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ますます必要になる「考える」ことのリテラシー教育

「読み・書き・そろばん」―――世を生きていくための基盤能力として昔の人はこの3つをあげました。こうした万人が修養すべき基盤能力を英語では「リテラシー(literacy)」といいます。昨今、その概念の適用は、「情報リテラシー」「メディアリテラシー」「金融リテラシー」「経営リテラシー」など、さまざまに広がっています。

直面する状況や扱う情報がますます複雑になるビジネスの現場において、物事をきちんと考える能力は、まさに「思考リテラシー」として求められています。なぜなら私たちは物事を考えているといっても、どれだけきちんと思考できているでしょうか。単に頭の回転が速いとか、記憶力がいいとか、文章力が優れているとかの能力の高さが、必ずしも業務パフォーマンスや事業推進力、リーダーシップ、自律的な働き方に比例していないことを私たちは知っています。また、知識はたくさん持っているのに見識がない人、語学力があってもその言葉で自分の意見を書けない人をそこかしこで見ています。

考える能力のもととなる読み、書き、計算、知識記憶はあるものの、考える切り口を見つけることができない、考える内容を豊かに持つことができない、考える自分を力強く導くことができないというのが、多くのビジネスパーソンに起こっていることです。

ビジネスパーソンに向けた思考の基盤能力を養う教育プログラムは、すでに広がりをみせています。「クリティカル/ロジカル・シンキング」や「デザイン・シンキング」がそれです。これらの思考技術は、職種・業界を問わずどんなビジネスパーソンにおいても有効なものとして教育の需要が起こっていくでしょう。ただ、教育的観点からすると、この2つの思考フレームではカバーしきれない領域の思考技術訓練がみえてきます。そこに私は、「コンセプチュアル・シンキング」を加え、研修商品化しています。

知の思考・情の思考・意の思考

哲学者カントは、人間の精神のはたらきとして「知・情・意」を考えました。人間の思考は当然そうした精神のはたらきの影響下にあります。その観点からながめると、人間の思考活動として次の3つがみえてきます───すなわち「知の思考・情の思考・意の思考」です。

例えば思考のなかでも、「鋭く分析する」「賢く判断する」「速く処理する」といったときの思考は、「知」のはたらき主導でなされる種類であるように思います。一方、「人の気持ちをくんで考える」とか「心地よさを形にする」「美しいを表現する」ときの思考は、「情」のはたらきに引っ張られているように思います。さらにはもう一つ、「深く洞察する」「総合してとらえる」「意味を掘り起こす」といった思考は、「意」のはたらきが影響する種類とみることができます。

すなわち、3つの領域の思考リテラシーとして次のように整理されます。

「知の思考」→「クリティカル/ロジカル・シンキング」
「情の思考」→「デザイン・シンキング」
「意の思考」→「コンセプチュアル・シンキング」

「知の思考」にかかわる「クリティカル/ロジカル・シンキング」は次のようなことを目指しているといえます。

・鋭い頭をつくる
・論理/客観性にもとづく思考態度をつくる
・分析力/批判力のある仕事ができる
・知識や技術を最大限生かし、効果/効率を狙う仕事をする
・万人を納得させる説明ができる

また、「情の思考」にかかわる「デザイン・シンキング」は次のようなことを目指すものではないでしょうか。

・「美しい/快い/優しい」を扱う
・共感にもとづく思考態度をつくる
・「カッコイイ/かわいい/スゴイ/面白い/ウレシイ」を形にする
・五感豊かに発想する
・美意識にもとづいた仕事表現をする
・「体験」を商品化/サービス化する

そして「意の思考」にかかわる「コンセプチュアル・シンキング」は、次のようなことを目指します。

・本質を抽象し、概念化する思考態度をつくる
・独自のとらえ方=観をつくる。そしてその観にもとづき意志のある仕事をする
・物事を深く豊かにを咀嚼(そしゃく)する
・理念にもとづいた商品/サービスをつくる、そして大局観に立った事業のグランドデザインを描く
・物事に意味を与える

なお、「意の思考」でいう「意」とは、意志、意味、意義、意図、意見です。意は「念」に通じていて、概念、観念、信念、理念にかかわります。そして意や念は、英語の「コンセプト:concept」に通じます。

