者層。もともと頭の良い人たちが、腐りかけた組織で年齢を重ねてきているのが一番、手に負えない。見た目は従っているのに、腹の中では背いているというか、ムーンウォーク攻撃に出る。顔とカラダはこちらを向いているんだけど、動きとしては後ろに下がって行っちゃう(笑)。これをどうするか。
先ほど、星野さんが「誰もが一致する利害に集中する」と言われていたのは私も賛成で、有効な方法論の一つと思う。ただ、それだけではダメで、“生け贄”が必要なケースもある。もちろん、ここに一般解はないので、(誰かのクビを切って見せしめにすれば、どこでも抵抗勢力がおとなしくなる、などと)ミスリードはしないでいただきたい。座敷ごとに、何がウケるかは、まるで違うし、再生機構が抱えている41案件でも全て、個々の性質に応じた方法論を取っている。例えば、ある会社では、危機感はあるものの、変にいじけてしまっていたし、別な会社では、まだ全く危機感がなかった。怖いのは、こういう人達を頭から否定すること。ゲリラ戦が始まり、思いも寄らないところで、自爆テロをやられたりする。階層ごと、企業ごとに異なる状態や想いに肉薄し、誰を元気づけるか、適切な判断が必要となる。人間的な洞察力が低いと、内側から壊される。
「ナカタの執行役員就任が社員の心に火を灯した」(後藤)
小城 私が考えるに、日本の組織には?帰属型と、?参加型がある。前者は、終身雇用を前提とし、社内で自分のキャリアを作っていくという社員の多数を占める組織で、後者は目的ありきで入社し、それが達成された暁には他社へ移ることを前提とした社員が多数を占める組織だ。カネボウは前者であり、ここから先は、その前提を持ったうえで聞いていただきたい。
カネボウで、私が最初にやったのは、企業理念の作り直しだった。企業組織の最上位に立ち返った。目的は3つあり、1つは「問題意識の視座を上げること」。もう1つは、作業を通じて「私自身がカネボウという会社(のローカル言語や文化)を理解すること」。そして「反省論を造る〜自然と反省論が巻き起こるようにする〜こと」。
カネボウの企業理念には、「上司のほうを向くな、生活者の目を持て」とか「現場、現実、現物に質問しつづける」とか、非常に良い内容がたくさん入っている。これを、「本当にそのとおりにできていたか?」と問い直す課程で、中間管理層は反省を強め、現場は会社を好きになる。そうやって改めて掲げなおした企業理念を、「今度はやり抜く」と宣言してもらった。
次に、マネジメント層に、「仕事をする」ことの具体的な意味を理解してもらうことに注力した。以前の経営陣が悪いモデルを示していた影響が残っており、下から積み上げてきたものをただ「演じる」ことが仕事であると勘違いしている人が特に上位層に多かった。これを直すこと、ラインマネジメントの活動量を挙げ、スタッフの仕事量を減らし、浮いた人材を顧客接点に振り向けることを率先して実施した。例を挙げれば、内部の想定問答作成などを大幅に簡素化した。「そんなものは、幹部が自分の反射神経で答えるべきもの。本来必要なし。」という具合に。
自分に与えられた時間は、わずか1年強だったので、徹底的にハンズオンの姿勢を貫いた。本社の経営会議だけではなく、各事業部の経営会議、その下の商品開発会議や営業会議にも全部出席し、価値を生まない仕事の選り分け、上長のあるべき姿というのを見せていった。
現場の従業員に対するコミットメントとして、とにかく現場にも足しげく通った。ダメな経営者は現場に行かない。1年3カ月で泊まりがけの出張が100回を超えた。
後藤 東ハトは中小企業で、かつ1度、倒産している(編集部注:東ハトは、日本初のプレパッケージ型民事再生のケースであり、ユニゾン・キャピタルが請け負った)。このため、私が入った時には危機感を通り越して、絶望感に溢れている感じだった。そこに、36歳社長が入ってきて、その下が33歳のボク。ホントに大丈夫なのかなぁ、という感じだったのではないかと思う。だから最初は、「みんなで再生させよう」「元気になろう」とモチベートしていった。具体的には、とにかくマーケティング重視。良いイメージ、ブランドを再構築することに注力した。ナカタ氏(中田秀寿氏)は、そこに共鳴してくれた。
