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NPV: ファイナンスの基本エッセンスが凝縮

投稿日:2016/07/23更新日:2021/10/25

『グロービスMBAファイナンス』の第7章から「NPV」を紹介します。

NPV(正味現在価値)は、投資評価の基本中の基本であり、企業財務の根本的なエッセンス――キャッシュフロー、現在価値、リスク――がすべて詰まった考え方とも言えます。その応用範囲も広く、企業価値評価などもこの延長線上にあります。

ただし、NPVの原理は非常に明快かつエレガントであるものの、実際にNPVを計算するのは簡単ではありません。自社の戦略を理解することが必要ですし、各年のフリーキャッシュフローを求めたり、最終年度の残存価値を求めるのが難しいからです。そうした難しさはあるものの、NPVはいまや経営の世界においては、世界共通言語の代表格でもあります。原理を理解したうえで、適切な前提を置き、納得性の高い意思決定を行えるようになることが求められています。

(このシリーズは、グロービス経営大学院で教科書や副読本として使われている書籍から、ダイヤモンド社のご厚意により、厳選した項目を抜粋・転載するワンポイント学びコーナーです)

NPV

事業の経済的価値を評価するためには、キャッシュフロー、現在価値、リスクの3つの視点が必要であると第1章で述べた。この3つの視点を織り込んだ経済性指標が、NPV (Net Present Value、正味現在価値)である。NPVが正の数字であれば、プロジェクトには経済的価値があるということになる。したがって、投資プロジェクトに対してGoサインを出すことができる。
  

定義式からわかるように、NPVとは毎年のFCF (フリーキャッシュフロー)をN年(期間)に至るまでr(割引率)で割り引いたものの合計である。そこにおいて変数は、FCFとrとnの3つだけである。したがって、この3つの変数さえわかれば、事業の経済的価値がわかることになる。それぞれについて説明をしよう。

1. フリーキャッシュフロー

これまでの議論で、キャッシュフローという言葉は何度も使ってきた。それとは違うフリーキャッシュフローという用語が出てきたので、おやっと思う読者もいることだろう。実際、フリーキャッシュフローは、初めて接する人にはしっくりこない面がある。フリーキャッシュフローの定義は次のようになっている。

FCF
=100%株主資本で資金をまかなった場合のキャッシュフロー
=無借金だと仮定した場合のキャッシュフロー
=営業利益×(1-税率)+減価償却費-投資-Δ運転資本

フリーキャッシュフローとは、100%株主資本で資金をまかなってプロジェクトを行った場合、つまり、無借金でプロジェクトを行った場合に得られるキャッシュフローのことである。

金利費用が発生しないことになるので、通常のキャッシュフローで「純利益」に相当する部分が「営業利益×(1-税率)」、つまり、税引後営業利益となっている。それ以外は第2章で説明したキャッシュフローと同じである。

この定義に違和感を覚えるのは、プロジェクトが実際に借金を活用しても、あるいは、会社が借金を活用していても、無借金と仮定するところである。借金の有無が事業の経済的価値に影響を及ぼすのは事実である。それにもかかわらず、このような非現実的な仮定を置くのはもちろん理由がある。それは計算上の便法ということである。

キャッシュフローに借金の要素を反映させると、事業の経済的価値の源泉であるB/Sの左側(資産)と、右側のファイナンシング(負債)の要素が混在してしまい、計算が複雑になる。

そこで、いったん無借金ということにしてファイナンシングの要素を排除し、資産のリターンをフリーキャッシュフローという形で押さえる。そして、ファイナンシングの要素はすべて割引率で調整するというのが、NPVのアプローチである。

無借金という非現実的な仮定を置いて計算しても事業の経済的価値を適切に導くことができるメカニズムについては、章末の補論で説明する。

2. 割引率

割引率には資本コストであるWACCを使う。本業のプロジェクトを実施する場合は、会社の資本コストを使う。本業とは異なる事業領域の新規事業のプロジェクトを実施する場合は、その業界の資本コストを使えばよいだろう。本業とは事業リスクの異なる新規事業について、本業の資本コストで評価するのは妥当性を欠くからだ。

そういう意味から言うと、本業のプロジェクトでも、会社の資本コストの代わりに会社が属する業界の資本コストを使うこともできる。βの算定のところで説明したように、βはあくまでも近似値である。個別企業の実績に基づいたβは、その会社の事実に基づいているという点は強みだが、われわれが知りたいのは事業のリスクである。そうすると事業のリスク係数としては、業界のβのほうがノイズ(統計的な誤差)が少ないという強みがある。

また、資本構成についても個別企業で見るとさまざまな変化があるが、業界レベルで捉えると一定の傾向が見られる。例えば、製薬業界は無借金、重厚長大産業は借金が多く、エレクトロニクスはその中間にある。資本コストは資本構成の安定性を前提としているので、業界をベースにしたほうが資本構成の安定性があるという強みがある。

3. 期間

期間についてはプロジェクトの寿命に応じて設定する。事業の寿命をどう見るかという経営判断が勝負所となる。プロダクトライフが5年しか期待できなければ、プロジェクトの期間は5年で設定する。鉄などの基礎素材であれば事業ライフは半永久的と考えられるので、期間は長期で設定する。その場合は、一定の期間(例えば10年)については毎年キャッシュフローを計算して、それ以降の期間のキャッシュフローについては残存価値(ターミナルバリュー)として一括して評価する。

4. 残存価値の計算

残存価値とは、毎年のキャッシュフローを予測できる期間(例えば10年)以降のプロジェクトの経済的価値のことである。

残存価値の計算方法として用いられるのが、永続価値の定義式である。最終的には事業が安定して、キャッシュフローが一定の水準に落ち着くと想定するわけだ。例えば、10年目のFCFが1億円で、11年目からもこの金額が永続すると仮定する。割引率が5%とすれば、10年目の時点における残存価値は1/0.05=20億円となる。不動産の賃貸事業のような場合はこのようなアプローチが有効であろう。

しかし、11年も先のキャッシュフローを正確に予測することは現実的には難しい。そのため、永続価値を使った残存価値はリアリティに欠ける面がある。そこで、もう一つのアプローチとして、相場を使って残存価値を評価する方法がある。

(本項担当執筆者: グロービス・エグゼクティブ・スクール講師 山本和隆)
次回は、『グロービスMBAファイナンス』から「株価の理論値」を紹介します。

https://globis.jp/article/4600

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