『メルセデス・ベンツ「最高の顧客体験」の届け方』―すべてが優れていなければブランドではない 

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米国のあるビジネススクールのエグゼクティブプログラムに参加したときのこと。セッションはもちろん、食事を取る施設や毎回のメニュー、休憩時の軽食などがホテルばりに充実していることに驚いた。そこで、最終日にプログラムコーディネーターに、「なぜここまでのホスピタリティを提供するのか。学校は良質の学びを提供するだけでよいのではないか」といった質問をぶつけてみた。答えは、「以前はいわゆる『寮の食事』を提供していて、参加者からの不満はなかった。しかし、参加者に『また来たい。誰かに勧めたい』という印象を残せていないことに気づいたんだ。色々考えた結果、参加者が滞在中にここで触れるすべての体験を改善することにしたのだ」というものだった。いわく、「我が校は『マーケティングに強い』ブランドだ。ブランドの意地にかけて、我々は引き続き『顧客体験』を改善し続ける」と。

「顧客体験」といえば近年のアップルの注力ぶりがわかりやすい事例だろう。iPhoneに代表される製品自体の魅力もさることながら、開封時に驚きを与える製品パッケージや、販売よりもブランド体験に重きを置くアップルストア等がその一例に挙げられる。これら施策により、アップルがデジタル製品の分野で際立ったブランドと認知されていることはご存知のとおりである。そして、遂にこの顧客体験の波が自動車業界の強力ブランドにも押し寄せてきたことを告げるのが本書である。

本書は、米国のメルセデス・ベンツが顧客体験の改善に取り組んだ記録である。「メルセデス・ベンツ」といえば自動車に詳しくない人でも高級車として認知する世界的に強力なブランドであることに異論はなかろう。ただ、高級車市場ではメルセデス以外にもBMWやレクサスといった競合ブランドが日々しのぎを削っており、メルセデスといえどもうかうかしてられないことは想像に難くない。

一昔前のメルセデスであれば、競争から抜きん出るため、自動車のモデルチェンジや新車投入等、製品中心の取り組みが王道だったと思う。だが時代は、もはや製品のみの差別化で勝ち抜けるほど簡単ではなくなった。そこで、伸びしろの余地が多大にある「顧客体験」に焦点が当てられた、というわけだ。製品のコアや製品形態での優位性構築が難しくなったのであれば、製品を取り巻く付随機能の改善に着手する、というマーケティングのセオリーに則った動きである。

米国メルセデス・ベンツが顧客体験の改善を目指し、どのようなアクションを取ったかについては本書を手にとって確かめて欲しい。ただ、ご覧いただくとわかるのだが、設備面もさることながら、組織や人への投資もかなりなされたようである。本書が相当のページ数を組織や従業員教育に割いていることからもその重要性はうかがい知れよう。

経営者はもちろん、組織改革を進める人事担当者、顧客体験によって競合との差別化を進めたいマーケタ―など、多くのビジネスパーソンにおすすめしたい1冊である。

 

『メルセデス・ベンツ「最高の顧客体験」の届け方』
ジョゼフ・ミケーレ(著)、月沢李歌子(訳)
日本実業出版社
1850円(税込1978円)

 

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