パネリスト:
木内博一 農事組合法人和郷園 代表理事
末松広行 農林水産省 大臣官房政策課長
ファシリテーター:
松本泰幸 株式会社日本アグリマネジメント 代表取締役社長/グロービス経営大学院 客員准教授
木内博一 農事組合法人和郷園 代表理事
末松広行 農林水産省 大臣官房政策課長
ファシリテーター:
松本泰幸 株式会社日本アグリマネジメント 代表取締役社長/グロービス経営大学院 客員准教授
先進国と比べ圧倒的に少ない日本の自給率(松本)
松本泰幸氏
東京三菱銀行(現三菱東京UFJ銀行)を辞めたのが1999年でして、辞めるときから農林水産業が頭の中にありました。会社を立ち上げたのは3年前になります。こうやって前に座っていますが、まだまだこの世界に足を突っ込んだばかりという感じです。
最近農業が脚光を浴びつつあります。10年前にこのような農業セッションの分科会があったとして、今日お越しになっていらっしゃるような錚々たる方々が果たしてこの会場にいたのかと考えると、やや隔世の感がありますよね。今日は楽しく農業の問題について語っていただきたいと思います。
パネリストは、行政の立場からずっと農業に携わってこられた農政のプロフェッショナル、末松広行さん。農業者として農業に従事し、新しい農業のあり方を実践、提言なさっている木内博一さんのお二人です。それぞれの道のプロの方々から、日本の現在の農業について、本質的に何が一番大きな問題なのかということについて、お話をいただきます。また、日本の農業をこれからどうやって変えていくのか、あるいは変えなくていいのか。どうやって力を付けていくのか。具体的なご提言をいただきたいと思っています。
まず簡単にですけれども、私自身が農業に参入するにあたり考えた問題意識をご紹介しますので、日本の農業の現状をご理解いただければと思います。
まずは食料自給率についてお話します。いろんなグラフがあるんですが、よく言及されているのがカロリーベースをもとにしたものです。食料自給率がカロリーベースで現在40%。これを切ったら危ないと言われているんですが、「本当に危ないの?」と疑問に思っています。1972年は57%でしたが、1977年の時点でもうすでに53%に落ちています。食料自給率が減っているのは、今に始まったことではないんですね。4割を切るとすごく危なくて、5割を切っても大丈夫なのか。

もう一つ例を上げると、子どもの頃シンガポールにいたことがありますが、あの国は、食料自給率がほとんどないですが、食文化が豊かです。そう考えると、自給率という数字をそんなに気にする必要があるのかなという気もするわけですね。ただまあ、主要先進国の食料自給率をカロリーベースで並べると、圧倒的に日本は少ないのは確かです。

元々銀行員だった私が農業に注目したきっかけは、実は2001年の9.11アメリカ同時多発テロ事件なんです。このときに、いつでもお金に変えることができると思っていた米国債が取引できなくなった。ニューヨークでは株すら取引できなかった。国債や株はやっぱり単なる紙なんじゃないか、食えないじゃないか。最終的には自分を守ってくれないと思ったときに、資源が重要だと気付きました。あの頃から実物資産の値段が、鉱物資源を中心にすごく上がりましたよね。特に「食料安全保障」という考え方からすると、これからは日本の農業を強くしなければいけないんじゃないかという思いから、こちらの世界に入ってきたわけです。
今世界の人口は猛烈に増えています。もし日本の国力が弱くなって、新興国が出てくると、為替が円安になってしまう恐れもあります。輸出国は同じ値段で出しているつもりなのに、我々が仕入れる側になると、円安で高くなってしまう。長期的に見ると、食べるものに関してはきちんと安定して、自国で供給できる状況が必要なのではないか。食料自給率に関しては、こういったことが私の問題意識です。
次に農業の担い手という観点からすると、重要な指標は農家戸数と規模なんです。小さい農家は恐ろしい勢いで減ってきています。一方で、政策的な後押しがあったにもかかわらず、大規模な農家はほとんど増えていない。農業就業人口を見ても、農業者人口が確実に減ってきました。1959年に1700万人だったのが、2002年では850万人です。半減しました。今後さらに急激に減ることが予想されています。

さらに産業別の就業者数を見ると、一次産業はすごく少ないんですよね。日本は成熟した社会になるにつれて、三次産業の従事者が増えるというのは分かるんですけれども、では三次産業は何かといえば、いま人手不足だと言われているのは、介護の世界だったりします。介護サービスは大事な産業ですが、老人たちが持っている富を、介護サービスという媒介を通して、孫の世代に渡していく。そこでは何も生産していないんじゃないかという思いが私の頭の中にあって、そんなに儲からないけれども、何がしかプラスするようなものを、日本の中に作らなくてはいけないんじゃないかと考えます。

一次産業の農業は、何もないところに種をまいて水をやると、キャッシュが生まれるということをからすると、そんなに大きなインパクトは日本の経済の中にないのかもしれないけれども、非常に重要じゃないかと思っています。
ほかにも、耕作放棄地や食糧自給率、あるいは担い手不足という問題がメディアにもよく出てきます。その辺についてこれからお二方に、掘り下げて語っていただきたいと思っているところです。それでは末松さんのほうからお願いします。




