リスクマネー供給を米国民に頼らなくてはならない日本の現状(朝倉)
渋澤:ストーリーメイクの考え方は、自己責任というより、自己表現です。自分のストーリーを表現しましょうということです。その表現に辿り着くために、何十億も掛かる話ではありません。我々の場合は、スポットで1万円から購入できます。生命保険の引き落としのように、毎月3千円から積み立て投資もできます。金額面で個人が金融商品にたどり着けないということはありません。
我々が苦心しているのは、「証券会社を使いたくない」という意識がまだ根強いこと。これまで日本の投信の役目は、販売会社がいて、販売会社が売れるというものを供給することだったんですね。手数料をもらうことで成り立つビジネスモデルです。必ずしもファンドマネージャー自身が、心からいいと思っているファンドではなく、売れるファンドを提供しようというのが、大雑把に言えば従来型の投信会社ではないでしょうか。
我々はなるべく、直販でいこうとしています。この直販には、コモンズ投信のウェブサイトにアクセスすればたどり着けます。販売会社を使っていませんが、北海道から沖縄県まで、鳥取県を除いて全国網羅しています。指先を動すだけ、というビジネスモデルです。
会場:朝倉さんに質問です。日本の資本主義というのは、基本的に銀行が産業機構の大きな役割を背負ってきたことは異論がないところです。しかし、私が銀行系のファンドマネージャーと会うと疑問に思うことがあります。株主が銀行であるためにリスクマネーを取りきれていない。他人事のように発言をするファンドマネージャーが非常に多くいます。ここに日本の制度としての資本主義の限界があると思います。状況を変えるためには、個人が重要だという話は、とても理解できます。しかし例えば個人のファンドマネージャーが立ち上がったとしても、そこにリスクマネーを供給してくれる、例えば外資系のプレイヤーなどが引っ張るための制度が浸透していない。何か解決策はありますか。
朝倉:確かに投資ファンドと一口に言ってもいろいろあります。プライベート・エクイティ・ファンドに関しては、ご指摘の通り大きな金融機関の一部門として行う場合は限界があるということで、なるべく専業の組織で行う必要がありますね。そのような専業をつくったとしても、資金の貸し手、即ちリミテッド・パートナーと呼ばれる人たちがどういう人たちかによって、当然のことながら投資判断は影響を受けます。
非常に残念なのが、日本の場合はいわゆる独立系ファンド、あるいは外資系ファンドに資金を提供しているのは、中東のソブリン・ウエルス・ファンド(政府系ファンド)もありますが、米国のペンション・ファンドが圧倒的に多いわけです。それも二つあって、一つはパブリック・ペンションと呼ばれる公的機関の年金ファンド。最も有名なのはカリフォルニアのカルパース(カリフォルニア州職員退職年金基金)です。もう一つは、企業年金。例えばGMのペンションなどは、実は大きな資金をファンドで運用しています。これらは米国市民のお金ですから、明確なメッセージを持っています。つまり、米国以外の国に関しては、とにかく儲かる案件以外は一切投資する必要はないということです。リスクマネーを米国の国民に頼らなくてはならないということが、今の日本の状況です。これを解決しないと、日本自身の経済成長が阻害されることにもつながります。
会場:私は某都市銀行に勤めておりまして、自戒を込めての質問をいたします。日本の産業構造が硬直化しているということで、一つの解決策がベンチャーだと思っています。日本にベンチャーが活性化していませんが、それはなぜなのか。これは官庁の縦割りの弊害なのか、気力が出てこない国民性そのものに問題があるのか、市場制御があるからなのか。二つ目は、明治初期に渋澤栄一さんが無から有を生み出した。銀行がなかった時代に、銀行という制度をつくった。では、ベンチャーを活性化するベンチャー・キャピタルなどの延長線上ではなく、まったくなかったものから何かを生み出すイノベーション、そういうものはできないものでしょうか。
会場:私はものづくりの企業で現場側の立場にいます。廣瀬さんの話を伺ってきた中で、適切な投資のためには、適切な情報開示と判断基準を持って投資しなければならないというご指摘がありました。判断基準はどちらかというと、金融業界が示すものでしょうが、適切な情報開示は金融を利用して価値を上げていく我々企業側が行わなくてはならないと思っています。先般、JSOX法(日本版SOX法)適用の内部統制を調査したところ、適正意見が出されなかった企業が日本では2%あり、米国では13%あったとの報道がありました。
日本に経営者にはまだ、所有と経営が分離されてないような意識があって、内部統制やJSOX法を推進すると、外部監査法人の言いなりになりながらも、なあなあの関係でやっていると思います。だからこういう開きがでる。そういう状況の中で、外部監査法人は本質的な企業価値を上げるために、どのようにコントロールすべきかを見ていない。これを防ぐための内部統制のあり方を、そろそろ確立していかなければならない時期に来ているのではないでしょうか。その観点で、日本企業の課題を聞きたいと思います。
朝倉:ベンチャーに関しては、定義をめぐって様々な見方があると思いますが、日本に戦後できた会社はみんなベンチャー企業だったわけです。だから決して、日本はベンチャー企業ができにくい国だとは思っていません。間違っていけないのは、米国のシリコンバレーを意識すべきではないということです。あそこは米国の中でも特殊で、実験場のような環境です。米国にはシリコンバレー型ではない、普通のベンチャー企業はいっぱいあります。そしてそういうところにファイナンスしている、ローカルのベンチャー・キャピタルもいっぱいあります。むしろこちらのほうが、日本にとってはずっと参考になるでしょう。要するに、世界を席巻する技術を持たないとベンチャーにならないという考え方は、間違っているということです。そういう場所は米国の中でも、シリコンバレーにしかありません。だから、もっと広くベンチャー企業を捉えるべきです。ただし前提条件となる、ベンチャーを支えていくリスクマネーの投資の仕方や、支えていく社会的認知はまだ足りたいことは確かですね。
コンプライアンスの情報開示について言えば、これは本当に大きなイシューの一つだと思います。日本の場合、ルールが分かりにくい。日本独特のルールがあって、投資家からすると分かりにくいということがあるわけです。しかし、いわゆるパブリックな会社の情報開示と、ノンパブリックな会社の情報開示は全く意味が異なります。私自身は、主にノンパブリックな会社に投資する仕事をしています。正直言うと、監査法人のコメントやリポートは重要ですが、それは一つの参考資料でしかありません。会社を自分の目で見に行くことが必要です。我々が投資するときには、必ず会社や工場に行って、自分の目で確かめるし、経営者の顔を見て、その会社の匂いを嗅ぎます。肌で感じるということが、投資にあたってとても重要です。やはり与えられた情報+αを見つけにいくことを、あらゆる投資活動で大切にしなかればなりません。




