本日は皆さまとお話しできる機会を与えていただき、大変感謝しております。本当なら勤務を終えて一杯飲もうといった時間なのに、ふたたび授業のようなものを聞くのは大変かと思います。ですから今日は、何かひとつでも皆さんのお役に立てるような話をしていきたいと思っています。『危機の経営 グローバル市場を見据えたものづくり』というテーマですが、最近は皆さんも新聞やテレビのニュースで、韓国のサムスン電子やLG電子が大変躍進していて、日本がいかにもだめになっているといった論調をずいぶん目にしていると思います。
たしかに、携帯電話、テレビ、液晶パネルといった分野では本当に敵いませんが、何故そのようになったのかをほとんどのかたが分かってらっしゃらない。私はたまたま縁あって、1987年にサムスン電子の李健煕会長と知り合いました。その後ときどき韓国へサムスンを見に行っていたのですが、当時は本当にひどい会社でした。とにかく会社の体を成していなかった。最初は三星電子と言われても、三ツ星ベルトと間違えて「どうして韓国で長靴をつくっているんだろう」なんて思っていたぐらいでしたから。
ところが危機感を抱いた会長の大号令により93年に三星電子からSamsungへと社名を変更するとともに「女房と子供以外はすべて変えよう」という悲壮な覚悟で革新を行っていったんですね。その年に私も拉致されて(会場笑)サムスンへ行きました。半年前後で戻ってこようと思っていたのですが、気が付いたら2004年まで10年間いることになりました。その間、さまざまな浮き沈みを経験しました。特に98年のIMF危機は今の日本の危機どころではなかった。金融危機で韓国の外貨がなくなってしまったわけですら。でもそれらを乗り越えてきたからこそ今日のサムスンがある。ですからどうやって危機を乗り越えてきたかということを、私の体験からお話ししたいと思っています。
たしかに、携帯電話、テレビ、液晶パネルといった分野では本当に敵いませんが、何故そのようになったのかをほとんどのかたが分かってらっしゃらない。私はたまたま縁あって、1987年にサムスン電子の李健煕会長と知り合いました。その後ときどき韓国へサムスンを見に行っていたのですが、当時は本当にひどい会社でした。とにかく会社の体を成していなかった。最初は三星電子と言われても、三ツ星ベルトと間違えて「どうして韓国で長靴をつくっているんだろう」なんて思っていたぐらいでしたから。
ところが危機感を抱いた会長の大号令により93年に三星電子からSamsungへと社名を変更するとともに「女房と子供以外はすべて変えよう」という悲壮な覚悟で革新を行っていったんですね。その年に私も拉致されて(会場笑)サムスンへ行きました。半年前後で戻ってこようと思っていたのですが、気が付いたら2004年まで10年間いることになりました。その間、さまざまな浮き沈みを経験しました。特に98年のIMF危機は今の日本の危機どころではなかった。金融危機で韓国の外貨がなくなってしまったわけですら。でもそれらを乗り越えてきたからこそ今日のサムスンがある。ですからどうやって危機を乗り越えてきたかということを、私の体験からお話ししたいと思っています。
産学官で社会インフラの国際標準を取りに行け
ひとつ目は、新興国の、いわゆる社会インフラを攻めていこうということ。新興国市場におけるテレビや白物家電といった分野では韓国に勝てないし、いずれ韓国も中国に負けるかも知れないという状況にある。それなら新興国ではまだ未整備な点の多い鉄道、ガス、水道、発電といった社会インフラに力を入れていこうということです。日本は社会インフラの整備に関して高い技術を持っていながら、これまではグローバリゼーションのなかでうまくアピールできていなかった。たとえば昨年12月にUAEのアブダビで原子力発電所建設の受注があったことはご存知ですか? 日本勢は圧倒的な技術力で受注できると信じていたのですが、あとから入ってきた韓国に持っていかれてしまった。経産省にはこれがショックでした。「どうしてだ」と。皆さんおわかりですか? 韓国は原子炉なんてつくったこともないんですよ? 使ってはいます。フランス製を15基。でも日本では、東芝、日立などがきちんと自分で原子炉をつくっている。それでも負けたんです。何故かということですよね。これは後でお話ししますが、日本は技術立国として「技術技術」と言っていますが、技術が競争優位になっていないという大きな証拠なんです。日本人は世界に誇る技術をたくさん持っていると思っていますよね。それ自体は正しい。しかし技術が競争優位に繋がっていないし、利益にも繋がっていないんです。
