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『謙虚なコンサルティング』―人を支援するとはどういうことなのか?

投稿日:2017/05/27更新日:2019/04/09

今回は、88歳という高齢にして今なお執筆意欲に溢れるエドガー・シャイン博士の最新刊を取り上げる。

シャイン博士はさまざまな分野で足跡を残してきた現代経営学の巨人の1人である。「キャリア・アンカー」(個人がキャリアを選択する際に、最も大切にしたい、捨てたくないと考える価値観)という概念の提唱者としてご存知の方も多いだろう。

そのシャイン博士が切り開いた分野に「プロセス・コンサルティング」がある。本書は、そのノウハウをさらにブラッシュアップし、不確実性の高い時代のコンサルティングの在り方に一石を投じるものである。

コンサルティングは突き詰めれば「人を助ける」「人を支援する」ということなので、同僚や部下、あるいは家族をどう支援するのかといった場面にも応用可能だ。その意味で、あらゆるビジネスパーソンに読んでいただきたい1冊である。

さて、多くの方は、コンサルティングというとどのような印象を持たれるだろうか。クライアントからの依頼に基づき、調査、分析を行い、知恵を絞って問題の解決策を考え、それを記したパワーポイントのレポートを提示し、場合によってはその実行支援も行う、というイメージが強いかもしれない。実際に、そうしたアプローチをとる戦略コンサルティングファームは多い。

しかし、シャイン博士が中心となって開発してきたプロセス・コンサルティングは、それとは少し趣が異なる。プロセス・コンサルティングでは、何かしらの解決策を記したレポートを提出することを主眼とはしない。クライアントの思考の特徴を理解した上で、さまざまな質問をし、また場作りを行ってクライアントそのものを問題設定や問題解決に巻き込み、問題を解決するまでのプロセスを指導する、というスタイルをとる。

本書で提案されている「謙虚なコンサルティング」はそれをさらに進化させたものだ。この経営環境の変化の早い時代に、外部のコンサルタントが適切にソリューションを提供することは必ずしも容易ではないし、賞味期限も必ずしも長くない。

重要なのはむしろ、顧客自身が思考パターンや行動を変えることであり、それを適切かつタイムリーに手助けすることこそが、クライアントを長期的な成功に導くというのがシャイン博士の考え方である。

謙虚なコンサルティングの新しさ、重要なポイントとしてシャイン博士はいくつかのことを指摘している。それらは以下のようなものだ。

・クライアントとの間に個人的な関係が必要になる
・初めてクライアントと声をかわす瞬間から新たな対応の仕方が必要になる
・謙虚な姿勢と、支援したいという積極的な気持ちと、好奇心が必要となる
・新しいタイプの聴くスキルと対応するスキルが必要となる
・謙虚なコンサルティングは、コンサルタントが担う全く新しい「個人としての役割」である
・率直で自分を偽らない革新的な関係をクライアントとの間に築くことが必要であり、その関係を土台に、さまざまな対応を行うことができるようになる
・ディスカッションではなく、共同で行うダイアローグによる探求が効果をもたらす

詳細は本書に譲るが、本書の中でも私がなるほどと思った点を2つ紹介したい。

まずは、クライアントとの人間関係や距離感が非常に重要だという点である。通常の専門職(医師や公認会計士、システムエンジニアなど)がクライアントととる関係性(彼の言葉では、レベル1の関係性)では不十分であり、互いを信頼し、率直に話のできる、レベル2の関係性が必要となる。

この関係性があるからこそクライアントの「本当の思い」を知ることができ、有効な支援が可能になるのである。一方で、行き過ぎた関係性の深さ(レベル3の関係性)も好ましくない。必要とされたらいつでも支援するというのでは、相手の自律/自立を妨げることにもなりかねないし、ビジネスとしてはペイしないことも多いからだ。

レベル2の関係性が望ましいのは頭では理解できるが、実現するのが難しいことも容易に想像がつくだろう。いわゆる高いレベルのEQを持たないといけないだろうし、思いやりや人間に対する深い関心、洞察力も必要になる。常日頃からの人間観察も非常に重要だ。万人がこの関係性をクライアントと構築できるかと言えば難しいかもしれないが、これがないと適切な支援ができないというポイントはやはり押さえておきたい。

もう1つは、臨機応変に質問を変えたりすることで、好ましい「アダプティブ・ムーブ」を起こすことの重要性だ。つまり、クライアントに効果的な反応を起こしてもらうよう、問いかけを中心としたアクションをとるということである。信頼性を損ねる発言は当然御法度だし、過度に介入し過ぎることも好ましくない。相手の思考を枠にはめたり、自分自身の仮説を押し付けることも避けるべきである。相手の可能性を信じ、クライアント自身が好ましい問題解決を行えるよう、プロセスを重視するという点が重要だ。具体的にどのような問いかけが効果的なのかは、本書を確認していただきたい。

本書の構成上の優れた点は、著者の事例(失敗事例も含む)をふんだんに紹介しながら、そこからの学びを事例ごとにしっかり言語化している点である。また、各章末に「まとめと結論」「読者への提案」が記されているので、これもヒントに読み進められると頭がより整理されるだろう。

「謙虚なコンサルティング」は、突き詰めれば「謙虚なリーダーシップ」へともつながっていく。「謙虚なリーダーシップ」については現在執筆中とのことだが、これからのリーダーシップが、グイグイと引っ張っていくタイプから、支援型のリーダーシップになるという意見を述べる経営者、学者は多い。

その意味で、これからのリーダーシップの在り方についてのヒントも得られる1冊と言えるだろう。
 

『謙虚なコンサルティング』
エドガー・H・シャイン(著)
金井壽宏(監訳)、野津智子(訳)
2000円(税2160円)

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