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パネリスト:
神保謙 慶應義塾大学 総合政策学部准教授
長島昭久 衆議院議員
林芳正 参議院議員
モデレーター:
渡部恒雄 東京財団 政策研究事業ディレクター(外交安全保障担当)/上席研究員
パネリスト:
神保謙 慶應義塾大学 総合政策学部准教授
長島昭久 衆議院議員
林芳正 参議院議員
モデレーター:
渡部恒雄 東京財団 政策研究事業ディレクター(外交安全保障担当)/上席研究員
経済分布、軍事力分布の二側面からパワー・バランスの変化を俯瞰する(神保)
神保謙氏
神保謙氏(以下、敬称略):慶應義塾大学の神保です。そもそも、世界の新たなパワー・バランスとは何か?。この際、世界的な富、経済の分布と、それから軍事力の分布という二つの側面から考えたいと思います。仮に中国が7%以上の成長を続け、BRICs(ブラジル、ロシア、インド、中国)、N-11(ネクストイレブン、BRICsに続く経済大国予備軍11カ国の総称。イラン・インドネシア・エジプト・韓国・トルコ・ナイジェリア・パキスタン・バングラデシュ・フィリピン・ベトナム・メキシコのこと)などの新興国が次々と台頭することで、どのような世界が出現するのか。或いは、アメリカと中国の軍事力が拮抗してきた際の世界的な安全保障はどのように保たれるのか。そうした俯瞰的な絵図の中で、日本の役回りがどう変容するかを捉え、そのうえで外交戦略の方向感を定めていくことが重要です。
世界経済の分布についてベンチマークとなるのは、2003年にゴールドマン・サックス証券が出した『BRICsとともに見る2050年への道(Dreaming with BRICs: The Path to 2050)』というレポートです。2050年には中国が世界最大の経済大国になり、アメリカは2040年頃に中国に追いつかれて、まさに「大国の興亡」の中で中国は挑戦国からいよいよ覇権国に変わっていくという内容に、世界は大きな衝撃を受けました。レポート発表当時は、まさかそんな夢のような話が、と冷笑交じりに評価されていましたが、実は今日までの推移をみると、同レポートの推計を上回るペースで新興国は経済成長を遂げてきています。当時、中国が日本の経済成長を上回るのは2016年とされていましたが、実際には昨年2010年に中国はすでに日本を追い抜きました。さらにアメリカの経済を上回るのが2041年とされていましたが、その値もゴールドマン・サックスの修正レポートでは2027年と14年も早期に修正されています。
もちろん、こうした長期的な世界経済の展望というのは、マクロ経済を学ばれた方々には言わずもがな、一つの指標に過ぎず、様々な要因により変動いたします。しかしここで重要なことは、このような推計どおりの世界が出現した際、外交・安全保障にどのような影響が及ぶかを検討しておくということだと思います。
ゴールドマン・サックス自身は、中国の経済が今後減速するとの見通しも出していますが、IMF(国際通貨基金)や世界銀行をはじめとする各機関の予測値を勘案すると、中国は今後20年間にわたり平均で7%前後の経済成長を続けると考えられています。仮に、その通りの成長を続けるとして、BRICsとN-11が一体、どの時点で既存の先進国を抜いていくかを概観すると、中国はフランス、ドイツ、日本の順に追い抜いていき、2027年にアメリカに追いつく、そして、その次にインド、ブラジル、メキシコら新興国が次々と出て、G7(日本、ドイツ、イギリス、アメリカ、フランス、イタリア、カナダ)を抜き去っていく。日米中に絞って、推計値をとってみましょうか。仮に日本が1%、アメリカが2%、中国が7%の実質経済成長を続けるとして、やはり2020年代中頃には中国がアメリカに追いついてきます。大変なスピード感で、世界経済がダイナミックに転換していくのです。そして日本はというと、X軸とほぼ並行の低空飛行のような横ばいの数字を描くと想定されます。
