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「お試し」が変化している!アクロボール、ウーノ、マキアージュの展開

投稿日:2016/03/31更新日:2019/04/09

春だ。新しいことをする季節。そのタイミングを狙って、「お試し」の販促が花盛りである。その展開方法と、成功のポイントは何なのかをいくつかの事例を元に考えていきたい。

「お試し」はAMTULで考える

「お試し」をフレームワーク的に考えるなら、態度変容モデルの「AMTUL(Awareness:認識→Memory:記憶→Trial:試行→Usage:日常使用→Loyalty:ロイヤル顧客化」がわかりやすい。Trialには「サンプルなどの無償提供による体験」と「トライアルキットなどの低価格に設定された商品購入による体験」の2種類があるが、どちらを選択するかは、ターゲットへの接触を重視するのか、接触後の(通常商品の)購買率の高さを重視するのかによる。前者は、どちらかというと、より多く体験者を増やして自然と購買してくれるのを待つスタイルなのに対し、後者の場合は、その後のフォローコミュニケーションをしっかりやることまでがセットで通信販売などの業態でよく見られる展開だ。今回は前者の事例を3つ紹介する。

とにかく大量の接触者を確保せよ!パイロットの油性ボールペンの場合

パイロットコーポレーションの油性ボールペン「アクロボール」は、滑らかな書き味が特徴だ。だが、同カテゴリーには三菱鉛筆やぺんてるなど競合が多数がひしめいている。さらに、消費者にとってボールペンはもはやコモデティー(汎用)商品の最たるもので、自分が使っている商品名を認知している人は少なく、売場でも「まぁ、どれでもいいんじゃない?強いて言うなら安いヤツかな」的な選ばれ方をしてしまう。

お試し施策は、パイロットのコモデティーカテゴリーにおける指名買いポジション獲得の緒戦ともいえる。「体験してみて(Trial)→おっ、これ何、ちょっと違う!(Awareness)→へー、アクロスボールっていうんだ(Memory)→今度からこれにしようかな(Usage)」と、態度変容モデルを若干順不同で進めさせようという意図なのだろう。

だが、その通りにコトが進むかはわからない。なので、まずはTrialしてくれる人と大量に接触しようというわけだ。サンプリングの予定は「4月3日に東京ドームで開催予定の北海道日本ハムファイの福岡ソフトバンクホークス戦(略)1万人にチームロゴの入った限定デザインのアクロボールを配布する(日経MJ2月24日号)」という。

ライフステージの変わり目を狙え!資生堂のヘアワックスの場合

資生堂のヘアワックス「ウーノ」のお試し施策は、就活生や新社会人という「ライフステージの節目」を狙っての展開だ。

日経MJ3月21日号の記事では、「富士経済によると15年のヘアスタイリング剤を含む男性用化粧品の市場規模は前年比1.8%」だという。しかし、11年間、某私大の非常勤講師も兼任している筆者の感覚で言えば、男子大学生のスタイリング剤へのこだわりは年々低下しているように思える。当然、尖ったこだわりの学生もいるが、「何か(髪に)付けてればいいんですよ」「コンビニにあるモノを買います」というような購買行動で、お気に入り・指名買いブランドがなくなっているようなのだ。恐らく辛うじて市場を拡大させているのは他のセグメントだろう。

そこで、資生堂は「青山商事の“ザ・スーツカンパニー”や丸井グループの店舗にサンプル品を置く(同紙)」という展開に出た。特に「生活の転機に合わせて服装と共に提案する(同)」「スーツ購入時であれば、ワックスを使ってまとめる髪型も提案しやすい(同)」という狙いで、学生時代とは異なる「大人な男性像を打ち出す(同)」のがポイントのようだ。その背景には「9年ぶりの(大規模な)販促で停滞気味だった売上高を伸ばしていく(同)」という同社の事情があるようだ。つまり、節目需要を喚起して、そこで体験によってブランドの刷り込みを行い、就活生や新入社員というlife Time Value(顧客生涯価値)の高いターゲットを Trial(お試し)によって「オトナのたしなみ」を学習させることで需要喚起し、Usage(日常使い)のポジションを獲得しようというわけだ。