彼が執行役員として参加したことで、取引先など外部に向けても良いイメージを発信することができたが一番、効果があったのは、社員に対してであった。初めてナカタ氏が執行役員になると社内に案内をした際のことは忘れられない。最初は皆、ピンと来ていなくて、「九州支店にナカタヒデオってヤツがいるけど、あいつが役員になるわけ?」みたいな感じだった。それが、“あの中田秀寿”と分かり、大歓声が上がり、しかし、すぐに「なんで、うちなんかに…」といぶかしがる声が出た。そして次にそれが、実感として腑に落ちてきたときに、「ナカタが来てくれるぐらい、東ハトは本気でやろうとしているし、やりきれるんじゃないか」という雰囲気が社内に染み渡った。
マーケティングのセオリーに則ったことも、もちろんやった。100以上あった商品数は、30種類まで切って、収益性を高めた。幸い、キャラメルコーンのリニューアルや暴君ハバネロなどのヒットがあり、売上もついてきた。
一方、企業風土を変える取り組みにも力を入れた。旧・東ハトはオーナー企業で、社員は上に絶対服従。右向け右の世界で、灰皿を投げられ、避けたら避けたで、「なぜ避ける」と叱られるような企業文化だった。こういうことが続くと、社員は間違ったことが目の前で行われていても抵抗しなくなる。それは実行力のない組織という意味ではなく、現場は「やれ」と言われたことはモーレツな勢いでやる。ただ、その理由が「オーナーに言われたから」なのだ。そこを、「なぜやるのか」をはっきりとさせる、自主性を重んじる風土に変えるところに、すごく時間をかけた。
例えば私は、60人近い社員に会って、膝詰めで話をした。…と言っても、辺見さん(辺見芳弘・社長)は全員に会ったようなので、自慢にはならないが。工場など現場をまわると、「経営の人が来てくれるのは初めてです」なんて言われたりする。会ったことのない社員の名前を名簿の写真で覚えていって、現場で声をかける。そうすると皆、驚いてココロを開いてくれる。
オーナー企業のため、利益の数字は出てこないし、売り上げにもウソの数字がある。情報公開を積極的にすることで、そうした悪しき慣習にもメスを入れた。
星野 冨山さんが言われた、40-50代の社員は抵抗勢力が多いというのは確かに実態としてある。私の経験上も、そういうことが多い。ベストソリューションは、「辞めてもらうこと(メンバーが入れ替わっていくこと)」と、私は思う。メンバーが入れ替わったところで、従業員数200人や300人(のリゾート施設)であれば、現場に混乱は起こらない。
変革における組織の動かし方はトップダウンが基本だ。仕事のやり方、プロセスはトップが決めて、中身のところはやる気のあるスタッフに自由にやらせる。その傍らで抵抗勢力はバサバサと斬る。それがトップの役割と思う。例えば、ゴールドマン・サックス+星野リゾートで再生に入った古牧温泉のケースでは、従業員500人中60人もの管理職がいた。そもそも、なぜ温泉旅館に部長やら課長が必要なのか、そこまで階層を細かく区切ってどうする?(ちなみに星野リゾートでは3階層)という感じではあるのだけれど、とにかく最初の段階では少々不自然でも気にせずに60のユニットを作って、管理職全員を現場の責任者にした。そのうえで、4カ月の期限付きの目標を持たせたところ、自然に40ユニットまで減った。逆に言えば、20ユニット分のリーダーが退いていったことになる。見方によっては、これは“斬るための手段”であったかもしれない。ただ、それをできる限りフェアなシステムで行うことがポイントと考えている。




