感性を生むのはノウハウではなく、意思であり、気持ちです(楠本)
僕は今日、「過去が大事」と、重ねてお話をさせていただきました。これは「IYEMON SALON KYOTO」をつくったときに感じたことですが、「おもてなし」というのは、500年前から続いていることです。おもてなしの心が生まれるのは、「この出会いが最初で最後になるかもしれない」という一期一会の精神があるからでもあります。そんな心を、僕らは今一度日本人の価値としてしっかり引き継いでいかないといけないと思いますし、それが今、少し壊れてきていると思っています。うちのカフェなんて、実際下手なこともあります。レストランに素晴らしいシェフがいるわけでもないですし。ですが、本当にその地域が好きで、お客様が好きで、自分のお店が好きという人たちの集まりではあります。最終的にはそういう想いが場所のエネルギーを生むのだと僕は信じています。こうしたエネルギーを生むことができるのも日本人の力だと思います。ですから感性を養うのはノウハウではありません。それは意思であり、気持ちであり、そしてその連続性ではないかと思うのです。
松林:以前私は発想法や創造性を養うツールにトライしたことがあるのですが、今のお話を伺って、結局はその人の心持ち次第だという想いを改めて強くしました。学校で教わる「ある種の賢さ」ではなく、どれだけピュアでいられるかということが、もしかしたら一番大事なのかもしれないですね。ツールやコンセプトに逃げてしまう人はとても多いものですが、それよりも子供の頃に持っていた純粋さを持ち続けていられるか。お二人を見ていますと、年齢は50近くでも、言っていることや立ち振る舞いがまるで小学生のようです(笑)。周りからは社長と言われているわけですが、なにかこう、やんちゃな子供二人がここで悪だくみをし合っているような情景が浮かびます。
僕自身は人と長く付き合おうとするとき、その人の中にある子供の一面を発見できるとすごく安心することがあります。あと、表情に喜怒哀楽がある人にも。たいていの人間は大人になるにしたがって、しだいに能面みたいな表情になっていくではないですか。喜怒哀楽を隠しているうちに、本当に喜怒哀楽がなくなってしまう人は特に都会に多いと思うのです。それは怖いことですよね。僕にとっては、その人が賢いかどうかということよりも、きちんと表情を出しているかどうかということのほうが大切な場合もあります。
5年あれば、何かしら変えられる(遠山)
松林:それで今、思い出したのですが、今日、ここに来る前に電車の中で食べるお寿司を買ったんです。そうしたら何と、お箸が付いていなかったんです、ちらし寿司なのに(笑)。仕方がないからそのまま手で食べるべきかどうかとか、いろいろ考えているうちにペンを2本見つけて、結局それを使って食べました。食べにくかったですが。もちろん、ちゃんと洗ったのが…、今持っている このペンです(笑)。そういえば今思い出しました。
遠山:まさにそういう話です。しかもその話がショボければショボいほどいいんです(笑)。
松林:あのときは、「なぜ箸を入れないんだ?」と思いましたが、今考えるとペンも意外と役に立つということが勉強できました(笑)。さて、そろそろお時間ですので、あとは何でも結構です。質問に対するお答えでも良いので、それぞれ何か一言お願いしたいと思っています。
遠山:私がSoup Stock Tokyoをはじめた10年前、三菱商事で企画書を配っていたとき、それを読んだ仲間の女の子が一人、その後結婚して海外で暮らすようになりました。彼女は最近になって数年ぶりに帰国したのですが、日本でものすごく驚いたことがあったというのです。「あのときの企画書が実現している!」と(笑)。すごく喜んでくれました。なんだか浦島太郎みたいな話ですよね。でも、これはよく考えると「あ、そうか。5年あれば何かしら変えられるんだ」という教訓でもあるような気がしています。私は今45歳ということで、あと3つぐらいは何か仕込めるのではないかと思っています。そのぶん今30代前半の人が本当にうらやましいです。5年あれば本当に実現できますよ。だからぜひ頑張ってください(会場:拍手)。
感性を磨くより、“ドン・キホーテ”になれ(楠本)
実は先日、沖縄の友人が6月23日の慰霊の日、ある芝居をやるというので観に行きました。その芝居は、戦争に駆り出されて死んでいった少年たちや残されていった老人たちのものがたりです。沖縄にはそんな人々がたくさんいますが、あまり語られていません。おじいさんたちも自分だけが生き延びてしまった恥ずかしさであるとか、さまざまな感情をお持ちと思うのですが、とにかく今の世代にはあまり伝わっていませんでした。それを僕の友人は3年かけて沖縄じゅうで話を聞いてまわり、舞台にしたのです。
一夜限りの公演でしたが、もう涙が止まりませんでした。何を申しあげたいかというと、僕としてはビジネスのために感性を磨くより、“ドン・キホーテ”になったほうがよいと思っている、ということです。大切なのは、「俺の役割ってこうなんじゃないか」と心から感じること、一所懸命、天真爛漫に、ピュアに、皆に伝えたいと思い続けられるようなことを、一体どれだけ持つことができるかということです。さらにそれは数ではなくて想いの強さとして、です。そうしたものが己の中に満ち溢れてきたら、あとははじめのうちは儲かるかどうかは別にして、とにかくやり続けることが重要なのだと思います。
僕にとってのそうした想いは、昔から伝わる価値をつないだり、この国にあるさまざまな価値を皆で伝えあったりする交差点としてのカフェをつくることでした。ですから皆さんも、そういったことを毎日自分なりに発見していくといいますか、探して、感じていただきたいと願っています。今日のセッションがそうしたことの何らかのきっかけになりましたらとても嬉しく思います(会場:拍手)。
松林:本当にありがとうございました。皆さん、最後にお二人へもう一度盛大な拍手をお願いいたします(会場:拍手)。




