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GE、SAP、ローランド・ベルガーが考える「インダストリー4.0」

投稿日:2017/03/02更新日:2019/04/09

第4次産業革命がもたらす製造業の新たな進化形[1]

秋山咲恵氏(以下、敬称略): G1経営者会議では昨年もインダストリー4.0をテーマにしたセッションを開催したが、そのときは「インダストリー4.0」をご存知の方はまだ少なかった。「インダストリー4.0とは何か」というところから議論をはじめていたのが1年前だったと思う。

しかし、今回はGEやSAPのような、インダストリー4.0を自社の新しいコンセプトや方向性として打ち出し、かつ具体的な施策を進めている企業の方々にお越しいただいた。これを機会として、私たちが今後の世界をどのように見ていくべきか、あるいは何をしていくことができるのかといったことを、具体的な仕事に落とし込んで考えられるのではないかと思う。

また、今日は別セッションで事業転換に関する議論もあった。本セッションも同様に、日本の基幹産業である製造業の新たな進化というテーマではあるけれども、製造業に留まらない議論ができればと思う。日本の産業界あるいは社会がインダストリー4.0によってどのように変化していくかといった視点を織り交ぜて、お話を伺えたらと思う。

まずは新野さん。ご自身は「インダストリアルインターネット推進本部長」という役職でいらっしゃるけれども、では、「インダストリアルインターネットってなんですか?」「なぜインダストリアルインターネットなんですか?」といったお話から伺ってみたい。現在、GEさんはどういった将来像を描きながら事業を進めていらっしゃるのだろう。

インダストリー4.0とは、製造業におけるデジタル・トランスフォーメーション

新野昭夫氏(以下、敬称略): 壇上にはドイツ系企業のパネリストお二方がいらして、フロアの最前列にはシーメンスの島田(太郎氏:同社専務執行役員)さんがいらっしゃる。大変なプレッシャーのなかで(笑)、お話をさせていただく。まず、なぜGEが製造業のなかでインダストリアルインターネットを掲げているかというと、危機感があった。我々はインダストリアルインターネットを「製造業向けのIoT」といった定義で括っているけれども、製造業を幅広く定義している。

そこにある危機感とは何か。たしかにUberやAirbnbのような企業は1つの脅威だ。そうした破壊的ビジネスモデルを持った企業が製造業でも現れるのではないかという危機感はもちろんある。ただ、決定的な起因は2010年頃のできごとにあった。GEは輸送用機器をつくっていて、これはハードウェアを売ったうえで長期保守契約によって利益のほとんどを稼ぐビジネスモデルだったわけだ。

ところが、あるIT企業がその領域に参入してきた。そして彼らのビッグデータ解析やAIの活用によって、これまで10~15年間の契約でプロフィットが約束されていたビジネスが一夜にしてなくなった。そういう事実がある。それで経営層も含めて「これはリアルだ」ということで、シリコンバレーにソフトウェアの拠点をつくり、そこでIT企業にいた方を1000人以上雇った。そして、ある意味では彼らに「チェンジ・エージェント」となってもらってデジタル化を進め、今に至る。

それで今年は昨年に比べて少し良くなってきているものの、とにかく製造業がこの先も生き残るためにはデジタル・トランスフォーメーションをしていかないと、皆、疲弊してしまう。今はたまたまGEが先陣を切る形になっているけれども、我々としては生き残りを賭けて、社運を賭してやっているという状態だ。

秋山: 製造業の雄GEがIT企業に仕事を奪われるという現実をご紹介いただいた。こうした動きをIT業界から見るとどうだろう。製造業に殴り込み…という表現は適切ではないかもしれないけれども、SAPはドイツにおけるインダストリー4.0の立役者とも言われている。もっとも、馬場さんご自身はシリコンバレーをベースに仕事をしていらっしゃるので、本社とは異なる立ち位置から見ている景色もあるかもしれないが、見方はいかがか。

馬場渉氏(以下、敬称略): ドイツによる国策としてのインダストリー4.0は、SAPのCEOだったヘニング・カガーマンが政府とともに推進したものだ。ただ、今日はそうしたドイツの製造業復活に向けた国策の話とは別に、SAPという会社としての文脈でインダストリー4.0のお話しをしたい。

当然、IT業界にいた私どもも大きな脅威は感じていた。ITのテクノロジーに関して申し上げると、かつては軍事産業や民間企業向けに適用されていたものが、量産価格になって大衆向けに広がっていくという流れがあった。しかし、BtoCとBtoBの垣根がなくなろうとしているなか、何年か前からはコンシューマライゼーションと言われるようなことが起きるようになってきている。BtoCのテクノロジーが企業や国に入ってくるという流れだ。

そのような流れのなかで「企業向けITというものがこのまま続くのかな」と。昔は「(ソフトウェアと言えば)IBMだオラクルだマイクロソフトだ」と言っていたものが…、マイクロソフトは少し違うかもしれないけれど、そういう風に見ていたものが、従来よりも広くなってきた。事業領域だけじゃない。タレントの面でも同じだ。若い人材が企業向けITで働こうなんて思わない。一時期、そういった傾向がシリコンバレーで顕著に表れた。

