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広島東洋カープに見る日本的な人事施策

投稿日:2016/10/21更新日:2019/04/09

広島東洋カープが25年ぶりにプロ野球セントラルリーグで優勝した。昨年のリーグ優勝チームは東京ヤクルトスワローズであったが、それに比べると、今回のカープ優勝は大きく取り上げられている。25年ぶりという「珍しさ」だけでなく、優勝に至るまでの「ストーリー」が、カープファンや野球ファン以外の人々の興味を引いた。

今年のカープはエース投手の前田健太(昨年の最多勝投手)がアメリカメジャーリーグに移籍したことで大幅に戦力が低下し、苦戦すると考えられていた。シーズン前の順位予想では、ほとんどの解説者がカープを4位以下(6球団中)と予想した。優勝を予想した解説者はカープOBばかりで、それは予想というよりも応援や叱咤激励の意味が大きかった。

チームは大きな戦力補強をしないままシーズンに突入したが、蓋を開けてみるとカープは開幕から快進撃を続けた。中心となったのは、昨シーズンに戻ってきた2人のベテラン選手である。メジャーリーグから年俸20億のオファーを蹴って復帰した投手の黒田博樹(41歳)と、阪神タイガースを自由契約になって8年ぶりに古巣カープに復帰した野手の新井貴浩(39歳)が精神的な支柱となってチームを引っ張った。このベテラン2人に触発されるように、生え抜きの若手選手が活躍した。特に1番から3番を打つ3人の野手(田中、菊池、丸)とエース野村(今年の最多勝投手)の27歳同学年カルテットの活躍は、カープの黄金時代到来を予想させた。ちなみに、3人の野手は学生時代に中央球界のスターではなく、カープで育てられた選手である。

内部で育てられた生え抜きの若手選手と出戻りのベテラン選手が噛み合った今回の優勝に、私は「古き良き日本的経営」の姿を見た。

日本的な人事施策

カープは「新卒一括採用中心」で、外部から優秀な社員を中途採用しないという人事施策を貫いている。また、監督やコーチもOBが中心で、75年のジョー・ルーツ監督以降は全員カープで選手経験がある人物が監督を務めている。現在のコーチ陣は全員カープOBである。

80年代までのプロ野球球団はカープに限らず新卒一括採用であり、外部から人材を引き抜くことは少なかった。その流れが変わったのが、1993年にFA制度(フリーエージェント制度)の導入である。一定の条件を満たした選手は、自らの意思で球団を移籍することが可能になった。多くの球団はこの制度を活用したが、カープは違った。これまでにFA宣言した日本人選手を獲得したことが無く、一度FA宣言した選手は引き留めない(FA宣言した選手はそのまま球団には戻れない)。カープは伝統的にマネーゲームを嫌うのだ。

FA制度の導入はカープにとって逆風となった。手塩にかけて育てた4番打者を、読売巨人軍や阪神タイガースといった大都市の人気球団に引き抜かれた(99年江藤、02年金本、07年新井)。また、近年はエース投手の海外挑戦による退団も続いた(07年黒田、15年ポスティング移籍の前田など)。

カープは新人選手を獲得する際もマネーゲームを嫌った。65年のドラフト制度(獲得を希望する球団間の「くじ引き」で優先交渉権が決まる)の導入以降、マネーゲームは(表面的には)抑制されていた。しかし、93年に大きくルールが変わった。逆指名制度・自由獲得枠制度(2006年に廃止)の導入である。球団はドラフト会議前に2名まで大学・社会人の選手を自由に獲得できたので、アマチュアのスター選手は必然的に資金力のある球団に流れていった。マネーゲームを嫌うカープは、この制度をたった一度しか使わなかった。

FA制度と自由獲得枠が導入された93年から数えて今年で23年になる。これは、カープが優勝できなかった期間の25年とほぼ重なる。カネで次々と選手を補強するチームとカープの戦力差は徐々に開いていった。

その差を埋めたのが、地道な選手育成と外国人選手の採用である。

外国人選手の採用も日本的

新卒中心主義の例外は「外国人選手」である。外国人選手は一部新卒採用(ドミニカの「カープアカデミー」という野球学校経由)の選手もいるが、基本は中途採用である。ただし、単に能力が高そうな選手を連れて来るのではなく、在外スカウトが3年間追跡したのちに「性格面」を重視して採用している。

カープの採用する外国人選手は成功例が多く、特に投手はその傾向がある。一昨年に加わった左腕エースのクリス・ジョンソン(32歳)は、アメリカのメジャーリーグでは無勝利で、マイナーリーグでも目立った成績を残せなかった選手である。昨年は最優秀防御率のタイトルを獲得し、今年はチームメイトと最多勝を争った。2009年まで在籍したコルビー・ルイス(37歳)はカープ入団前の2年間メジャーリーグで無勝利だったが、カープ退団後の6年間でメジャー65勝を挙げている。

その鍵はスカウトにある。カープの駐米スカウトはカープOBだ(元投手のシュールストロム、元野手のマクレーン)。特に投手のスカウトを担当するシュールストロム氏は優勝の陰の立役者と言われているほどである。彼は日本のある球団からの高額で移籍のオファーを受けたが、それを断ってカープに残ることを選んだという。まさに「カープ愛」である。

ここまでカープの人事施策について見てきたが、次回はカープの経営戦略について解説する。

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