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『影響力の武器 戦略編』―大ベストセラー本の「人を無意識に動かす極意」とは?

投稿日:2017/04/01更新日:2019/04/09

週明けから新年度がスタートするという方も多いだろう。いずれにせよ、すでにビジネスの現場にいる方も、新たに社会人デビューされた方も、ぜひ学びのヒントとしてこのGLOBIS知見録を活用いただけたら執筆者としても非常に幸いである。

さて、今回は、およそ四半世紀前に出版されベストセラーとなった『影響力の武器』の姉妹編となる、シリーズ第3弾の『影響力の武器 戦略編』を取り上げる。

元祖『影響力の武器』はグロービス経営大学院の科目「パワーと影響力」のベースにもなっている書籍だ。「カチッ・サー」と表現される、人を無意識に動かす上で影響力を持つ6つの要素――返報性、コミットメントと一貫性、社会的証明、権威、好意、希少性――について、徹底的に解明したのが同書であった。小職が昨年ダイヤモンド社より上梓した『グロービスMBAキーワード 図解 ビジネスの基礎知識50』でも、この6つについては、他の項目と分けて独自に1章を設け、6つの要素を個別に解説したほどである。そのくらい、この書籍のインパクトは大きかった。

本書『影響力の武器 戦略編』は、これらをベースにしながら、さらに、社会的実験や心理学者の実験などで解き明かされたさまざまな行動心理学の知見について、計53章の中で具体的事例を引きつつ、そのティップス、エッセンスを新たに紹介するものだ。

本書で一貫して鍵となっているキーワードは「スモール・ビッグ」である。つまり、影響力の武器を用いたちょっとした工夫が、大きな結果の差異をもたらすということである。

たとえば、大型の被害をもたらしそうなハリケーンがやってきたときに、そのハリケーンにどのような名前をつけるべきだろうか?(アメリカではかつては、大型のハリケーンには、ジェーンやキャサリンなど、女性のファーストネームをつけることが多かったが、近年では男女平等の考えものと、男性の名前も用いられるようになっている)。

地域によってはアルファベット順に男性名と女性名を交互につけるというルールもあるようだが、これは必ずしも賢明ではない可能性がある。たとえばXabierというファーストネームは、キリスト教のザビエルに通じる名前であり、同名の大学もある(NCAAのバスケットボールの強豪校でもある)。非常に由緒のある名前であるが、何が問題なのだろうか。

答えは、「X」で始まるファーストネームの人間は極めて少ないということだ。そのことが何の問題を引き起こすのか、と思われる方も多いかもしれない。ポイントは、人間は同じファーストネームの名前に非常に関心を示す、あるいは同じファーストネームではなくても、頭文字が同じ名前に関心を持ち、義捐金を送りがちになるという点だ。

たとえば、JaneさんやJoeさんであれば、JulianやJimmyという名前のハリケーンには強い関心を持つものの、それ以外の頭文字のハリケーンにはそれほど関心を示さず、義捐金もあまり送らないのである。つまり、「X」という滅多に用いられない頭文字の名前は、義捐金の額を減らす可能性が高いのだ。地域によっては、Q・U・X・Y・Zの頭文字は使わないケースもあるようだ。これは単に、その頭文字の名前が少ないという理由によるものかもしれないが、義捐金の獲得という観点からも、非常に理にかなっているのである。

これは影響力の武器でいうところの好意、あるいは親近感が非常に大きな差をもたらすことを意味する。ファーストネームの最初の文字ですらこのくらいの影響力を持つのである。それよりももっと強力な共通項がさらに大きな影響を持つのは想像に難くない。

よく、法人営業などでは、「短時間に相手との共通点を3つ探せ」などと言われることもあるが、これも影響力の武器の観点からは非常に合理的なアクションである。もし「同じ県出身で、好きなプロスポーツチームも同じ、趣味も同じ」となれば、一気に相手は自分に親近感を持ち、商談もうまくいく可能性が高まる。その効果は計り知れないのである。

これは本書で示された事例の1つであるが、その他にも個人的に「なるほど!」と思ったものを挙げると、

・退屈な会議を一変させる4つの工夫
・自信なさげな専門家の意見が意外に効果的な理由
・「上手な」親切とは
・個人に注目させる「ユニットアスキング」
・「すでに」と「まだ」のどちらを強調すべきか
・他人の失敗から学ぶことの有効性
・3つはひきつけるが、4つは警戒させる

などである。人によってどの部分を面白いと感じるかは千差万別だろうが、ビジネスや経営学についてある程度習熟した人間にとっても大きな発見があるのが本書の価値でもある。ましてや、ビジネスの世界に身を置いたばかりの人間にとっては、大きな発見が多数あるはずだ。

こうしたパターンを知っておくことは、部下のマネジメントやマーケティングのキャッチコピー作成、あるいは業務上のちょっとした工夫など、非常に広範に応用可能である。

本書を読む上であえて注意点を挙げるとすると、53の章が、明示的なグルーピングなく紹介されているので、どこから活用していいのか迷うという点だろう。しかし、あまり悩まずに、自分のビジネスに使えそうなところからどんどん使ってみるとよいだろう。その意味で、本書はフレームワーク本というよりは、事例紹介本と割り切る方が賢明と思われる。

また、可能ならば先行書である『影響力の武器』『影響力の武器 実践編』も読まれることを強くお勧めしたい。人を効果的に動かす、あるいは、自分が意識しないうちに人に動かされていることを見破る上でも、ぜひ読んでおきたい1冊、あるいはシリーズである。

 

『影響力の武器 戦略編: 小さな工夫が生み出す大きな効果』
(著)スティーブ・J. マーティン 、ノア・J. ゴールドスタイン 、ロバート・B. チャルディーニ
(翻訳)安藤 清志 、曽根 寛樹 
誠信書房
2200円(税込2376円)

 

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