コンセプトというと、何か企画を起こすときの軸となる考え方を思い浮かべる方が多いかもしれませんが、それは狭い意味で、この語は本来「つかむ・内に取り込む」という意味を持っています。私たちは感覚器官を通して物事からさまざまな刺激や情報を受け取り、意や念としてつかんでいきます。さらには経験として取り込んだものを総合して、物事の奥にひそむ本質をみようとしたり、物事に意味を与えたりします。そうして観(=物事の見方)という心のレンズを醸成します。これらの認識活動をカバーする言葉が「コンセプチュアル」です。

強い事業・商品・サービスは3つの思考を融合させてこそ

例えば、アップル社がつくりあげた一連の製品群――iMacからiPod、iPhone、iTunes、iPadに至るまで――は、いかなる種類の思考によって生み出されたのでしょう。確かに論理的思考は重要だったでしょう。複雑な市場からデータを集め、消費者心理を読み、仮説を立てて戦略を練る。そして日進月歩で変化する製品技術をマネジメントし、大規模な生産システムを動かしていく。そこには理詰めの計画・運営が不可欠です。

しかし何よりも決定的だったのは、コンセプトを起こす力であり、製品の世界観を抱く力でした。さらには「Think different」という同社が文化として持っている強力な意志の力でした。これらはコンセプチュアルな能力に属する思考です。さらには美・快の体験価値を具現化する思考力もなくてはならないものでした。あれらの道具に最初に触れたときの操作感覚の驚き、そしてウキウキ感。それらの実現には卓越したデザイン的思考を要したのです。

そうしたコンセプチュアルに考え、デザイン的に考えることを“唯我独尊的に”リードしたのが、故ステーブ・ジョブズCEOでした。しかし、彼のそうした直観的、感性的な才能のみで成功できたかといえば疑問符がつきます。彼の脇で理詰めで事をまとめていくロジカル思考部隊がいたからこそ、事業は成功に結びついたといえます。

トヨタ自動車は、創業以来、欧米の自動車メーカーにキャッチアップするために「知の思考」主導できました。生産技術を向上させ、いかに欧米製品より故障を少なくするか、より安くつくるかという経済合理性を追求してきました。そのために生産現場では「なぜ・なぜ・なぜ」を繰り返し、極限まで無駄を省きカイゼンを進めてきました。そこには明晰に問題を解くロジカルな頭が必要でした。しかし、そうやってできたクルマは品質はいいけど面白みがないねという批評も受けました。

そうした過程で、トヨタは次第に「意の思考」「情の思考」を備えていきます。90年代、同社は「ハイブリッドカー」というコンセプトのもとに意志的に市場をリードする側に立ちました。それは包括的に自動車市場や地球の環境問題をとらえ、大局観から手を打つ思考です。また、これまでの欧米の二番煎じではない、環境に配慮するリーディングメーカーとしての存在意義を社内外に宣言するものでもありました。昨今の同社はむしろこうしたコンセプチュアルな「意の思考」主導の企業として存在感を増しつつあります。ですが同時に、「FUN TO DRIVE, AGAIN.」を標榜するように、走る楽しみをモノに具現化するための「情の思考」を磨くことも忘れていません。

国内のホテル・旅館業界でいえば、星野リゾートが「知・情・意」3つの思考をバランスよく融合させている例ではないでしょうか。特に優れているのが「情の思考」です。ニッポンのお家芸ともいうべき「おもてなし」について、うわべの型だけを従業員に訓練するのではなく、だれもが「おもてなしを個々の想う形に表せるようにする考え方」を独自に編み出し、従業員に実践させているからです。おもてなしの優れた旅館なら個店として全国に少なからずあります。が、その質を維持しながら、かつ、おもてなしのアイデアを増やし、店数規模を拡大しているところは他に類を見ません。同社は、こうした優しさや心地よさを具現化する思考を主導にし、同時にロジカルに経営を考え、コンセプチュアルに自らの存在意義を考えることを重層的にやっているからこそ、現行の勢いを得ているといえるでしょう。

いずれにせよ、仕事がますます高度専門的に複雑化し、スピード化が進む中にあって、一人一人のビジネスパーソンにあらためて重要になってくるのが「考える」という基盤の能力です。論理を通す思考力、美・快を具現化する思考力、概念・意味・意志を起こす思考力。これらの基盤能力を分厚く鍛えてこそ、末端で習得する知識や技術は大きく活かされます。

スポーツにおいても華麗なプレーは、基礎体力・体幹筋・反射神経が鍛えられてはじめて可能になります。それと同じように、私たちは「知・情・意の思考力」をふだんから磨き続け、業務課題に合わせて融合させていくことで、独自で強い仕事をすることができます。そしてそうした個が能力を掛け合わせることで、独自で強い事業が生まれます。

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