社会をより良くしていくという領域、もしくはBtoCの「生活をより豊かに安全に楽しく」という個々人の便益に関わるような領域でも、じつは企業ITが果たしている役割はとてつもなく大きい。でも、それらがあまりにも黒子なものだから、IT業界では若者のBtoB人気が大きく落ちていった。創業者はそこに危機感を持っていた。シリコンバレーの優秀なエンジニアをどうやって惹きつけるかという、タレント面での課題がまず1つあったと言える。

BPRに代表される「インダストリー3.0」を超えるために

馬場: それともう1つ。我々SAPのコア事業は標準化しづらいものを標準化すること。それによって成長してきた。特に企業が抱える難しい問題を解決したうえで、そのプロセスを標準化して量産してきたわけだ。たとえば以前は「BPR(Business Process Reengineering)」という言葉があった。で、「業務を根本的に変えるんだ」というそのBPRが掛け声倒れに終わりがちだったものを、方法論と「ERP(Enterprise Resources Planning)」のようなツール、そしてリーダー育成つまり業務改革を推進するタレントのコンピテンス開発という3点セットで、主に90年代は成長してきたと言える。

その結果、おかげさまで現在は世界GDPの約70%におよぶ8000兆円前後に、SAPのソフトがなんらかの形で関与している状況になった。ただ、「第3次産業革命のオペレーションエクセレンスを今以上究極的に高めても仕方がない」と。一方では第4次という言葉が出てくる前から、企業向けITにまったく興味を持っていなかったシリコンバレーの連中から、社会をより良くしていくための革命が起きていたわけだ。

そういう状況下、我々の本業も「当たり前のことを当たり前にやる」ということを標準化したところで、今以上の成長はないと考えた。「それなら非連続な発想のものでさえも標準化していこう」と。天才的でクリエイティブな起業家が新しいイノベーションを起こすのではなく、イノベーション自体をパッケージ化して量産可能にすれば勝てると考えた。

ということで、デザインシンキングという方法論、イノベーションを生み出すテクノロジーのツールセット、そしてイノベーターとなる人材育成つまりスキルコンピテンスの開発を、パッケージ化したうえで量産技術にしていこう、と。イノベーションの仕組みをパッケージ化することで次の成長を実現しようという考えが、私どものIoTにおける背景の1つだ。

秋山: 「標準化」や「パッケージ化」といったSAPさんらしいキーワードが出てきた。続いて長島さん。一方で日本企業のほうは現在どのようなチャレンジをしていて、どういった挫折や悩みを抱えているだろう。その辺を長島さんはよくご覧になっていると思うけれども、日本企業や日本の産業界で起きていることをどう見ていらっしゃるか伺ってみたい。

チャレンジに向かう方向性は、加速化しつつある

長島聡氏(以下、敬称略): 「ハノーバー・メッセ 2014」あたりから日本でもインダストリー4.0という話が出てくるようになった。昨年のG1経営者会議でも同様のセッションがあったとのお話だったけれども、直近1~2年で大きく変わったと感じる。以前は「効率化のツールでしょ?」「いろいろな改善を積み重ねているから現場には特に必要ないのでは?」といったムードが漂っていたけれども、最近はそうしたムードも変化してきた。

一言で表現すると、自前主義のような考え方がなくなってきている。たとえば、今は政府等の主導でIVI(Industrial Value Chain Initiative)やRRI(Robot Revolution Initiative)のような各種イニシアチブが立ち上がっている。そこで、今までは隣同士で座ることも話をすることも絶対になかったような人たちが、一緒になって議論しているわけだ。「自分の強みはこれ。これとそれをそれぞれ持ち合えばこんなことができるんじゃないか?」という風にして、たとえばテストベッド運用で協働したりするような動きが出てきていると、強く感じる。

そのうえで、「効率化もいいけど、できれば付加価値を乗せよう」と。お客さんにとっての付加価値を高めるためのチャレンジもはじまってきたと感じる。また、「中小企業もしっかり活用できるようなツールをどうやって生み出していこうか」といった動きも出てきた。今はまだ目に見える形で大きな成果が出てきているわけではないものの、とにかく、だいぶ動いているなという印象がある。

秋山: そうしたチャレンジのなかで皆さんはどんな課題や困難に直面しているのだろう。

長島: よく言われる話だけれども、日本企業はトップダウンが弱い。経営陣による旗振りがないなかで、現場は現場でそれぞれ考えていることを進めてしまっている。そこで一番困るのは…、これもあまり良い言葉ではないけれど、タコツボのなかでやっていた各機能や各部門の人たちだけに、全社的な視点で議論できる状態にない点だ。全社最適を対話のなかで生み出していくことがなかなか難しい。克服すべき課題だと思う。

 

※この記事は、2016年11月3日にグロービス経営大学院 東京校で行われた、G1経営者会議2016 第4部分化会「第4次産業革命がもたらす製造業の新たな進化形」を元に編集しました

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