もう一方の、軍事力の分布についても見ていきましょう。多くの国際政治学を専門とする皆さんが、「世界経済は大きく変わるかもしれないけれども、アメリカの軍事力は圧倒的であるのでその優位性は変化しない」と論じています。例えば、核と通常戦力の兵器の威力の違いや装備体系といったもの、全世界に軍事力を展開するパワープロジェクションのノウハウ、或いは統制・指揮等やインテリジェンスの蓄積、さらにR&D(研究開発)まで含め合わせると、仮にどれほどの経済変動があったとしても、そうそう簡単に他国は追随できない、というわけです。
確かに軍事予算の額面は突出しています。アメリカの軍事費・国防費は2010年会計年度で約7000億ドルですから、それだけで日本の国家予算の7〜8割を費やしていることになります。そしてこの額面は、全世界の(アメリカ以外の国の)軍事予算の総和とほぼ同額になります。
ただ、これだけの差があるからアメリカは軍事的に安泰なのかというと、実はそうでもないと私は考えています。最も大きなトレンドとして強調しておきたいのが、昨今、中国が軍事力増強を背景に拒否能力(Denial Capability)を高めてきているという点です。いま、アメリカが朝鮮半島なり、台湾なり、南シナ海なりに何らかの作戦遂行を仕掛けるとして、中国には「我々の承諾なしに勝手に入っていくことは許さない」と、それを拒否する能力を既に保有しています。これは極めて重要なポイントで、例えば2010年に韓国の天安(チョナン)号という船が撃沈されたことを受け、アメリカと韓国が黄海で合同軍事演習を行おうとしましたが、中国の人民解放軍は断固として拒否しました。そこに込められたメッセージは、先にも申し上げたように「我々の承諾なしに朝鮮半島に入っていけるとは思うなよ」という強硬なものであり、その背景には中国の軍事力に対する自信があるわけです。
これらパワー・バランスの変化は、外交的な側面から考えれば、世界的な合意形成のメカニズムが徐々に変化していくということにほかなりません。政治経済の世界では、G20という枠組みが生まれているわけですが、アメリカと同盟国と友好国の間の連携、さらにロシアや中国といった新興国との戦略的な関係を、どのように形成していくのか。そういうことが今後10年、20年の外交政策を考えるわけでは非常に決定的な要素となります。
「安全保障のアーキテクチャ」を築くことが日本の課題(神保)
話の最後に、あと一つだけ、プロボカティブ(挑発的)に申し上げたいことがあります。それは、日中間の軍事力の差異は今後、大きく開き、日本1国のみで対中戦略を練るというのは、ほぼ不可能になっていくだろう、ということです。
経済成長率と国防費の関係から考えてみましょう。アメリカの軍事費は2010年度の数値でいうとGDP比の約4.9%、中国は公式発表では約1.7%、SIPRI等の統計では2.2%となっています日本の国防費はというと、GDP比の約0.9%です。さて、2011会計年度に関して、アメリカのゲーツ国防長官は7000億ドル規模の軍事予算を仕方なしには認めるでしょうが、向こう5年間でできる限りこの額を減らしていきたいという方針を示しています。中国はどうかというと、軍事費GDP比2.2%ということであれば約1,143億ドル、ただ、公式発表の1.4倍ぐらいの軍事費を使っているという説もあるので、仮にそうだとするとかなりの脅威と捉えなければなりません。また日本は1%の経済成長率で、国防費はずっとGDP比0.9%と仮定すると、まさにX軸の低空飛行のような横ばい状態を続けていくことになります。
そこで日中間の軍事力の差異に話が戻るのですが、2000年代において日本は中国と1対1で対抗し得る能力を保有していると言えたのですが、これから20年後には軍事費が1対7から1対10という差異に開いていく。となると、もはや1国だけでは対抗し得ない、絶望的な状況になっていきます。ただ一方で、注視したい重要なポイントがあって、それは米中間でのトランジション(変遷)は、そう簡単には起きてこないということ。ですから、アメリカの優位性を前提に、戦略を立てることはある程度までは可能なのです。もう1度繰り返しますが、軍事面で日中間のトランディションが急激に起きていくものの、米中間のトランディションが起きるまでにはまだ時間的な余地がある。この中で日本が戦略をどう立てていくべきか。これに掛かっています。
