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スピーカー:
世耕弘成 参議院議員 参議院自民党国会対策委員長代理
水野弘道 コラーキャピタル(英国)パートナー 京都大学 iPS細胞研究所 特任教授
山中伸弥 京都大学 iPS細胞研究所 所長 物質一細胞総合システム拠点 教授
世耕弘成氏(以下、敬称略):皆様こんにちは。本セッションでモデレーターを務めます参議院議員の世耕弘成でございます。どうぞよろしくお願い致します。それでは早速ですが、まず山中さんからiPS細胞に関してお話をしていただきたいと思います。本セッションにご参加の皆様であればiPS細胞のことはほぼおわかりかと思いますが、念のためiPS細胞とは何かというところにも簡単に触れていただきましょう。そのうえで、これまでどういった経過で進んできたか、あるいは最近どのような進展があったか。そのあたりも交えつつお話しいただきたいと思います。それでは山中さん、お願い致します。
スピーカー:
世耕弘成 参議院議員 参議院自民党国会対策委員長代理
水野弘道 コラーキャピタル(英国)パートナー 京都大学 iPS細胞研究所 特任教授
山中伸弥 京都大学 iPS細胞研究所 所長 物質一細胞総合システム拠点 教授
世耕弘成氏(以下、敬称略):皆様こんにちは。本セッションでモデレーターを務めます参議院議員の世耕弘成でございます。どうぞよろしくお願い致します。それでは早速ですが、まず山中さんからiPS細胞に関してお話をしていただきたいと思います。本セッションにご参加の皆様であればiPS細胞のことはほぼおわかりかと思いますが、念のためiPS細胞とは何かというところにも簡単に触れていただきましょう。そのうえで、これまでどういった経過で進んできたか、あるいは最近どのような進展があったか。そのあたりも交えつつお話しいただきたいと思います。それでは山中さん、お願い致します。
iPS細胞による治療効果は霊長類で確認済み、次は臨床研究の段階へ(山中)
iPS細胞には二つの大きな特徴があります。ひとつは、ほぼ無限に増やすことが可能ということです。そしてもうひとつは、増やしたあとで神経、筋肉、血液、あるいは皮膚を含めて理論的には体に存在する全ての細胞をつくり出すことができます。人の体には、たとえば骨髄のなかにある血液の幹細胞など、さまざまな幹細胞がありますが、iPS細胞はそれらの細胞と比べて増殖力が非常に大きいです。また、いろいろな細胞になることができるという点でも、他の幹細胞をはるかに凌ぐ力を持った細胞です。ただし、増え過ぎるという点が安全性の問題意識にもつながっています。たとえば「増え過ぎて癌にならないか」といった懸念があり、それらが課題にもなっています。
ちなみに水野さんにはG1サミットがきっかけで、特任教授という形で私たちの研究所を手伝っていただくことをご快諾いただきました。今週も研究所にいらしていろいろなことを教えてくださいました。そのあたりは後ほど水野さんからもお話があると思います。
iPS細胞の話に戻ります。では今お話しした二つの特色を使って私たちが何をしようとしているのか、そしてどんな医学をつくり出そうとしているのかというと、大きく分けると二つあります。ひとつはiPS細胞からつくった人間のいろいろな体の細胞を、患者さんの細胞に移植して病気や怪我を治すという、いわゆる再生医療。そしてもうひとつは実験室で使うという活用方法があります。iPS細胞からつくった人間の体細胞を使って、病気の原因を調べたり、新薬の開発を行ったりします。この二つの活用方法を視野に入れて、現在は懸命に研究を進めているところです。
今日は再生医療についての事例をひとつ紹介させてください。4年前、第1回G1サミットで講演させていただいたときはまだiPS細胞ができたばかりでした。ですからiPS細胞を使った再生医療の実現にどれほどの時間がかかるかという見通しもなかなか立てることができない状態でした。安全性の問題をはじめとしてさまざまな課題がありますので、場合によっては10年から20年かかるのではないかなと思っていました。