そもそも日本のものづくり、これは世界に冠たるものだと皆さん思ってらっしゃいますよね。ところが日本の外ではほとんど通用しない。ものづくりというと、皆さんは生産現場をイメージするでしょ? どちらかというと匠の世界。日本がこれにばかり入り込んでいたため、今日、韓国や中国勢に10年の遅れをとってしまったんです。しかし、今日お話しする「新しいものづくり」の概念を実践していけば、日本も改めて新しい高度成長に入り、日本の復活も現実のものになるだろうと私は考えています。
経済産業省が示した他の戦略についても話しておきましょう。5つの戦略のうち、二つ目は環境・エネルギーです。環境・エネルギー分野に傾注していくということは、先程お話しした社会インフラも含めて「システムとしてやっていこう」ということ。私たちはこれを「スマートコミュニティ」という言葉で表現しています。今まで政府は受注ひとつにしても民間に任せっぱなしでした。それぞれの企業が勝手ばらばらに海外で戦っていたんですね。しかし今後は政府が戦略的にトップセールスをやると言っているわけです。また、日本は技術には強くても国際標準化に弱い。独自の技術でやってしまうんです。それで負けたのが携帯電話ですね。国際標準化争いではものの見事に負けてしまいました。日本の携帯電話はNTTドコモをはじめとても優秀ですよ。でも国際標準化をしなかったから世界に相手にされず、いわゆる「ガラパゴス現象」に陥ってしまっている。だから今後は国を挙げて積極的な国際標準化に取り組んでいくということ。これを私たちはスマートコミュニティと呼んでいます。
三つ目の戦略は文化です。漫画やアニメをはじめとした日本のコンテンツは世界的にみても非常に水準が高い。これを海外へ売っていきます。今さらそんなことを言っているのですが、そもそも麻生太郎・元総理が自民党で掲げていた“アニメの殿堂”(国立メディア芸術総合センター)は民主党が潰してしまったもの。「なんで潰したのか」と思いましたけれども、あれは恐らく麻生さんが音頭をとっていたから潰されたんです、漫画が好きだから(笑)。でも、あれはつくるべきなんですよ。外国の人々が「アニメや漫画を見たい」、「日本のコンテンツを見たい」と言って日本を訪れても今は観る場所がない。せいぜい秋葉原ぐらいですよね。でも殿堂があれば世界中から人々が訪れてくれる。現在は経産省レベルでの戦略ですが、菅内閣がもし参議院で勝てば、そこでオーソライズしていくことになると思います。
四つ目の戦略は医療・介護・健康・子育てビジネス。これは我々も分科会で議論しているのですが、医療・介護・健康・子育てに関わる高度な技術を今から構築していこうという戦略です。もの凄い先端技術が採用されていく分野ですから。介護ロボットをはじめとした高齢者医療・介護に関するノウハウは、世界でも日本にしかありません。なぜなら日本が世界一の高齢化社会だからです。この現状を足がかりにして、ひとつのシステムにまとめていこうという戦略です。5〜10年もすれば韓国・中国・インドなど海外でも高齢化が進んでいきますよね。そのときにノウハウを輸出しようという遠大な計画です。
そして五つ目の戦略は、いわゆる先端技術らしい先端技術。ロボットや宇宙ステーションといった科学技術ですね。同分野における日本のプレゼンスは大したものです。アメリカやロシアが衛星を飛ばしていますが、日本だってこのあいだ「はやぶさ」が小惑星のイトカワに行って帰ってきました。アメリカも持っていないようなもの凄い技術を持っているのだから、その科学技術を輸出していこうということです。ナノテクや炭素繊維も同じです。炭素繊維については日本が圧倒的に強い。これらの技術分野で、日本はこれまで各企業が単独で戦っていました。しかしこれからは、システムとしてさまざまな連合を組んで、これを政府が後押しをしていこうということです。実現すれば大変な成果に繋がるでしょう。経済産業省はそれをやっていこうという方向になりましたから、私としては、実は日本の未来は非常に明るいと考えています。ちょっと前置きが長くなりましたが、冒頭はこのような感じで明るい話でした。これから少々暗い話になっていきます。
石橋は渡らない、金と度胸で勝負する韓国
