レコード大手エイベックス・グループ・ホールディングスの2004年3月期決算説明会の席で、依田巽会長兼社長(当時)は、その内容について「非常に健全になった」と胸を張った。2001年3月期には同社の売上高・利益の4割を稼ぎ出していた浜崎あゆみの貢献が、全体の1割程度まで下がったことに対するコメントである。
同社の04年3月期の売上高は01年同期と比べ約1割落ち込んでおり、普通に考えれば“稼ぎ頭”の売り上げが望ましくないからと、胸を張るのはおかしい。依田会長の発言の真意はどこにあったのか。
同社の04年3月期の売上高は01年同期と比べ約1割落ち込んでおり、普通に考えれば“稼ぎ頭”の売り上げが望ましくないからと、胸を張るのはおかしい。依田会長の発言の真意はどこにあったのか。
収益予測の立てづらい音楽ビジネスの特殊性
想像に難くないこととは思うが、音楽ビジネスは事業リスクが極めて高い部類に属する。多額の制作費、プロモーション費用を投入したからといって、それが消費者に受け入れられ、ヒットに至るとは限らない。一方で、レコード会社の思惑を超え、思わぬタイトルが大きなヒットとなることもある。そしてヒットさえすれば得られる利益は大きい。一般に、100タイトルのCDをリリースし、そのうち3タイトルでもヒットすれば充分に利益が残ると言われる。端的に言えば、売り上げ、利益の予測が非常にしづらいビジネスなのだ。
この予測のしづらさ、収益のブレ幅の大きさは、財務分析でよく使われる、損益分岐点分析を用いて可視化すると、さらに歴然とする(図1参照)。売上高とコスト(固定費+変動費)が一致した点が損益分岐点であり、これ以上のCDが売れれば利益が、これ以下であると損失が発生する。その差の大きさは、図からも明らかなように、(1)売上高の変動幅の激しさ(=発売してみないとヒットするか否かが分からない)および、(2)制作費やプロモーション費用などの固定費の全費用に占める割合の大きさから生じるものである。この特殊性は、そのまま株価の変動にもつながる。ヒットした場合は大きな利益が、不発の場合は大きな損失が発生するため、ヒットチャートの動きが、作品を提供するレコード会社の株価のアップダウンに直結するのだ。
株価の変動リスクの大きさの指標として「β(ベータ)」がある。これは株式市場全体が1%上昇した時に、特定の株式の価格がどれだけ変動するかを示す値だが、レコード会社のβ値は前述のような理由から一般に、株式市場の平均値である1を大きく上回る傾向にある。株価の極端な変動は、会社にとって望ましいことではない。