しかしその状況も4年で随分変わりました。今ははっきりとゴールが見えるところまできています。いくつかの病気や怪我の治療の領域で特に力を入れており、そのひとつが脊髄損傷です。私は昔整形外科医をしておりましたが、脊髄損傷の方々に何もしてあげることができないという気持ちが、iPS細胞研究へ向かった理由のひとつでした。自分も柔道やラグビーをしていて、知人が脊髄損傷になったこともあり、「何とかしたい」と思っていた怪我のひとつでした。
ひとたび脊髄損傷になってしまうとどうなるか。たとえばクリストファー・リーヴさんという『スーパーマン』で主演を演じた俳優さんは落馬事故で脊髄損傷となり、首から下が完全に麻痺する状態に陥りました。リーヴさんはご自身がそのような状態になってしまってからも、まさに本物のスーパーマンと同様、ご自身の治療だけでなく脊髄損傷の研究でも大変な貢献をしました。クリストファー・リーヴ財団という財団を設立し、10年近く、ご自身の治療にも懸命に取り組みました。
彼には目標がありました。事故に遭ったのは40代の頃だったのですが、それから5年後ぐらいの誕生日に「自分でワイングラスを持ち上げ、お世話になった家族や医療関係者にありがとうといって、その乾杯をするのだ」と。それが目標でした。本当にあらゆる努力をされたのですが、実際には全く動かなかった指が少し動くようになった程度でした。それでも奇跡的だと言われましたが、決してワイングラスを持ち上げるまでは回復せず、数年前に亡くなってしまいました。脊髄損傷はそういうところまでしか回復できなかったのです。
このような状況に対し、私たちは現在慶応大学のグループと共同研究を行なっております。iPS細胞を増やしたのちに神経の元となる神経前駆細胞をつくりだし、その細胞を脊髄損傷の部位に移植することで機能回復を図ることができるのでは、と考えています。なんとかワイングラスを持ち上げるまでには回復できるのではないか、そう期待しています。もちろん、いきなり実際の患者さんを対象にしてそのような研究はできませんから、現在は動物モデルで研究しています。
すでにマウス、つまりハツカネズミのモデル使った研究では成果が出ています。うしろ足をひきづる状態の脊髄損傷モデルのマウスにiPS細胞からつくった神経の元となる細胞を移植すると、完全ではないのですが、うしろ足を十分に使うところまで回復できることが実験結果からわかっています。人間でここまで回復したら、手の場合であれば間違いなくワイングラスを持ちあげることができると思います。
慶応大学では、現在マーモセットという小さな猿に、人間のiPS細胞からつくった神経細胞を移植するという研究も行なっていて、同じような効果が認められています。霊長類でも効果が認められたということです。今ここまで来ていますから、なんとか数年後に実際の患者さんとともに臨床研究を開始したい。それが、慶應大学の岡野栄之教授をはじめとしたグループと私たちの目標です。
このほかの活用例として、脊髄損傷よりもさらにゴールが近いとされている治療を紹介させてください。目の病気なのですが、黄斑変性という網膜の病気があります。日本人でもたくさんの患者さんがおり、失明原因の上位に入る病気です。これにiPS細胞からつくった網膜の細胞を移植し、視力回復を図る。この治療に関していえば、来年ぐらいには臨床研究を開始できるのではないかと思っております。実際の患者さんにお願いして効果や安全性を見るという試験的な研究治療が開始できると考えています。神戸の理化学研究所発生・再生科学総合研究センターの高橋政代先生という眼科の研究者が積極的に推進しておられ、ゴールがすぐそこまで来ている状態です。
iPS細胞研究所CiRAの4つの目標(山中)
山中:私が4年前に講演した当時はまだ古く狭い建物で研究していたのですが、文部科学省から数十億円のご支援をいただき、最新鋭の大変立派な研究施設を京大の敷地内につくっていただきました。研究棟が2年前の2月に完成し、その年の4月にはiPS細胞研究所という新しい部局が京大に誕生しました。現在はそこで、学生も合わせると300人程度のメンバーがiPS細胞の研究を行なっています。
