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当たり前を実現する!トヨタのグローバル人材育成

投稿日:2016/04/11更新日:2021/10/25

※本記事は、2015年11月5日に行われたセミナー「トヨタ自動車のグローバル人材育成~トヨタの人づくりの強さの本質を知る」の内容を書き起こしたものです(全3回、1回目)

福井猛氏(以下、敬称略): トヨタは、業容をグローバルに展開していることもあり、最近は企業・行政の皆様から人事の仕組みについてお問い合わせをいただく機会が増えてきた。

そこで、隠し立てすることもないのでいろいろお話をさせていただくのだけれど、すると皆様、言葉には出されないものの「なんだ(そんなことか)」と(笑)。そういった表情をなさることが多い。本当に当たり前のことしかやっていないんだろうなと思う。

トヨタの人事部門とは?

ちなみに、まず人事部門のことを少しご説明させていただくと、私どもの人事部門には3つの部署がある。1つが労働組合との交渉をはじめとした労務管理を担当する人事部。もう1つが採用から評価・配置に至る人事管理全般をカバーする人材開発部。私は現在の部署に来る前、こちらに在籍していた。そしてもう1つが研修教育や価値観の醸成を主な職務とするトヨタインスティテュート(以下、TI)だ。私は昨年、TIに異動してきた。

さて、弊社の概況はお手元の資料でご確認いただくということで詳細説明を省略させていただきたいが、新聞等々で「生産・販売台数1000万台」という数字をご覧になった方もいらっしゃると思う。これは連結ベースであり、ダイハツ工業や日野自動車の数字も合わせたものとご理解いただきたい。

そのうえでトヨタの生産台数である年900万台(2014年度実績)を地域別に見てみたい。私どもは、雇用はもちろんのこと、技術力を含めた競争力維持という観点で国内生産台数300万台にこだわり続けている。ただ、国内と海外における生産台数比率の推移を見ると10年ほど前に海外生産台数が日本のそれを上回った。で、その直後にリーマンショックが起きて、さらには品質問題で皆様にご迷惑やご心配をおかけしたことはご承知の通りだ。改めてこの場をお借りしてお詫び申しあげたい。

一方、販売台数年915万台(2014年度実績)を地域別に見てみると、日本市場のポーションは国内生産台数の半分以下。ますます低くなってきている。加えて、日本と海外における販売台数比率の推移を見てみると、すでに私が入社した1992年時点で国内と海外の割合が逆転をしている。そして、ご記憶の通り、その直後にバブル経済が崩壊したわけだ。

やや後付の理屈になるが、私どもはこうした推移に2点の学びがあると考えている。まず、私どもは今まで、将来の動向をグローバルに捉えてそれなりの手を打つことができていたように思う。で、それにはトヨタ労務管理上の強みでもある「危機感の醸成」といったものが、ある程度は寄与していたのかなというのがひとつ。ただ、その話と矛盾してしまうが、身の丈を超えた成長をしているとき大きなクラッシュに直面することがあると、私どもは考えている。この点、トヨタは破綻をきたすレベルとなる前にそうしたクラッシュを経験してきた。

次に、トヨタの価値観・行動規範についてお話ししたい。私どもが掲げる「トヨタウェイ2001」とは「競争力の源泉はこういうことなんだ」というのを示したもの。その1つ目の柱は「Continuous Improvement 知恵と改善」。知恵を絞って絶えず改善を図り、壁を乗り越えた先にイノベーションが生まれるという価値観になる。そして、もう1つの柱が「Respect for People 人間性尊重」。「人の能力は無限だ。人の創造性や創造力や考える力を最大限発揮しよう」と。それこそトヨタが持つ競争力の源泉だという価値観であって、「人間尊重」でなく「人間性尊重」とする所以でもある。

なお、「トヨタウェイ」に「2001」をつけているのは、言うまでもなく2001年に制定したから。ただ、加えて「トヨタウェイも環境変化を踏まえて常に変化または進化する可能性がある」ということを表現している。2015年現時点では変わっていないが。

また、私どもは会社が目指す方向性を中期的に示した「グローバルビジョン2020」というものも制定している。2011年3月、まさに東日本大震災前夜に公表させていただいたものだ。お客様第一を基本に、「お客様の笑顔のため、ご期待を超えていこう」ということを最大の目標に置いた。そのなかで共有すべき価値観を土台としながら持続的成長を図ることで、「もっといいクルマ」「いい町・いい社会」という果実を享受することができる、と。私どもとしては、それらを安定した経営基盤とともに循環させながら中期的成長に向けて取り組むということで、その姿を1本の木に例えている。

トヨタのグローバル人材育成

では、次にトヨタが具体的にどういった人材育成に取り組んでいるのかをご説明したい。大まかに申しあげると、私どものグローバル人材育成は、「グローバル幹部人材」、日本人以外のローカル社員である「海外事業体人材」、そしてトヨタ自動車という単独会社(以下、TMC)の社員となる「TMC人材」という3つの枠組みに分かれている。また、その共通基盤がトヨタウェイの理解と実践となる。