誰に褒められたら嬉しい?資生堂マキアージュの場合

資生堂ネタが続いてしまうが、最後は資生堂の主力メークブランド「マキアージュ」だ。「オフィスで働く女性に向けて化粧品キットを提供するサービスを始める(日経MJ3月11日号)」という。「オフィス マキアージュ」という名称で、「新色のアイシャドー5色、アイライナー4色を含む合計15商品が特性ボックスに入っており、資生堂が届ける。職場の化粧室などに置いてもらい、女性従業員らが新色を試すことを想定している。商品に返却期限はなく、使い終わるまで職場で自由に楽しめる(同)」という。

これはなかなか画期的な施策だ。記事によれば、資生堂は2つの狙いを持っているようだ。「使用後は質感や使い心地などのアンケートに答えてもらい、商品や販促活動の改良につなげる」とあるが、これはよくあるフツーの話。本当の意図は「資生堂は今春、緑や青などのはっきりした差し色が特徴の新色“スパイスメーク”を提案する。店頭では試したことがない色であっても、休憩時間などに同僚同士で勧めあえば気軽に挑戦しやすい。購買意欲が上がりやすいと判断した」というから、真の狙いはこちらだろう。

マキアージュは美容部員が在席していてカウンセリングや試用ができる店舗としては、百貨店、街の化粧品専門店や、総合スーパー、ショッピングセンターの化粧品コーナーなどがある。一方、セルフで買える場所としては、ドラッグストアに加え、ホームセンター、家電店の化粧品コーナーなどがある。セルフだと、自分でちょっと肌の一部に塗って色味を確認するぐらいはできるがしっかりとしたお試しは難しい。マキアージュの主要顧客層は20~30代ということだが、その世代は美容部員とのコミュニケーションを煩わしく思う世代でもある。とすると、セルフで買ってしまって、ちょっと冒険した色などには手を出さず、購入の幅が広がらない。また、美容部員在席店舗でカウンセリングを受け、お試しをしっかりした場合でも、美容部員の「お似合いですよー」という言葉を額面通りには受け取ったり、その言葉に乗せられたりはしない世代だ。

そこで「オフィス マキアージュの」登場である。美容部員を介さずに自らお試しができる。ちょっと冒険した色使いに対して、同僚に感想を求めて「あら、意外と似合うじゃん!」とか言われれば、信用できるだろう。やはり「お似合いですよ」は商売抜きで、身近な人から言われたい。そうして楽しく仲間と色々お試しをして、「これ!」と決まれば、店頭では品番指定で最低限のコミュニケーションで煩わしさなしで購入できる。今まで接点のなかったターゲット層でも「マキアージュ」というブランドは認識(Awareness)していただろう。そこに「オフィス マキアージュ」を持ち込むことで、 Memory(会社の化粧室にいつでもある)→Trial(同僚と一緒に自分でお試し・同僚の意見も聞ける)と、お試しのハードルを極めて低くし、指名買い(Usage)のポジションを獲得しようというのが最大のポイントなのだ。

様々なカテゴリーの商品がコモデティー化して埋没している。メーカーが乾坤一擲を賭した商品を開発したとしても、ただ、店頭の棚に並べられていたらその違いは消費者には認識されない。こちらから消費者に歩み寄って、違いを試してもらうしかない。消費者が本来必要とするタイミングを見極めて、使い方を提案・教育して需要を喚起することも欠かせない。

また、今日のコミュニケーションは企業→消費者という構図だけでは通用しない。SNSなどによって親しい者同士のコミュニケーションや、消費者同士のコミュニケーションこそが信頼される時代になっている。そんな環境変化に適応するには、商品の試用や評価を消費者側に預けてしまう決断も必要だ。

今回の3つの事例から、お試し、及びAMTULというオーソドックスな手法も環境の変化に合わせて、最適化していかなければならないことがご理解いただけたら幸いである。

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