研究所は‘Center for iPS Cell Research and Application’の頭文字をとって「CiRA(サイラ)」と呼んでおり、4つの目標を立てています。もちろんiPS細胞のような新しい技術ですから、研究所自体が未来永劫あるとは考えていません。まずは10年間、しっかり研究を進めたいと思っており、その10年間における達成目標が4つということです。
一つ目は、基盤技術の確立です。新しい技術ですから基盤技術をしっかり確立する。併せて知的財産、つまり特許を京都大学という公的機関で押さえていきます。ここをアメリカのベンチャーをはじめとしたプライベートセクターに押さえられると大変な高額医療になるかもしれず、非常にやりにくくなります。ですからCiRAが中心となり、京大をはじめとした日本の大学が特許をとりにいく。これがまず一つ目の目標です。
二つ目は再生医療に使えるiPS細胞を樹立し、それを日本だけでなく世界に、真の国際標準として供給することです。三つ目は先ほどお話した通り、iPS細胞をつかった再生医療の臨床研究を10年以内に開始することです。
そして四つ目は、今日は時間の関係で割愛しましたが薬の開発です。患者さんからつくったiPS細胞で病気のモデルをつくり、そのモデルを使っていろいろな薬を開発したいと考えています。特に難病および希少疾患に対する薬ですね。患者さんが国内に100人あるいは10人しかいないような病気はたくさんありますが、製薬会社もなかなかそういった病気の治療薬開発に手が出せません。利益がまず上がりませんから。そういった疾患に関して大学で薬を開発したいというのが四つめの目標です。
特許については、iPS細胞の作成方法に関する基本特許が日本で3年ほど前に成立しています。そのあとは随分苦労しましたが、去年ヨーロッパで成立、そしてアメリカでも成立しました。現在このほかにも、シンバポールやイスラエルを含めた多くの国々で京都大学のiPS細胞の基本技術特許が成立しています。ですから4つの目標のうち一つ目については、相当な部分、達成できたと考えております。とりあえず私からの現状紹介はこのあたりにとどめて、一度世耕さんにマイクを戻したいと思います(会場拍手)。
世耕:はい。山中君、ありがとうございました。ご存知の方も多いと思いますが…、山中さんと僕は中学と高校で同級生でした。その縁で「山中も来ないか」とG1サミットに誘いまして、水野さんとの出会いがあったというわけです。ロンドンで投資という、まさに生き馬の目を抜く熾烈な世界で生きていらっしゃる水野さんが、アドバイザー的立場で京都大学の特任教授となってくださった、これは日本の国益という点でもすごく大きなことだと思います。その原点はまさにG1サミットであったわけです。さて、早速水野さんにお話を伺っていきましょう。iPS細胞による再生医療について、ビジネスの視点から最近の動向への評価をお願いしたいと思います。
研究所は‘Center for iPS Cell Research and Application’の頭文字をとって「CiRA(サイラ)」と呼んでおり、4つの目標を立てています。もちろんiPS細胞のような新しい技術ですから、研究所自体が未来永劫あるとは考えていません。まずは10年間、しっかり研究を進めたいと思っており、その10年間における達成目標が4つということです。
一つ目は、基盤技術の確立です。新しい技術ですから基盤技術をしっかり確立する。併せて知的財産、つまり特許を京都大学という公的機関で押さえていきます。ここをアメリカのベンチャーをはじめとしたプライベートセクターに押さえられると大変な高額医療になるかもしれず、非常にやりにくくなります。ですからCiRAが中心となり、京大をはじめとした日本の大学が特許をとりにいく。これがまず一つ目の目標です。
