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子会社の情報を親会社が取れないようにするーーDMM亀山氏、メルカリ小泉氏が語るイノベーション論

投稿日:2017/07/13更新日:2023/07/18

前回に続き、G1ベンチャー2017でDMM会長の亀山氏とメルカリ社長の小泉氏が「イノベーションを生み出す組織」について語ったセッションの模様をお届します。(全3回)

“日本版ユニコーン”経営者たちが考えるイノベーションを生み出す組織のつくり方[2]


麻生:
これまで特に苦しかった時期や面白かった時期というのはありますか?

小泉: 僕らのマーケットは1社しか勝たないんですよね。2位以降はあんまり意味がない‘Winner Takes All’のマーケット。で、そのマーケットに「フリル」さんっていう…、今は楽天さんが買収しましたけど、彼らが僕らの1年ぐらい前にスタートしていて、最初は当然ながら差がありました。だから当初は生き残らなきゃいけないというか、勝たなきゃいけないってことで常にひりひりしてましたね。

結局、そこで何が大きく影響したかというと資金調達です。グロービスさんを褒めるわけじゃないですけど、グロービスさんなどからもらった資金でCMを打って、それでダウンロード数も200万ぐらいから300万ぐらいまで一気に伸びました。そこで「フリマアプリだとメルカリがトップだよね」みたいな雰囲気がなんとなくできて、圧倒的なポジションに勝ち残っていったっていう感じです。でも、当時は山田(進太郎氏:株式会社メルカリ 代表取締役会長兼CEO)と2人で「どうしようか」なんていう話をよくしてました。

麻生: 抜く時は一瞬で伸びた感じですか?

小泉:  「運良く」という感じで。ただ、CMも最初はファイナンスがなかなかまとまらなくて。当時は売上がゼロで、ダウンロード数もまだ100万ぐらいで資金調達してましたから。創業1年未満でバリュエーションは100億ぐらい。それで「10億以上集めたい」って言って回っていて、当然、なかなか難しい。それで山田と半分ジョークですが、最後は「ちょっと二人でお金出し合ってCMやろうか」とか議論をしてました(笑)。

亀山: だよね、山田進太郎も金持ってるのに。俺もはじめの頃、「ぜんぶ自分(の金)でやればいいのに」って思ってたけど、当初から結構ファイナンスしてたもんね。

小泉: 外部からの目で経営に緊張感を持たせるのは大事かな、と。

亀山: へぇ、俺なんて欲たくましいから全部自分でやろうとか考える(笑)。結局、CMは自分たちで金を出して打ったの?

小泉: そこは最後にファイナンスがまとまったから良かったんですけど、一時期は2人で「いくらある? いくらなら出せる?」みたいな話をしてました。当時はCM1本3億ぐらいだったから、「1.5億ずつ出そうか」みたいな(笑)。

亀山: 今の時価評価はどのぐらいなの?

小泉: 今は1,000億以上です。

亀山: 「みんな出すなら今よ!」っていう。(会場笑)今はもう集めてないの?

小泉: 今はあんまりファイナンスもやってないですね。

亀山: でも、上場って良いこともあるし悪いこともあるじゃない? だから逆に言えば、そういう風にして集まったんなら、しばらくは上場しなくてもいいのかな、て。

小泉: その議論は結構ありますよね。未上場の良さをこれからもキープするべきかどうかっていう意味だと。亀山さんは1度も上場しようと思わなかったんですか?

亀山: 思ったよ。でも「エロだからダメ」とか言われて。(会場笑)「あれ〜?」って(笑)。まあ最近は「ここを(本体から)分ければ上場できます」みたいな話はないこともないんだけど、逆にそれだとやりにくくなるし、資金も自前でなんとかなってきたからさ。昔はやりたいことが多い割に金が足りなかったんだけど、今はむしろ投資案件が少なくなったりしてるぐらいで。だから片桐(孝憲氏:株式会社DMM.com 代表取締役、「ピクシブ」創業者)を入れたりして、「もっといろいろ投資できそうなやつを入れていかないと」っていう感じにしてる。だから、今はもう可能でも上場しない方向。ラクだし顔出さなくていいし。

社長になって見えた景色、社長から退いて見えた景色

小泉: 片桐君に任せようと考えたのはいつ頃なんですか?

