キャンペーン終了まで

割引情報をチェック!

プロ野球を取り巻く厳しい経営環境。現実を直視した千葉ロッテの改革 <公開セミナー特別レポート1>

投稿日:2015/03/09更新日:2019/08/15

※2013/6/17にNumberWebに掲載された内容をGLOBIS知見録の読者向けに再掲載したものです。

プロ野球ファンは、この10年間で16%、約1000万人が減少したという。そんな厳しい環境下で、球団売上げを2004年と比べて約3倍に成長させたのが、千葉ロッテマリーンズ。12球団で下から2番目にファン数が少ないと言われる千葉ロッテは、どのようにして経営改革を成し遂げたのか。連載「スポーツで学ぶMBA講座」の番外編として5月27日に開催された、Number Web×グロービス特別公開セミナー「『千葉ロッテマリーンズの挑戦』~顧客満足度を高めるマーケティング戦略~」では、千葉ロッテの経営改革の当事者をゲストに招き、講演とグロービス大学院の葛山智子氏との対談を交えてビジネスとしての球団経営に迫った。この特別セミナーのエッセンスを3回に分けてお届けする。

227169b00d5f8401d9d973130df772f0

「球団再編騒動の頃まで、球団は年間数十億円の赤字を出していました」

と千葉ロッテマリーンズ事業本部企画部・部長代理の原田卓也氏は語った。

2004年6月に浮上した近鉄バファローズの経営悪化に伴うオリックス・ブルーウェーブとの合併話に端を発して浮上した「球団削減、1リーグ化構想」にプロ野球界は揺れに揺れ、球界初の選手会による試合ボイコットにも発展した。実はロッテにも、ダイエーとの合併、福岡移転案が浮上していたのである。

原田氏が入社したのは、2005年3月。まさに、こうした危機の最中のことだった。

プロ野球のビジネスモデルが変わった

そもそもプロ野球は、どのようなビジネスモデルとして運営されてきたのだろうか。

「DeNAの横浜ベイスターズ買収に、巨人が置かれた現状と、球団と球場の関係を掛け合わせると、スポーツビジネスの仕組みがわかります」

と原田氏は語る。いったい、どういうことだろうか。

巨人のファンは2001年の2,272万人が、10年後の2011年には1,323万人と約1000万人、40%以上も減少している(2011年PLM調査)。それを追うように横浜ファンも242万人から171万人と3割減となっている(同)。こうした中で起きたのが、2011年のTBSによる横浜ベイスターズの売却だった。

「2012年にDeNAが新規参入を果たしましたが、横浜ベイスターズの売却の際に当時の親会社であるTBSが、広告不況ということもあって赤字を計上していました。チームも10年間で8回最下位、そして巨人戦の視聴率低迷も大きかったのです」

以前は当たり前だった“夜にテレビをつければ、地上波でプロ野球中継を見られる”状況が、急速に変化していった。

「昔は放映権料が多額でしたが、今では地上波で野球中継をほとんどやらなくなってきた。そのため巨人を中心とした分配モデルが崩れてきたということです」と原田氏。

パ・リーグのファンは55%増

一方で、ロッテなどが所属するパ・リーグの現状はどうなのか?

「もちろん、プロ野球自体の露出が減ったことによる影響があるのは否めません。ただ、もともとパ・リーグ各球団は巨人の恩恵に与れていなかったので、セの球団に比べるとあまり影響を受けていない。むしろ数字で見ると、パ・リーグのファンはこの10年間で増加傾向にあるのです。この増加に関して言うと、'05年に創設された楽天、そしてソフトバンクや日本ハムなどといった地方球団が現地で盛り上がっているというのは重要なファクターです」

パ・リーグのファン人口はセ・リーグの傾向とは関係なく、2002年の1,047万人から2012年には1,619万人へと、10年間で572万人(55%)も増加しているのだ。

子どもの憧れから、野球選手が消えた

80241c2ba203e442f46f4ea6316c9277

プロ野球に吹く逆風は、テレビの視聴率だけではない。将来のプロ野球人気をになう若年層の“野球離れ”も顕著になっている。

「現在の子どもたちはサッカーなどの競技に比べて野球に触れる機会が少なくなっているんです。4歳から9歳までの年齢層で見ると、非常に低いのです。10代の男子が実際にプレーしたスポーツという観点で見ても、'09年から'11年の2年間でも経年劣化があり、上がる要素はあまりないと見ています」

笹川スポーツ財団の「スポーツライフに関する調査」によれば4歳~9歳男子が行うスポーツの実施頻度で、サッカーが42.7%と高い割合を示しているのに対して、野球は13.8%しかない。10代になると野球は27.6%まで上昇するが、それでもサッカーより13.3%も低い数字にとどまっている。

今や、子どもたちが好きなスポーツ選手に、野球選手がほとんど入らないというのが現実なのである。

プロスポーツビジネスは、多様な事業の集合体

37f4017a9e2ceb49ddc5238d3c009116

こうした厳しい経営環境の中で、原田氏は自らが取り組むビジネスをどのように考えているのだろうか。

「プロスポーツビジネスは、チケット販売はエンターテイメントビジネス、放映権については権利ビジネス、スタジアム内の飲食なら外食ビジネスなど、様々な事業をこなさなければならず、難しいビジネスと言われる所以なのです。ロッテで言えば親会社はお菓子会社ですが、(飲食以外の)すべての部門でスムーズにマネジメントしていかなければならないのです」