それから、「日本のものづくりがグローバリゼーションの環境変化に立ち遅れているのではないか」という話がありました。グローバリゼーションという言葉自体は皆さんも口にしたことはあるでしょうし、聞かされたこともあるでしょう。実際、あちこちで言われていた。たしかにこの「グローバリゼーション」が非常に大きなキーワードだったんです。
日本企業の経営者もグローバリゼーションとは言いますが、本当の意味はまったく分かっていない。私はあちこちで質問しました。「つい5〜6年前は国際化と言っていたじゃないか。国際化とグローバリゼーションはどう違うんですか?」と。皆さんも考えてみてください。「英語と日本語の違いだ」なんて言う人もいました。そんなことはないですよね。国際化はinternationalizationですから。いちばん多かったのは「最近の流行語」という答えです。日本の経営者の考えはこの程度なんですよ。これでは日本が危ない。その程度のままなら本当に世界から相手にされません。日本はグローバリゼーションと国際化が大きく違い、現在の産業構造が大きく変わっていることも理解しなければいけない。昔の産業革命とは言わなくとも、それに匹敵するぐらいの大きな変化が起こっているんです。そのキーワードがグローバリゼーションなんですね。日本はそれに立ち遅れていました。
日本のものづくりはグローバリゼーションに適用していけるのでしょうか。たしかに現在の日本はガラパゴス現象に入っています。ガラパゴスというのはご存知ですよね。アフリカの南にあり、ダーウィンに種の起源という進化論の着想を与えた島です。ガラパゴスにいるゾウガメやイグアナはよその島に行くと死んでしまう。環境が変わると適応できなくなってしまうんです。日本製品もそのようなガラパゴス現象に陥っている。日本で皆さんが使っているテレビや冷蔵庫は、日本から一歩出るとほとんど使えないんですよ。アメリカなど、日本と同じレベルの豊かさを実現している一部の人々は使いますが、新興国やアジアに出て行ったらほとんどだめ。もうタダでも嫌だと言われます。グローバリゼーションに際しては、ものづくりの経営戦略と開発プロセスも当然変わってくるのですが、日本がこの変化にも気付いていませんでした。
さらに冒頭でもお話ししましたが、技術的イノベーションが競争優位の源泉に繋がっていなかった。これについては経済産業省も当初、「そんなことはない」と言っていました。「テレビや携帯といった一部の分野で負けてはいるが、他はそうじゃないんじゃないか」とね。でもアブダビで原子炉をつくったこともない国に受注を持っていかれたことが大ショックだったんだと思います。
色々と悲観的な話を続けます。日本の一人当たり名目GDPは、2000年は主要国のなかで3位でした。しかし2007年は19位、2008年は23位まで落ちてきた。もう経済大国でもなんでもないんですよ。OECDでも下から3番目。標準的に使われているIMD国際競争力でも同様の結果が出ています。93年からずっと1位だった日本は、2000年以降にどんどん順位を下げて2007年には24位、今年2010年は28位まで落ちた。アジア勢でベストテンに入ったのは台湾のみで、8位です。中国は18位、韓国は23位、そして日本が28位。これほど日本は失われていて、世界で相手にされていないんです。だから鳩山さんがアメリカに行ってあれだけ馬鹿にされたのは、鳩山さんのせいだけではないんですね。日本全体がそうなってしまったんです。バングラデシュやベトナムに行って一般の人々にジャパンだなんだと言ってみたところで、どこにあるか誰も知りません。サムスンやLGは知られているし「韓国はここだ」と分かるんです。
そんな状況に陥っているにも関わらず、研究開発投資額は2007年に19兆円で世界3位。2位はEUだから単独国家としてはアメリカに次いで2位です。同年の研究者数も社会科学を含めると71万人でアメリカとEUに続く3位。研究者の数はすごく多いんですよね。で、同年の特許取得数は…、もうダントツで1位ですね。23.1万件で、アメリカの倍以上です。このデータからも分かるように、日本は何かイノベーションや発明を起こすと特許をとってクローズしてしまうんです。過去はそれでも良かった。でも今はクローズしているとどんどん取り残されてしまう。これがグローバリゼーションにおけるひとつの特徴ではないかと思います。