亀山: (社長就任の)2ヶ月ぐらい前じゃなかったかな。

小泉: 結構直近なんですね。

亀山: 飲んだ勢いで。(会場笑)本当にその場でバッと決まった。まあ、前から「ピクシブ売れよ」とか言ってたんだけど「嫌だ」って言われてて。で、それから2~3年経って「じゃあピクシブいらないから本人だけ来て」みたいな(笑)。勢いだね。自分だって何が起こるか分からないよ。 来年俺のとこにいるかもしれない。(会場笑)

麻生: 小泉さんは社長になられていかがでしたか?

小泉: 僕らの場合、山田がもうずっと1年ぐらい、出張ベースで年間かなりの期間は海外にいたので。だから、あまり変わったという感覚は…、もともと日本は自分がきちんと経営していくんだという強い想いもあって、それが名実ともに替わったという感じかもしれないですね。

麻生: そういう経緯を通して何か景色が変わったようなことはありました?

小泉:今回、山田と僕で体制を変えるにあたって、「将来的には(日本とアメリカで)2つのヘッドクォーターにしよう」っていう考えを明確にしました。そのうえで、アメリカのほうからイギリスも見て海外は海外で成長しよう、一方で日本側は日本側で成長しよう、と。それに伴って人材含むリソースを日本側にももう少し当てようと決めました。それで今は日本側のほうでも投資が結構進み始めていて、今後は「メルカリ」でもかなり大きな機能追加が入ったりする予定です。

麻生: 亀山さんは片桐さんが入ったことで何か変わりましたか?

亀山: 俺は何か変わったかな。ITに関しては、もう「あとはよろしく」で済むようになった。特に“ピュアインターネット”というか、アプリだけで完結するようなものって俺はよく分かんないから。音楽の配信とかどうとか言われてもね。俺の頃はまだ「店舗でのビデオレンタルに替わって配信しましょう」ぐらいで良かったんだけど、今はSNSとか、なんかもういろんなものがぐちゃぐちゃ出てくるじゃない? もうついてけないし。

麻生: 今も新しい事業には基本的に「亀山チェック」が入ってるんですか?

亀山: 持ってきたものに対しては、「いいんじゃない」って一応は言う。でも俺が最近やってるのは、どっちかっていうとアナログ的なものが多いかな。アフリカのこととかアニメとか。あとはアカデミーみたいな少し教育っぽいやつ。あと、今日リリースが出たけど今度はヨーロッパでサッカークラブをやるらしくて。俺が考えたわけじゃないんだけど。「いいですか?」って言って来たから「いいんじゃね」っていう感じで。俺サッカーは観ないから。(会場笑)

小泉: 月に何件ぐらい持ち込まれるんですか?

亀山: 月に何十件とかあったりするね。

小泉: それで通過するのは…。

亀山: 1件あるかどうか、ぐらいかな。

小泉: 誰でも持って行けるんですか?

亀山: 誰でも。金曜日の夜11時にはawabarにいるからね。

小泉: ああ、「awabarに持って来い」と。

亀山: 酔っ払ってるから聞いてないけど(会場笑)。

小泉: 酔っ払ってもなんとなく分かった話だけ通す感じですか?

亀山: たとえば「VRならこいつの担当だな」とか、「水族館みたいな施設系はこいつの担当だな」とか、それぞれキャラや得意分野があるわけ。だからその場で勝手にフェイスブックにつなげてグループにして送信してお終い、みたいな。

イノベーションを生み出すための人材マネジメントとは?


麻生:
そういう人事の差配が今は一番大事な仕事のひとつという感じですか?

亀山: 俺が見てるポジションぐらいになると、もう教育できるところもないからさ。新人ならあるんだけど。だから配置を変えるしかないというか。30代40代のやつを今さら変えたりできないんだよね。ただ、もともとプレーヤーとして優秀なやつはいるわけ。メルカリでもそうだと思う。エンジニアとしてはすごく優秀だけど、100人や1000人をまとめるタイプじゃないってことはあるじゃない? だから「じゃあ、そこは別の人間に替えよう」とか。どうしてもそういう人の移動が組織のなかで必要になる。組織論に戻ってきたね(笑)。

麻生: 戻りましたね、期せずして。今は亀山さんのところが3000人ぐらいで、小泉さんのところは500人ぐらいとのお話でしたけど、たぶん、ある時期までは働いている方々の顔がほとんど見えてたと思うんですよね。でも、3000人にもなったら一人ひとりは見えなくなると思います。その辺の変化を通して直面した問題って、何かありましたか?