プロスポーツビジネスには重視するべき3要素があるという。

「まずは“マーケット”です。これは顧客、すなわちプロスポーツではファンの数、規模という捉え方になります。もう一つは“メディア”。プロ野球はメディアの注目度が高いビジネスです。ゆえに球団側がメディアをどう使うかというのは大事なポイントなのです。五輪やW杯といったビッグイベントでは顕著なのですが、メディアとタイアップしながら、どうやって先ほどの“マーケット”にリーチしていくのかが大事になります。最後は、商売をやる場所としての“スタジアム”があります。この3つをうまく組み合わせることによって、ビジネスとして成り立たせていくのです」

少ないファン人口で、どうやって球団を経営していくか

その3要素について、千葉ロッテはどのような状況なのかは知りたいところ。そんな心を見透かすかのように、原田氏はそれぞれ興味深いデータを提示する。まずは“マーケット”だ。

「いろいろな調査がありますが、千葉ロッテのファン人口(すなわち“マーケット”)は大体100万人くらいしかいないという結果が多く出ます」

ちなみにファン人口を12球団で比較した際、ロッテはだいたい11位に落ち着くことが多く、全国で一番ファンの多い巨人と比べた際には10~15倍以上の開きがある。ファンの絶対数が少ないということはマーケットとしての市場が小さいということで、売り上げの規模で苦戦を強いられてしまう。

三重苦のなかでのチャレンジ

0ff8f99d301118de6fcce558cf49dcb2

“メディア”に関しては、親会社がメディア企業の球団はもちろん、日本ハムや広島など地方の球団は地元メディアの強力なサポートを受け、結果として地域性の強いファンを獲得することができる。一方でマリーンズの場合だが、

「まずは親会社がメディア企業ではありませんし、なおかつ(東京に巨人がある)関東圏の球団なので、サポートを受けるためには難しい部分が多いのです」

そして3つ目の“スタジアム”。原田氏が重要なファクターと考えるのは立地条件である。交通の便に恵まれたスタジアムの筆頭は巨人の本拠地・東京ドームで、後楽園駅や水道橋駅(JR、地下鉄)などが徒歩5分以内の所にある。また西武ドームの場合は池袋駅から約40分もかかるが、親会社が電鉄会社という強みを生かしてスタジアムに隣接する駅があるのは有名だ。

QVCマリンフィールドに関して言えば、ここでも他球団に比べると不利な条件だ。

「海浜幕張(京葉線)が最寄駅なのですが、そこからスタジアムは徒歩15分なんです」と、12球団の中では恵まれていない。つまり千葉ロッテは、「マーケット、メディア、スタジアムの3つの重要な要素を分析しても、非常につらい条件で戦っていかなければならない」のだ。

“3つの×”を○に変える取り組み

8be38fa57c3743096a19426b5932f00d

チームは1991年に神奈川県川崎市から千葉へと本拠地を移転したわけだが、この悪条件も相まって、冒頭で紹介した原田氏の言葉通り毎年数十億円ずつ赤字を出していたのである。しかし'04年に起きた球界再編騒動によって、千葉ロッテにも変革の必要が出てきたのだ。

この流れの中で大きかったのは“球団だけ”での動きでなかった点だと振り返る。

「'05年頃から球団改革を行っていったのですが、ファンと行政の方々が立ち上がり、三位一体となって改革しようという動きが出てきたのです」

IT企業に勤務していた原田氏が千葉ロッテに入社したのは'05年のこと。当時、ダイヤモンド内で今江敏晃や西岡剛らがブレークを果たす中で、経営面における“補強”も着々と進められていたのだ。

しかし簡単に球団改革と言っても、前述した3要素は厳しいものばかり。それでも原田氏をはじめとしたメンバーはプラス思考を忘れないという。

「“3つの×”をどのようにして○に変えていくか。それこそが今でも常に僕たちがやっていることなのです」

具体的にそのカギを握る、3要素に対してのキーワードがある。

マーケットにおけるCRM(Customer Relation Management ※顧客満足度を高めつつ、自社の利益を最大化するため、顧客との取引情報を一元管理するビジネスモデル)の導入、新たなメディア戦略の展開、そしてスタジアムのボールパーク化構想の推進だ。

原田氏が取り組んだプランや仕掛けとは何か?

→ 特別レポート2は3/16公開予定

■原田 卓也氏のプロフィール
1990年慶應義塾大学法学部法律学科卒業後、15年間IT関連企業に勤務。主にセールス&マーケティングやプロダクトマネジメントを担当。
2005年3月、千葉ロッテマリーンズ入社。主にメディア/IT事業、CRM(Customer Relation Management)、事業企画等を担当し、現在企画部部長代理としてメディア事業・商品事業・IT/CRM等を所管。
また、2007年より、パリーグ6球団が共同出資したPLM(パシフィックリーグマーケティング社)設立プロジェクトにも参画。IT、コンテンツセールス、CRM等のプロジェクトを担当し、現在PLM球団ディレクターも兼務。2010年から2012年まで江戸川大学客員教授(スポーツマーケティング論)。

新着記事

新着動画コース

10分以内の動画コース

再生回数の多い動画コース

コメントの多い動画コース

オンライン学習サービス部門 20代〜30代ビジネスパーソン334名を対象とした調査の結果 4部門で高評価達成!

7日間の無料体験を試してみよう

無料会員登録

期間内に自動更新を停止いただければ、料金は一切かかりません。