二つ目は再生医療に使えるiPS細胞を樹立し、それを日本だけでなく世界に、真の国際標準として供給することです。三つ目は先ほどお話した通り、iPS細胞をつかった再生医療の臨床研究を10年以内に開始することです。
そして四つ目は、今日は時間の関係で割愛しましたが薬の開発です。患者さんからつくったiPS細胞で病気のモデルをつくり、そのモデルを使っていろいろな薬を開発したいと考えています。特に難病および希少疾患に対する薬ですね。患者さんが国内に100人あるいは10人しかいないような病気はたくさんありますが、製薬会社もなかなかそういった病気の治療薬開発に手が出せません。利益がまず上がりませんから。そういった疾患に関して大学で薬を開発したいというのが四つめの目標です。
特許については、iPS細胞の作成方法に関する基本特許が日本で3年ほど前に成立しています。そのあとは随分苦労しましたが、去年ヨーロッパで成立、そしてアメリカでも成立しました。現在このほかにも、シンバポールやイスラエルを含めた多くの国々で京都大学のiPS細胞の基本技術特許が成立しています。ですから4つの目標のうち一つ目については、相当な部分、達成できたと考えております。とりあえず私からの現状紹介はこのあたりにとどめて、一度世耕さんにマイクを戻したいと思います(会場拍手)。
世耕:はい。山中君、ありがとうございました。ご存知の方も多いと思いますが…、山中さんと僕は中学と高校で同級生でした。その縁で「山中も来ないか」とG1サミットに誘いまして、水野さんとの出会いがあったというわけです。ロンドンで投資という、まさに生き馬の目を抜く熾烈な世界で生きていらっしゃる水野さんが、アドバイザー的立場で京都大学の特任教授となってくださった、これは日本の国益という点でもすごく大きなことだと思います。その原点はまさにG1サミットであったわけです。さて、早速水野さんにお話を伺っていきましょう。iPS細胞による再生医療について、ビジネスの視点から最近の動向への評価をお願いしたいと思います。
ここ3年間で、iPS細胞はいよいよ投資の対象に(水野)
水野弘道氏
覚えておられる方もいらっしゃるかもしれませんが、3年前のG1サミットで山中先生が「寄付が必要です」といったお話をされたとき、CiRAの紹介もございました。その際にどなたからか「VCの方に質問ですが、投資としてはどうですか?」というご質問をいただき、私は、「現在は投資の対象となる“モノ”が存在しない」と回答しました。
それから3年間、私も何度か京都にお邪魔して、その後の進捗を伺ってまいりました。先ほどのお話にもあった通り、特に網膜に関しては“モノ”が存在するところまできました。特許戦略についても最低限の手当はできました。うまく押さえることができずに苦労する日本企業が多い基本特許の領域で、今回は欧米でも基本特許を獲得しています。基本特許を押さえたとはいえ実際には道半ばで、まだまだ細かい問題が多く特許戦略としてはすべきことがたくさんあると思いますが、一応、最低限の手当はできました。
まず知的財産があり、それが特許によって保護されたところでビジネス対象となります。通常は、そのあとモノができてきて初めて投資の対象になるんですね。その意味で言うと、現在はようやく投資の対象となるものができてきたのではないかと思います。
実は私自身も昨年、黄斑変性ではないのですが黄斑上膜という病気になりまして、その分野で世界最高峰と言われております阪大病院で手術を受けました。今はそのご縁もありまして大阪大学の医学系大学院で招聘准教授をやらせてもらっておりますが、大阪大学でも角膜再生という領域でiPS細胞の研究が急激に進んできております。
ここまで進んでくると、私どものようないわゆる投資資金を持つ人たちが欧米で一気に出てくるタイミングになります。ですからこれからはそうした人達の扱い方も考えていかなければいけない段階です。どのように使っていくか、もしくはどのように排除していくか。そんなところがキーになるほど、本当にこの3年間でiPS細胞の研究が急激に進んだという認識です。