それぞれご説明したい。まずグローバル幹部人材は「GLOBAL*21プログラム」という制度に基づいて管理・育成している。これは「Global Leaders through Opportunities of Broader Assignment and Learning for 21st century」の略だ。従来は、いかに適正な人材をトヨタ自動車から海外に派遣したうえで地域をマネージするかがガバナンスのポイントだった。しかし、1990年代後半以降のグローバルな業容拡大に伴って、それが社内リソーセスの問題も相まって難しくなると考えた。そこで海外事業体からも積極的に幹部を抜擢・育成する方向に舵を切りはじめたという流れになる。

で、具体的に何をしているかというと、まさに当たり前のことだ。人事管理、特に報酬については各ホームカントリーの報酬市場をベースとする考え方を堅持し、そのうえで「トップレベルを目指すのか、中間レベルを目指すのか」と。統一ガイドラインを用いて、どこの地域でもだいたいどれぐらいのラインを目指すのかを示していく。

また、TMCの部長相当ポストに常時4~5名の海外ローカル人材を配置する「GATEP(Global Assignment at TMC Executive Position)」という仕組みも導入した。さらに、次長クラス10名に課長クラス20 名といった、将来の幹部候補を対象とした「LDP(Leadership Development Program)」というTMC主体のグローバル教育プログラムにも、グロービスさんのご指導等をいただきながら取り組んでいるところだ。

で、実際どこまで浸透しているかというとまだ道半ばだけれども、とにかく今は従来のポストに紐づいた職務管理から、海外で一般的とされる職能ベース、つまり個人の能力・成果に紐づいた資格ベースの管理へ切り替えている。たとえば資料にある「K1」というのは私どもで言うところの基幹職1級、世間様で言うところの部長クラスに相当する。なお、海外にはおよそ200の基幹職1級相当ポストがあって、今はその60%程度をローカル幹部が占めるというところまできた。

基幹職1級はグローバルに横並びで評価され、昇格や配置の検討を行われる。その考課要素は社内で「10ディメンション」と呼んでいて、以下の10項目となる。
1. 的確な情報収集と分析
2. 慣例にとらわれない革新的発想
3. 中長期的な展望を踏まえた対策の提示
4. 的確な状況判断と決断
5. ねばり強さ
6. 組織上の優先順位に基づいたマネジメント/リソーセスの投入
7. 仕事の枠組みづくり
8. 適切なアサインメントと厳正な評価
9. 人材育成
10. トヨタの価値観に基づいた使命とビジョンの実現

10番目は私どもらしいと言えば私どもらしいが、つまり人望という話だ。で、これらを海外のK1メンバーにもあてはめて評価している。海外へ伝える際に一番苦労するのはやっぱり人望の部分だ。

併せて、幹部候補の異動・配置を検討する「GSC(Global Succession Committee)」という会議体も設けた。そこで年に3~4回、機能と地域を代表する役員が集まって議論をする。今は地域トップが外国人幹部というケースが常となっているので皆が日本に集まるのは難しく、各地域をテレビ会議でつなげている。だから時間帯によっては欧州が午前3時でアメリカが夜中なんていうこともあるが、「人材の話だから」ということでなんとか出てもらって議論しているところだ。また、その議論をサポートする「グローバル自己申告システム」という仕組みも導入した。そこで各地域への異動の可能性も探りつつ、日本出向を含めた地域間移動を促進している。

海外事業体のローカル人材育成にも触れたい。こちらは原則として各地域・各事業体が責任を負うが、トヨタパーソンが持つべき価値観の理解や仕事の仕方といったものの習得はTMC主導で取り組んでいる。ここはTIのメイン業務のひとつだ。たとえば「ICT(Intra Company Transferee)」という仕組みもある。若手・中堅から課長クラスまでを対象に、常時500名前後を日本に呼んで、1~2年間、実務を遂行してもらいながら育成を図っていく。ちなみにTIは40名ほどの部隊だが、2015年8月末時点では2名のアメリカ人と1名の中国人、そして1名のサウジアラビア人がいた。

また、現在は問題解決や職場における人材育成といった「トヨタ流の仕事の型」といったものも、グロービスさんにご指導いただきつつ、「グローバルコンテンツ」と称して海外展開を図っている。各地域でそうしたプログラムを指導できるトレーナーを育成・養成して、少しずつ浸透を図っているところだ。トヨタ内部ではそうしたトレーナーをアドバイザーと称し、全社の各部門から優秀者を集めたうえでその役割を担ってもらっている。しかし、海外のほうはどうしても「人材育成は人事の仕事だろ?」という認識が強く、その辺の浸透は今後に向けた大きなチャレンジだと思う。

また、各地域で優秀人材を把握・育成する「RSC(Regional Succession Committee)」という枠組みも整備した。これは先ほどご説明した「GSC」と適宜連携を取って進めているところだ。やはり地域ごとに成熟度の差は出るので、各地域の特性に合わせて取り組んでいる。たとえば、欧米先進国ではトヨタの歴史も長くローカル役員も少しずつ輩出されてきた。従って、むしろ日本側のTMCが求心力を一定程度維持し、いわゆる“関東軍”とさせないようにするのが課題の1つだ。一方でアジアのほうは、ある程度の歴史はあるものの日本人の存在感がなかなか変わらず、現地人化も進まないことが悩みの1つ。だから、結果がすべてという話でもないけれど、アジアからローカル役員を出すことが当面の目標とも言える。

次はこちら

https://globis.jp/article/4116

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