「自分のために」がなければ続かない
山口:私の場合は、生産工場に裏切られたときに、まさにおっしゃったような自分がいました。工場がもぬけの殻になった光景に遭遇したときは、「こんなにやってあげたのに」という思いが湧いてきたんです。それでもまた前へ一歩進めたのは、その先に、「自分のために」という想いが出てきたからです。やはり「他人のために」だけでは続かない。ボランティア活動に継続性があるのかという問題です。「他人のために」の上に、「自分のために」がなければ、やってこれなかった。今振り返ると、それは正しかったと思います。
会場:ご自身が小学生のときにいじめられていた、という原体験がある中で、海外の子供たちを助けようと思われたということですが、なぜ日本の教育を変えようとは考えなかったんでしょうか。
山口:私は中学・高校と勉強せず柔道に打ち込んでいました。その後、慶應義塾大学に入学して、日本にはたくさん優秀な人がいるとびっくりしたわけです。自分の中では、役割分担というのが哲学としてありまして、「自分の居場所をどこに置こうかと考えたとき」に、日本はそういう優秀な人たちに任せればいいし、自分の居場所がないなと感じたんです(笑)。だったら、誰も行きたくないような過酷な場所に身を置いて、咲かせる花があればなと思い、国際的な視野でものを見るようになりました。
会場:人生は有限だと思うんですが、先程は山口さんから「ファッションに対する価値観を変えたい」というお話がありました。その夢が叶ったら、人生が終わってもいいとお考えでしょうか。
山口:ファッションに対する価値観を変えられたら死んでもいいとは、まったく思っていません(会場笑)。今の時点で自分の可能性を決めてしまいたくないし、1年後にはまた別の夢を見ているかもしれないからです。最終ゴールを決めないのが、私のスタンスなんです。
会場:今日のお話を伺って、山口さんはビジネスセンスや発想力が豊かな方だと感じました。日頃から心がけていること、アンテナを張っていることがあれば教えてください。
山口:今は四六時中、仕事に取り組んでいます。余力は残しません。その中で、一つひとつの作業から吸収できるものは、最大限に吸収したいと思っています。時間が取れない中で、妥協しないことが、突き進んでいくために大切です。
「途上国のブランドといえばマザーハウス」が最終目標
山口:どういう点を重視するかというと、「人間力」です。これまでたくさんの人と面接してきたんですけれども、最近は会ったときに、その人の周りに人の輪ができるかどうか、何となく感じられるようになってきました。例え経験や知識がなくても、その人が持っているオーラというか、人間的な魅力を持っている人を意識的に見抜こうとしています。途上国ビジネスでは、頭の良さは求められません。まったく知らない国に行って夢を語って、現地の人を巻き込めるかというのは、もう人間力しかないんですよね。そういうどんどん人を巻き込んで、一つのプロジェクトをつくり上げることができる人と一緒に頑張りたいなと思います。
会場:第2、第3の山口さんについてですが、その方々が活躍されるフィールドも、もしかしたら国籍も異なることになるかもしれません。そうすると、最初にマザーハウスが描いていたもとのは、違うデザイン、違うストーリーが出てくるんじゃないかと思いうます。それによって、マザーハウスというブランドが、バラバラになってしまう心配はないでしょうか。
山口:おっしゃる通り、デザインやプロダクトは、作り手によってまったく変わります。当社には1名のデザイナーがいるんですが、私とはデザインもテイストも、まったく違います。しかし、それは歓迎すべきことです。なぜかというと、私たちが提供するのはコンセプトブランドで、そこに多様性があるからこそ、マザーハウスの理念が生きてくるからです。お客様のターゲットを絞ってはいません。途上国の可能性をすべての人に伝えたいんです。種類の異なるプロダクトは、ラインで分けていくしかないですね。ラインによって見せ方や雰囲気がガラッと変わることで、マザーハウスの理念がより強くなる。その相乗効果もあります。
会場:マザーハウスのブランド・アイデンティティは、どのように変わっていくんでしょうか。
山崎:私たちがブランドを構築する上で必要と考えているのは、ストーリー+デザイン+クオリティです。ストーリーをつくる上で重要なのは、理念に立ち返ることです。途上国から世界に通用するブランドを発信する。途上国からのブランドと聞けば、世界中の人が「マザーハウス」を思い浮かべることが、最終目標となります。
会場:マザーハウスの一番大きなコンセプトは、発展途上国で自立したブランドをつくるというお話を伺いました。その一方で、山口さんは自分で決めて自分で突き進むということをおっしゃっていたと思います。私がそこに矛盾を感じていて、途上国の人が突き進んでいかないことには、目的は達成できないように思いますが、その点についてはいかがでしょうか。
山口:現状でも実は、途上国にも人材やリソースはあるんです。しかし、国際マーケットの情報は入ってきません。私が自分で決めて自分で突き進むのは、途上国と国際マーケットを繋ぐ部分です。私たちが、国際マーケットを相手にしたビジネスのモデルケースになって、サポートする役割を担っています。
山崎:いま現地のディレクターが日本に来ているのは、私たちが行かなくても彼らがすべてマネジメントできるようになるためなんですね。それを実現できる人材は、途上国にもいっぱいいます。
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