亀山: まあ、10人のときも100人のときも1000人のときも、結局、密に話すやつは10人ぐらいだから。そのなかで、さっき話したみたいにそいつらがどんなポジションを取れるか考えたりする。で、たとえば会社をM&Aで買うとしたら、基本はそこの社長がやるけど、信頼できるお目付け役みたいな人間を付けたりする。「直虎」でいうと今川から送り込まれるやついるじゃない? あんな風に、財務上問題がないかどうかを見る秘書みたいなやつがいるぐらい。

でも、経営には口を出さない。出すのは財務や法務だけ。そこがポイント。分かってないやつが事業内容に口を出したらおかしくなるんだよね。だから法律違反がないかどうかとか、P/L(損益計算書)の数字だけを正確に見ていようっていうぐらい。いろいろやっていこうと思うと、どうしてもそういう風にして権限を与えていかないと。

麻生: DMMとして大きくなっていく過程でそういうやり方を学んでいった感じですか? それともはじめからそういうスタイルだったのかな、と。

亀山: はじめからそうだったかな。どこかの大手さんが買収先に古参役員を送り込んで上に置いたりするのを見たりしてたから。今でも、たとえばawabarで飲んでてもどこかのエンジニアが文句言ってたりするわけよ。「また変なのが上に来ましてね」とか。で、結局そういうやつらはだんだん辞めてくわけ。特にIT企業のM&Aなんて人を買うっていう話なのに、そこで組織の上を替えたら人が逃げちゃう。だから、そのときの体制のままにしておく。せっかくいいチームになってるところに、なまじっか別の権限を本体から送り込むとおかしなことになるから。

小泉: うちは子会社の情報を親会社があまり取れないようにしてます。

亀山: 子会社の情報を、親会社の側から取れないの?

小泉: はい。みんな、新規事業についてはどうしても何か言いたくなるじゃないですか、いろいろと。だからメルカリ本体側の社員には新規事業側の情報をあまり与えないんです。新規事業側からはメルカリの情報をたくさん取れるようにしてます。学ぶことが多いから。下から上はたくさん取れるようにして、上から下にはなるべく取れないようにします。そんな風に、情報に関して新規事業側を守ってあげるっていうことはしてますね。

麻生: それで、亀山さんがおっしゃっていたような「儲かってないのにひっそり続ける」ようなケースは起きないんですか?

小泉: まだ亀山さんのところほど事業数が多いわけじゃないので。一応そこを見ることはできますけど、僕の知らないところで子会社の社長を務めてる松本(龍祐氏:株式会社ソウゾウ 代表取締役)が進めてることって、たぶんたくさんあります。定期的に会って話はしてますけど、なんというか…、新規事業についてあまり潔癖になり過ぎると組織として何もできなくなっていくから、そこはなるべく見ないようにしてます。

麻生: 人数が増えていく過程で変わったことはありますか?

小泉: まだ全社員の評価を役員全員で2日ぐらいかけてやってます。でも、これがギリかなっていう感じです。

麻生: 相当ギリですよね。

小泉: はい。今は一応全員見てますけど。

亀山: (小泉氏の視線を受けて)あ、何も見てないから(会場笑)。さっき言った通りで、常に10人ぐらいは俺も見てるけど。

小泉: おっしゃる通りで、僕らも組織を少しずつつくる過程で「ひとりで見るのは8人ぐらいが限界かな」って。だから組織づくりもそのぐらいのロットで考えてます。

亀山: 組織のスケールは100人ぐらいがちょうどいい気がする。それ以上になるなら権限もビシっと決めとかなきゃいけないかなって。俺が見てる10人がそれぞれ10人ずつ、100人を見るっていう感じ。あと、たとえば最近は同じようなサービスを2ヶ所でつくったりしてる。そういうこと、昔はやんなかったのよ。「あっちでやるんだからそっちは止めとけ」って。でも買収で外部から入ってきたベンチャーなんかも「これがやりたい」なんて言うようになってきて、「ま、いっか」って。今度は似たようなサービスが3つ同時に動きそう。

で、それで勝ち残ったやつがやっていくっていうやり方しかなくなってくるんだよね。その辺についても、「どこのやつがうまくできるか」って自分でジャッジできると思うとジャッジしちゃうじゃない? でも、今はあえてそれをしてない。それで、結果が良かったやつのところに統合しようというような話になってくんじゃないかなと思うんだよね。

第3話はこちら>>

執筆:山本 兼司

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