これまでお話ししてきたように、経済、軍事ともに世界的なパワー・バランスに大きな変化が起きており、この先20年の猶予期間中に、現存する秩序に元気のいい新興国をどのようにして巻き込んでいくか、日本はパートナーシップを組む国をアメリカに限らず、東アジアや東南アジアに拡大していくことが大変重要になってきます。そのために、「安全保障のアーキテクチャ」とよく呼んでいるのですけれども、アジア太平洋地域の中で、同盟関係の第1層だけではなく、より問題解決型の安全保障協力を積み上げていく第2層、そしてさらに地域的な信頼醸成を深める第3層を組み合わせていくこと。そして、日本でできることを増やしていくということですね。尖閣諸島問題に象徴されるように、日本一国のアセットでマネージできる範囲は小さいですが、少なくとも中国が手を出してくれば、何らか対応能力を発揮し、さらに背後には多国間の同盟協力というものが控えているということを明示していくことが、今後の外交安全保障政策にとって必須になるのではないか、という問題提起をさせていただきます。
渡部:コンパクトにありがとうございます。続けて長島さん、いかがでしょう。
経済成長率と国防費の関係から考えてみましょう。アメリカの軍事費は2010年度の数値でいうとGDP比の約4.9%、中国は公式発表では約1.7%、SIPRI等の統計では2.2%となっています日本の国防費はというと、GDP比の約0.9%です。さて、2011会計年度に関して、アメリカのゲーツ国防長官は7000億ドル規模の軍事予算を仕方なしには認めるでしょうが、向こう5年間でできる限りこの額を減らしていきたいという方針を示しています。中国はどうかというと、軍事費GDP比2.2%ということであれば約1,143億ドル、ただ、公式発表の1.4倍ぐらいの軍事費を使っているという説もあるので、仮にそうだとするとかなりの脅威と捉えなければなりません。また日本は1%の経済成長率で、国防費はずっとGDP比0.9%と仮定すると、まさにX軸の低空飛行のような横ばい状態を続けていくことになります。
そこで日中間の軍事力の差異に話が戻るのですが、2000年代において日本は中国と1対1で対抗し得る能力を保有していると言えたのですが、これから20年後には軍事費が1対7から1対10という差異に開いていく。となると、もはや1国だけでは対抗し得ない、絶望的な状況になっていきます。ただ一方で、注視したい重要なポイントがあって、それは米中間でのトランジション(変遷)は、そう簡単には起きてこないということ。ですから、アメリカの優位性を前提に、戦略を立てることはある程度までは可能なのです。もう1度繰り返しますが、軍事面で日中間のトランディションが急激に起きていくものの、米中間のトランディションが起きるまでにはまだ時間的な余地がある。この中で日本が戦略をどう立てていくべきか。これに掛かっています。
これまでお話ししてきたように、経済、軍事ともに世界的なパワー・バランスに大きな変化が起きており、この先20年の猶予期間中に、現存する秩序に元気のいい新興国をどのようにして巻き込んでいくか、日本はパートナーシップを組む国をアメリカに限らず、東アジアや東南アジアに拡大していくことが大変重要になってきます。そのために、「安全保障のアーキテクチャ」とよく呼んでいるのですけれども、アジア太平洋地域の中で、同盟関係の第1層だけではなく、より問題解決型の安全保障協力を積み上げていく第2層、そしてさらに地域的な信頼醸成を深める第3層を組み合わせていくこと。そして、日本でできることを増やしていくということですね。尖閣諸島問題に象徴されるように、日本一国のアセットでマネージできる範囲は小さいですが、少なくとも中国が手を出してくれば、何らか対応能力を発揮し、さらに背後には多国間の同盟協力というものが控えているということを明示していくことが、今後の外交安全保障政策にとって必須になるのではないか、という問題提起をさせていただきます。
渡部:コンパクトにありがとうございます。続けて長島さん、いかがでしょう。