もう「特許だ特許だ」と言っている時代ではないんです。新しいものを出したら公開して、仲間を増やしていくことが重要なんです。政府があれこれ騒いで争わなくとも、仲間を増やすことで皆が日本のつくった規格を守ってくれればデファクトスタンダードになっていきます。たとえば来年から地デジになりますよね。地デジにも規格がありますから、日本の総務省がグローバル化を目指して頑張っていた。ヨーロッパやアジアは相手にしてくれなかったのですが、南米はほとんど取ったんです。8カ国すべて、日本の規格で地デジを放送することになりました。しかしそんなことをやっているうち、規格はとったけれども地デジが映るテレビはぜんぶサムスンに取られてしまった。サムスンとLGはずっと見ていたんですよ。そして日本の地デジが南米を制覇しそうだとみた瞬間、一気呵成に生産していったんです。だから南米ではサムスンやLGのテレビが標準になる。日本が後から行っても、もう勝てないということで、また実をとられてしまった。総務省、NHK、パナソニック、シャープ、東芝、NEC…、彼らが連合になっていけばすべて取れていたんですよ。それを勝手ばらばらにやって国も知らんと言っているわけですから韓国に負ける。これがグローバリゼーションの大きな流れのひとつなんです。
日本の製造業では、営業利益を研究開発費で割った比率もどんどん下がってきています。お金をつぎ込んでも利益が上がらなくなっているんですね。これは今までのように、「イノベーションがあればいい」とかいう考えかただけでは世界で戦っていけないということの証拠でもあると思います。これは私の仮説ですが、韓国にいたころ日本を見ていて、どうも日本が変に見えました。日本の企業は景気が悪くなると一斉にR&D費や設備投資を抑えますよね。経費節減というやつです。皆さんの会社でも、最近は恐らく「廊下の電気を消せ」とか「新幹線はグリーンはだめだ」とか、ひどい会社になると「『のぞみ』はだめだ。『ひかり』で行け」とか言われているでしょ? これに皆さんは慣れていて、「不景気だから仕方がない」と思っていますが、そんなことはありません。経費削減の効果なんて僅かなものですよ。暗い気持ちになっているのにさらに電気を消して暗い気持ちになっちゃったら(笑)、良くないですよね。これは韓国から見ると非常に大きな指標になってしまうんです。「日本が設備投資を抑制したら、こちらが設備投資の加速をしよう」という指標に。これは目先しか考えていないから。景気が悪くなったということは、後で振りかえってみると1年から1年半前に悪くなっているということなんです。悪くなったと分かったときには上向きになっているんですね。だからそのタイミングで大きな投資を行う。無謀な投資と先見の明は紙一重です。日本の経営者はどうしても慎重になってしまいますが、韓国の経営者は「無謀な投資と分かったときにやめればいい」と考えます。金と度胸でどんと勝負するんですよ。韓国、台湾、中国に負けているのは金と度胸で勝負したものなんです。だから、負けているのはプロセス産業が多い。設備投資が鍵になりますから、半導体メモリなんてまさにそうなります。膨大な設備投資が必要になのに、日本はその判断ができない。液晶パネルや携帯電話も同様にことごとく負けてしまう。日本は金があっても度胸がないんです。グローバリゼーションでは度胸がないと勝てません。国としては「これからは金がなくても度胸がある中小企業は国が支援しよう」と、明確に掲げているわけではありませんが、そんな考えかたでやるようなことになっています。日本には、「石橋を叩いて渡る」という諺がありますよね? でも韓国は「石橋なら渡るな」という発想なんです。何故か分かりますか? 石橋なら最初に渡ってもすぐ誰かが追従してくるからです。だから「崩れそうな木の橋を急いで渡れ」ということなる。渡った瞬間に橋が崩れたら2番手以降はついて来ることができませんから。一部の例外を除き、グローバルでやろうとしたら1番しか目につかないからです。
だから韓国は何でも一番を目指します。スポーツでもなんでも一番じゃないとだめなんです。日本は豊かになったからということもありますが、オリンピックで銅メダルでも凄く喜ぶ。その意味では、韓国や中国のほうが勢いがありますね。日本が通り抜けた明治時代の『坂の上の雲』を、彼らはちょうど目指して登っているんです。目標がありますから。日本はもう目標をクリアしてしまったから坂の下の沼か何かを目指して「うわーっ」と落ちている(会場笑)。転げ落ちてはいるけれど、完全に落ちる前に辛うじて経産省がとどまろうとしているわけです。これから新しい雲を見つけようと。それが先程お話しした5つの成長戦略なんですね。




